◆25.夜の並木道
東京の空に星が輝いている。
私は気が付くとあの並木道で一人立ち竦んでいた。
そして、彼のことを思っていた。
一方通行でもいい。
彼の優しさに触れていたとき、私はとても幸せだった。
思い込みでもいい。
彼の笑顔が私には、愛しかった。
聡への気持ちと、彼への気持ちが交差し、私は自分自身を失いそうになっていた。
(誰かに会いたい!!)
誰でもいい。
こんな時、誰かに愚痴の一つでも聞いてもらえたら、どんなに楽になるだろう?
そうすることも叶わず、私は並木道の真ん中で一人で声を殺して泣いていた。
どの位の時間が経ったのだろう。
鞄の中の携帯が、私の時間を一瞬だけ止めた。
聡からだろうか?だとしたら出たくはない。
恐る恐る形態の着信を見ると、電話は沙希からだった。
「もしもし」
「玲香ちゃん。ありがとう。今日彼とね、色々話をして楽しかったよ」
「・・・・」
楽しそうに話す沙希の声に
「よかったね。頑張ってね。応援してるから」
そう言うだけで精一杯だった。
「玲香ちゃん。どうしたの?泣いてるの?」
「違うよ。明日またお店で色々聞かせてね」
「うん。わかった。とにかく玲香ちゃんにお礼を言わなくちゃって思ったから」
「わざわざありがとう」
私はそう言うと、沙希にばれないように慌てて電話を切った。
あんなに楽しそうに話している沙希に、今の私の話をすることができるだろうか?
ダメだ、できない・・・。
(私は何故ここにいるんだろう?もしかして、彼と会えることを期待しているの?)
そう思うと、虚しさがこみ上げてきて、一人、声を出して泣きながら、来た道を戻り始めた。
私の帰る場所は一つしかない。
たとえ、その場所に在るはずの愛情が薄れていたとしても、帰らなければならない。
自分を宥め、重い足を引きずるように私は歩いた。




