◆56.隠してしまった真実
夜になるまで私は、頭の中を全て整理していた。
これは、聡と優生そして雅弘が幸せに暮らしていく為に仕方のないことだと言い聞かせていた。
私の足元では優生が、聡からもらったプレゼントのぬいぐるみを抱えて、嬉しそうにしている。
「ママ、このくまちゃんかわいいでしょ」
私は、優生が愛しくなって、抱きしめた。
「ママ?どうしたの?」
「どうもしないよ。ママは優生がとっても可愛いから」
私の目から涙がこぼれそうにるのを必死でこらえ、優生から手を離し、寝室に入った。
涙はとめどなく流れ、私は声を殺して泣いていた。
「ママ?」
ドアの向こうで優生が私を呼んでる。
「・・・うん」
「どうしたの、どっかいたいの?」
優生はドアを開けて中に入ってきた。
「違うよ。優生が可愛いから、嬉しくて、それで」
私の涙を見て優生は目を潤ませた。
「ママ、ないちゃダメだよ」
「ごめんね。変だよね、ママ」
私は優生への愛しさと同じだけ、自らのお腹のなかに宿った命へ愛しさが芽生えていることに気が付いた。
「パパね、もうすぐかえってくるからね。なかないで」
優生はそう言うと、私の頭をよしよしと撫でてくれた。
優生の優しい気持ちが、本当に嬉しかった。
『ピンポーン』
チャイムの音ともに、聡が入ってきた。
「ただいま!!」
聡の足音がどんどん近づいてきた。
「パパ、おかえり」
優生は寝室から駆け出して、聡を出迎えた。
「おぉ。ママは?」
優生は、聡にコソコソと何かを話をしているようだった。
私は、近くにあった鏡で、自分の顔を確認し、聡のいるリビングに向かった。
「ただいま」
そこにはいつもと変わりない聡の姿があった。
「おかえりなさい」
私はそのまま、キッチンに向かい、聡の夕食を温めはじめた。
「なんかあったか?優生が心配してたぞ」
「ごめんなさい」
私はそういうと、ダイニングテーブルに聡の夕食を並べ始めた。
「昨日のことか?それだったら・・・」
聡がそう言い掛けた時、私は深呼吸をして
「あのね、話があるの」
私の顔は思いつめた顔をしていたのだろう。
聡は、私を覗き込み
「おぉ。なんだ?」
その顔は、出会った頃の聡の優しい顔だった。
「食べながらでいいから」
「おぉ」
聡はそっと椅子を引き
「玲香も座りな」
そう言って、席に着いた。
「あのね、赤ちゃんができたみたいなんだけど」
私は祈るような気持ちで、聡の返事を静かに待った。
「そっか・・・・」
聡はそう言うと、天井を見上げ
「今度は男の子がいいな」
にっこりと笑い、優生のいるリビングに向かった。
「優生はおねえちゃんになりたいか?」
優生のきょとんとした顔見て
「優生、ママに赤ちゃんができたって。優生もおねえちゃんになるんだぞ」
そう言って、優生を抱き上げ高い高いをした。
「ほんとに?やったぁ!!」
聡が喜んでいる姿を見て、私は涙をこらえることができなかった。
私の姿に気付いた聡は
「玲香?どうした?」
優生を抱えたまま心配そうに私の隣に戻ってきた。
「違うの、反対されると思ったから」
「そんなことないよ。前は自分のことばっかりだったから、あんなこと言ったけど、嬉しいよ。」
聡の手が私のお腹にそっと近づいた。
「出てこいよ。可愛がってやるからな」
絵に描いたような幸せな家族。
今の私達は誰からみてもそんな風に見えるだろう。
ただ一つの真実を覗いては・・・。
私の中に隠してしまった真実。
私はこれから一生、聡や優生に真実を隠して生きていく。
それは私が起こしてしまったことへの罰。
お腹の子には罪はない。
私が一生をかけて守っていく。
そう決心をしたんだから・・・・。




