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◆6.チャンス?

ペットショップを出た私は、並びのスーパーで夕食の買い物をし、家路に着いた。


誰もいないマンション。


リビングの隅のおもちゃ箱から、ひょっこりと顔を出したウサギのぬいぐるみだけが、私に微笑んでくれていた。


それから、一人で聡を待ちながら、ペットショップのでの出来事を思い出していた。


私は、23歳で聡と結婚し、たった3年間のOL生活に終止符を打った。


それは聡が望んでいたわけではなく、私が望んだことだった。

結婚したら、子供は自分の手で育てたい。

聡が帰ってきたら、暖かく迎えてあげたい。

そんな少女のような夢を持って、私の結婚生活は始まった。


だから、この十年近くは、表に出て仕事をすることは無かった。

ただ、今になって思えば、あの時の少女のような夢は、現実とはかけ離れていた。


聡は結婚してすぐには子供を欲しがらなかった。

『自分がちゃんと子供を育てていけるような男になるまで作らない』

そう言って聞かなかった。

その言葉の通り、聡は仕事に没頭した。

だから、私たち夫婦は結婚してからも、一日の内のほんの僅かの時間を共に過ごすだけだった


朝、二人分の朝食を作り、小さな家の掃除をし、二人分のわずかな洗濯をして、買い物に出かける。

夕食も二人分だけ。

1日の内の数時間を家事に費やし、残りの時間は何をするでもなく、ただ時間の流れに身を任せているしかなかった。


そんな生活から、5年。

ようやく、同じ時間を過ごす娘ができた。

しかし、優生も幼稚園に通うようになり、私はまたあの頃と同じように、一人で過ごす時間

を持て余していた。

『子供は二人くらい欲しい』

と話したが、それも聞いてはもらえなかった。

『もっと自分に自信がもてたら、優生に兄弟もいてもいいのかもしれない・・・』

そんな曖昧な返事しか返ってこなかった。


私には、優生がいる。

かけがえの無い優生が。

でも、あの子は、これからどんどん成長し、私のもとから離れてしまう。

そうなった時、私は自分の時間をどう使って生きていけばいいのか、きっとわからないままなんだろう。

そう思うと、さっきのペットショップでの出来事は私にとってのチャンスではないかと思うようになっていた。

私は携帯を取り出し、メールの画面を開いた。


”今日は何時に帰れそう?相談したいことがあるから、帰りの時間わかったら、教えてくれる?”


送信ボタンを押し、私は側にあったソファーに倒れこんだ。


東京にきてから1週間、人と関わったのはほんの僅かだった。

その殆んどは事務的な関わりだけ・・・。

やっと、人と人との関わりが持てたのは、今日あのペットショップだけだった。

それがとっても嬉しかった。


しばらくすると、携帯からメールの着信音が流れた。

慌てて携帯を広げ、メールを確認する。


”今日は9時くらいには戻れると思う”


聡からのメールを読み終えると、私は、夕食の準備に取り掛かった。

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