◆47.沙希と私
お店に着くと、私はいつものように掃除をはじめた。
沙希は散歩に出かけている。
ゆっくりとした時間が流れ、何もかもを忘れられる空間は、今はここだけなのかもしれないと思ってしまう。
私はエプロンの紐を結びなおし、気持ちも一緒に引き締めるように、奥の掃除に向かった。
「ただいまぁ」
沙希の声が聞こえる。
「おかえり」
最近彼女はとても綺麗になった。
恋をすると女は綺麗になるという。
(私はどうなんだろう。疲れ果てた顔をしているんじゃないかな?)
すっと沙希が隣にやってきて
「なんか最近玲香ちゃんいつもと違うよね」
「そうかな?」
「そうだよ。何かあると落ち込んだり、かと思えば明るくなったり」
「自分では全然分かんないけどね」
私はさっきの雅弘の言葉を重ねながら、笑って見せた。
「ねぇ。五十嵐さんとどうなっちゃったの?私も自分のことでいっぱいになっちゃってたし、玲香ちゃんもあれから何にも言わないし、心配してるんですからね。これでも、い・ち・お・う!!」
沙希の声がどんどん大きくなる。
「しっー」
店長に聞こえてしまう。
私の顔を見てハッと我に返った沙希は奥を覗き込んで
「聞こえてないから」
そう言うと、軽くウインクをして、奥に戻っていった。
沙希が言うように、私は自分の中の気持ちの整理もできず、その話題で沙希と話をすることもなかった。
「ねえ、今日は玲香ちゃんトコにいこうかな?」
沙希が甘えた声で覗き込む。
「ごめんね。今日は聡が早く帰ってくるの」
沙希は目を丸くして驚いた。
「えぇぇっ!!旦那さんどうしちゃったの?」
沙希のリアクションがあまりにも真っ直ぐで可愛い。
「いろいろあって、少し変わってくれたみたい」
「そうなんだ・・・」
先は複雑な顔をした。
「じゃあ・・・」
沙希の言いたいことはすぐに分かった。
私はそれを遮るように
「店長にばれたら、怒られちゃうぞ!!」
そう言って、残りの仕事を片付けに、沙希の隣から離れた。
沙希はそれからずっと、私の顔を覗いては、ため息をつく。
さっきの私の態度に、怒っているのだろう。
無理もない。
沙希がいてくれなかったら、私は雅弘と愛し合うこともなかった。
私と雅弘とを結び合わせてくれたのは、間違いなく沙希なのだから。
いつになく静かな空気がお店の中に流れ、時計は3時になっていた。
「店長、沙希ちゃんお先に失礼します」
沙希はこちらを向いて軽く手を振った。
沙希には悪い事をした。
そう思いながらも、自分ですら分からなくなった気持ちを整理することもできなくなっていた。




