◆41.2週間後
あれから、まだ私達はベッドの中にいた。
何をするでもない。
ただ黙ってテーブルの時計に目をやり、数字が変わるたびに寂しさを募らせた。
「ねえ。今日は何時までいられるの?」
雅弘はずっとそれが聞きたかったに違いない。
「9時くらいかな?」
「そう・・・」
雅弘は時計を見ながら、
「あと3時間しかない」
そう言って起き上がった。
「ねえ、こっちに来て」
私はベッドのシーツをそっとはがして包まりながらの雅弘の側に移動する。
「玲香、いつも君は素敵だよ」
そう言うと、大きな窓から、駅のほうを見下ろした。
会社や学校帰りの人たち行きかい、駅は人でごったがえしていた。
「ねえ、こんなに沢山の人がいるのに、僕達はどうして出会えたんだろう」
雅弘の横顔がとっても綺麗に写る。
何も言葉が見つからない。
「ねえ。僕を愛してる?」
「どうしたの?今日は?」
今日の雅弘は少しおかしい。
「不安なんだ。この間みたいに、急に君が僕の前からいなくなっちゃうんじゃないかってね」
窓際に腰を下ろし、また駅のほうに視線を送る。
「かわいい」
私は雅弘の頭をいい子いい子するようにそっと撫でる。
「玲香。このままどこかに行っちゃおうか?」
雅弘の言葉に少し驚いたが
「だめ。それは無理だから」
そう言って宥めた。
(私も許されるなら、どこか知らない場所に行ってしまいたい)
本当はそう言いたかった。
「今、僕達がこうしているのを誰か想像しているのかな?ここに僕達がいることに誰か気付くかな?」
行きかう人たちに私たちの姿が見えるはずもなく、私は雅弘の隣に並んで腰を下ろして
「二人だけの時間を邪魔されたくない」
小さな声で呟いてみる。
雅弘は頷いて
「少し寒くなってきたね。東京も」
そう言うと私に体を寄せてくる。
私は体を包んであったシーツを少しだけ広げ、雅弘の上に覆いかぶさる。
「暖かい?」
「うん」
二人は同じシーツの中でぬくもりを分け合うように触れ合った。
「ねえ。今度はいつ会える?」
別れの時間が近くなると、雅弘は決まってこう言う。
「2週間後・・・」
雅弘はこくりと頷き、シーツからそっと出ると、隣の部屋に向かった。
「これ、持ってて」
手には携帯が1つ。
「玲香と僕と二人だけの連絡用」
私がそれを受け取ると
「いつでも電話して。今日みたいなのでもいいから」
雅弘の言葉が嬉しい。
「でも、今日みたいなことはしない。私、どうかしてたみたい」
「どうして?僕は嬉しかったのに」
雅弘の肩から力が抜けたような気がした。
「私達には守るべきものがあるから。雅弘の大切なものを壊すようなことはもうしない」
「僕はわからない。ほんとうに」
雅弘は両手で私の肩を掴む。
「僕にとって守らなくちゃいけないものが、君だとしたら?」
私は言葉を失った。
雅弘の気持ちが嬉しい。
でも、私には素直に喜ぶことができない。
こんなに雅弘が思ってくれていることに、喜びと戸惑いを感じる自分がいる。
「ごめんね。困せるつもりはなかったのに。玲香を目の前にすると、とっても素直になれるんだ」
私は首を左右に大きく振って、雅弘の気持ちを軽くしようと振舞う。
「玲香は本当に優しいね。ずっと触れていたい」
雅弘の手がそっと私の背中に回り、優しいぬくもりで包んでくれる。
「ありがとう。本当に嬉しいの」
私の言葉を彼は静かに聞いていた。




