◆22.変わらぬ日常
アスファルトから揺れ上がる熱気が、厳しい夏の訪れを知らせていた。
私は、あれから無事退院し、来週からはお店に復帰することも決まった。
病室で交わした沙希との秘密の会話。
あれから何かが進むことはなかったが、私と沙希の距離は短くなり、
週に数回はお店の帰りに家によっては優生と遊んでくれた。
優生も彼女が来る日を楽しみに待っていた。
私も沙希が来てくれることで、平穏な時間が送れることを、心のどこかで待ちわびていた。
長い間、優生の面倒を見てくれていた母も昨日の夜、最終の新幹線で金沢へと戻っていった。
母は私と聡のことを何よりも心配してくれていた。
私の父も定年になるまでは、仕事一筋で家庭を顧みない人だった。
その中で、母は私を育ててくれた。
自分と同じ思いをしている娘が不憫に思えたのだろう。
私には母の気持ちが痛いほどわかり、胸がちくちくと痛んだ。
そんな母は私を東京で一人にすることをひどく嫌がり、金沢に戻るように何度も勧めてくれた。
でも、時折訪れてくれる沙希の存在に、いつしかそのことも言わなくなっていた。
「玲香、2週間に1回はこっちに遊びに来るから」
母はそう言い残して帰っていった。
聡のほうは、帰りが深夜になることがほとんどで、面と向かってゆっくりと話をする時間もなかった。
朝、顔をあわせても、無口なまま朝食をとる。
特に私の体を労わってくれる言葉があるわけではない。
本当は思ってくれているのかもしれない。
でも、言葉はない。
そんな毎日が、当たり前のように過ぎていった。




