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◆3.平凡な幸せ

家に戻ると、私は優生と二人で夕食をとり、一緒に仲良くお風呂に入った。


平日の夜は、いつもこんな感じで過ぎていく。


聡のいない食卓・・・。


私も優生ももう慣れっこになっていてる。


夜9時を過ぎ、優生が眠りについた頃、聡はようやく家に帰ってきた。

聡はご機嫌な様子で、東京での新生活への期待と希を胸に、心躍らせているようだった。

普段は口数の少ない聡も、興奮しているせいか、熱く仕事のことを私に語り始める。


その姿が私の癪に障った。

聡は、いつも私の気持ちなど、聞いてくれたことなどない。


聡は、一生懸命働くことで家族を幸せにできると思っている。

確かに、聡が働いてくれているから、今の私がいる。

そして、人並みの生活をすることができている。

感謝しているのは事実だ。


でも、心は淋しい。

満たされていない。

もちろん、結婚したてのころは、お互いに相手のことを思いやることもできた。

思いやろうとしていた・・・と言った方がいいのかもしれない。


でも、今は違う。

二人の役割は確実に分担され、お互いの領域には足を踏み入れることすらない。


聡からのプロポーズの言葉を思い出す。

「支え合って生きて行こう」

あの時私は素直に、嬉しかった。

そして、聡の言葉にそっと頷いた。


でも、今の私たちに、『支え合う』という言葉は何かしっくりこないように思えて仕方がなかった。


『結婚するということは、お互いが空気のような存在になること』

私の母はそう言った。

これが空気というものなのだろうか?

だとしたら、これは私の望んでいる夫婦の形なんだろうか?


そんな事を思う内に、何とも言えない喪失感と、孤独が私を襲った。

無いもの強請りなのだろう。

贅沢な悩みなのだろう。

これ以上のことを望んではいけない。

これでいいのだ。

平凡でも、これが私たちの幸せという形なのだろう。

自分にそう言い聞かせながら、新しい生活への不安を消し去ろうとしていた。


暫くして、『東京での住まいが決まった』と、聡の会社から連絡が入った。


まだ、雪の降る金沢。


私は、白い息を吐きながら、小さな庭にある優生のおもちゃを片付けに表に出た。


雪は私の上に小さな雲のように降り積もる。

それはまるで、どんよりとした私の気持ちを表しているかのようだった。

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