◆62.沙希の優しさ
表に出ると、沙希は私に耳打ちをする。
「玲香ちゃん、私が最後にしてあげられるのは、このくらいしかないから」
そういうと淋しそうに先に歩き出した。
「沙希ちゃん。ありがとう。私、本当は外に出る勇気が出なくて、怖かったの」
「いいよ。本当はもっと相談とかしてもらってもよかったんだよ!!」
沙希の目は潤んでいた。
もしかしたら、沙希は真実に気がついているのかもしれない。
そう思うと、沙希の優しさが本当に温かかった。
「ねえ、駅までちゃんと送るから。それぐらいしてもいいでしょ?」
沙希は私の手を握り、ゆっくりと歩き出した。
「ありがとうね。いつも沙希ちゃんに助けてもらって、嬉しかったよ」
沙希は頷いた。
駅までの道のりは沙希と二人、何も話すこともなく静かに過ぎて行った。
私にはそれだけでも心強かった。
そして本当に嬉しかった。
私は雅弘に伝えなければならないことを、何度も頭の中で繰り返していた。
電車を降りると、ちょうど目の前にあったクリスマスツリーのイルミネーションに一斉に明かりが灯された。
「玲香ちゃん、がんばってね。後は何にもできないから。何かあったら必ず電話入れてね」
沙希はそういうと、私とは反対の方向へと歩きだした。
「がんばれーっ」
大きく手を振る沙希の笑顔が私の背中を力強く押してくれた。
そして私は、雅弘への残酷な答えを告げる為、ホテルへの道を一人歩き出した。




