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◆24.すれちがい

7時を過ぎても、まだ空はぼんやりと明るさを保っていた。


私は沙希の恋の行方を祈りながら、手にしたチケットを眺めた。


私はマンションの前に着くと、部屋のある場所を見上げた。


そこには既に明かりが灯されていた。


(誰だろう・・・)


私は、変な胸騒ぎに駆られるように、部屋までの階段を上った。


ドアノブを静かに回すと、ドアは開いた。


(ちゃんと鍵をかけたはずなのに・・・)


私は恐る恐る、ドアを開けて、玄関を覗いた。

そこには聡の靴が綺麗に並べられていた。


私は、静かに中へと入って行った。


「お帰り、今日はすごく早かったんだね」

こんな時間に聡が帰ってくるなんで何ヶ月ぶりだろう。


聡は何も言わず、黙ってソファーに座って目を閉じていた。


「ごめんね。今日も遅いのかなって思ってたから。今ご飯作るね」

キッチンに向かおうとした私に、聡は低い声を出した。

「優生は?どこに行った?」

怖い顔をしている。

「優生は金沢にいったよ」

「金沢?」

私の返事に、聡は急に立ち上がった。

「何で金沢にいるんだ!!」

聡の怒った顔がどんどん私の所に迫ってくる。


「何でって・・・・」

私はあたふたしながら聡の顔を見上げた。

「勝手なことするな!!」

聡はそれだけ言うと、ソファーのある場所に向きを変え、ドスンと腰を下ろし、私に背を向けた。

「勝手なことって。私ちゃんと聡に聞いたよ」

聡は私の話など聞いていないようだった。

「火曜日の朝、夏休みだし、お父さん達も優生の顔が見たいって言うからって」

聡はまだ黙っている。

「聡、いいんじゃないって行ったでしょ」


どうしてこんなことになってしまったんだろう。


聡は仕事が忙しくて、私の話に適当に返事をしていただけなのだろう。

忙しいのは解る。

大変なのも解ってるつもりだ。

それなのに、どうして聡は、私の気持ちをわかってくれようとしないんだろう?

同じ場所に住んでいるのに、ちゃんと二人で会話をする時間も取れずに、すれ違ってばかりの生活。

こんな状態で私たちは夫婦だと言えるのだろうか。

私たちを夫婦として繋いでいるのは、きっと優生の存在だけなのだろう。


私は聡に対する怒りを抑えることができず、黙ってマンションを飛び出した。


暗くなった道を一人でとぼとぼと歩きながら、溢れ出る涙を、私は自分の力で止めることができなかった。


たった一人相談できる相手にも今日は連絡ができない。

沙希たちが、もし上手く行っているのなら、邪魔をしてはいけない。


行く先も決まらぬまま、私はただ、前に進むことしか出来なかった。

聡のいる場所から、少しでも離れたいという思いだけで進んでいた。

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