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◆32.共犯者

夏の夜明けは早い。


午前四時を過ぎ、ホテルから見える町の明かりと、空の色とが混ざり合う。


彼は私の隣ですやすやと寝息をたてながら眠っている。


私は、彼の寝顔を見つめながら、昨日の夜の出来事を思い出して恥ずかしくなった。


このままこうしている時間が永遠であればいいと思う。

叶わない願いだけれど。


私は彼の寝顔をもっとよく見たくなって、少し長い前髪をそっと横に動かした。

彼はそれに気がついたのか、何度か寝返りをうち、目を開けた。


彼は私の姿を見つけ

「よかった」

そう言って体を起こし、私を強く抱きめた。


「君の寝顔を見てたつもりが、僕のほうが寝ちゃったみたいだね」

そう言うと彼は私の目を見つめ

「ずっと見ていたかった」

また、目の横にしわを作って笑う。

私の大好きな顔だ。


「もう朝になっちゃったけど、大丈夫なの?」

心配そうに覗き込む彼の横顔が愛しい。


「今日は主人も、娘も家にいないの」

「じゃあ、もう少し君と一緒にいられる?」

「私も一緒にいたい」

既に私は彼の虜になっていた。


そして、聡の妻でもなく、優生の母でもなく、一人の女になっていた。


「ちょっと待ってて」

彼はそう言うと、隣の部屋に行き、すぐに戻ってきた。


手には小さなレコーダーが握り締められていた。


「いいメロディーが浮かびそうなんだ」

そういって彼は、鼻歌を歌い、それをレコーダーに吹き込む。


彼の声が爽やかに朝の光りと溶け合う。

「ここのところの響きどう?」

そういうと、レコーダーをサイドテーブルにおいて、私の隣に寝転ぶ。

「ずっと聞いていたい」

私がそう言うと

「いつか君への曲を作るよ。このメロディーに乗せて」

そう言って、私達はお互いに顔を近づけ、唇同士が重ねあった。


彼の唇が離れそっと耳元に近づく。

「あいしてる」

吐息混じりに囁かれ、ただ頷くことしかできない。


夢を見ているような甘い時間。

夢でもいい。

今、こうしている事がたとえ夢だったとしても構わない。

そう思いながら彼は再び私の中に入り込んできた。

私は満ち足りた気持ちと共に、彼を受け入れた。



ブルルルルル・・・・・・・・・



テーブルの上の携帯が小刻みに揺れている。

「携帯なってる」

「気にしないで」

暫くして、携帯の揺れが止まる。

「いいの?」

「今は君との事だけ考えてたいから」


そしてまた二人は一つになる。

無償の優しさと温もりが、私の心を穏やかにしてくれる。



ブルルルル・・・・・・・・



また携帯がなる。


「今度は出てね」

私の言葉に促されるように

「わかった」

そう言って、彼は携帯を手に取り、画面を開いた。


「ごめんね。ちょっとまってて」

彼は携帯を持ったまま隣の部屋に移動した。



「わかってるよ。今日は早く帰れそうだから」

彼の会話が聞こえてくる。


多分、奥さんからの電話なのだろう。

私は急に現実に戻された。

そして、ベッドから起き上がり、側に落ちていた洋服に袖を通した。


彼は電話を切ってすぐに私の元に戻ってきた。

「ごめんね、いやな気分にさせちゃったよね」

そう言うと彼も落ちていた洋服を拾い、慌てたようにそれを着る。


「僕と玲香ちゃんは犯罪者だ。共犯者のほうがいいかな?」

私はその言葉に黙って頷く。

「僕らは罪を犯している。でも止められないんだ。君への気持ち」

私は目を閉じて彼の言葉の重さに耐えていた。

「これから色々なことが起こるかもしれない。覚悟はできてる。玲香ちゃんは?」

目を開き、彼の方を見て黙ってうなずく私がいた。


「また会えるよね?」

彼の子供のような表情に愛しさがこみ上げる。

「私も会いたい」

彼は私の手を握り、優しく微笑んだ。

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