◆46.迷い
私は優生と幼稚園の門の前間で送ると、そのままお店へと方向を変えた。
今日のような聡が毎日続いてくれたなら、どんなに心が楽だろう。
違う・・・。
聡が優しくなればなるだけ、私の中の罪の意識は大きくなっていく。
私の罪は決して許されるものではない。
その時、携帯が鞄の中で震えだした。
私は慌てて携帯を取り出し、確認する。
雅弘からの電話だ。
(このまま出ないでおこうか・・・)
今朝の家族3人での光景がフラッシュバックする。
(でも、雅弘の声が聞きたい!!)
葛藤の中、私は、携帯のボタンを押す。
「もしもし」
「よかっった。出てくれて」
雅弘の声はいつになく温かい。
「ねえ。最近なんだか僕に冷たいのはどうして?」
単刀直入の雅弘の質問に言葉がない。
「いいんだよ。でも、ちょっと淋しかったから」
雅弘の声のトーンが低くなる。
「ごめんなさい。私、家のほうがバタバタしてて」
雅弘は黙って聞いている。
「あのさ、何か欲しいものはないの?」
突然の質問に答えが見当たらない。
「どうしたの?突然?」
「うん。もうすぐ君の誕生日・・・じゃない?」
私は、自分の誕生日が近づいていることをすっかり忘れていた。
「嬉しいけど、何にもいらない」
「どうして?」
「・・・・」
「遠慮しないで、君の欲しいものあったら教えて」
「ありがとう」
私は、聡のことを思い浮かべていた。
聡は私の誕生日を覚えていてくれてるだろうか?
「じゃあ、何かあったらメールしてね」
雅弘はそう言うと、
「ちょっと待って」
「うん」
「玲香、愛してる」
雅弘の甘い言葉が心地いい。
「私も愛してる」
「嬉しいよ。君に出会えて」
雅弘はそう言って
「じゃあ、切るね」
私は雅弘への想いが大きくなる前に、電話を切りたかった。
「うん。じゃ・・・・」
彼の返事と共に私は携帯を閉じた。
私にとって雅弘と聡は夢と現実。
ぐるぐると目の前を回りながら、私は迷路に迷い込む。
この迷路に出口ははい。
きっとない。
私は、モヤモヤした気持ちを一緒に連れて、お店へと向かった。




