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◆20.フラワーアレンジメント

私は同じように繰り返される、病院での退屈な時間を持て余していた。


気が付くと既に2週間もこうしている。


楽しみなことと言えば、優生が母に連れられて、毎日幼稚園の帰りに顔を見せてくれること。

日曜には聡が優生を連れて来てくれること。

そして、沙希や店長が仕事の合間に、お見舞いに来てくれることだった。


そして、届け主が不明のピンク花のフラワーアレンジメント。


2日に1回届けられるこのフラワーアレンジメントは、いつもピンクの花で作られていた。

届け主の名前は、配達してくれるお店の人にもわからない。

そして届け先も「305号室」となっているだけだった。


最初は届け先が違うからと、配達の人に持ち帰るように頼んでいたが、

「仕事なので、置かせてください」

そう言って困った顔をされたものだから、私も了承してしまっていた。

それから、ピンクのフラワーアレンジメントは、送り主不明のまま、毎回私の部屋に置いて行く様になった。


私が入院しているのを知っているのは店長と沙希そして聡と両親くらいだ。

聡がこんなことをするはずが無い。

でも、私に悪いと思ってこんなことをしているのかもしれない。

照れくさくて、名前も書かずに・・・。


そう思うと、花の似合わない聡の姿が思い浮かんで可笑しくなった。

(聡にもそんな優しいところがあったんだ)

そう思うと、私の頬は自然にやわらかく緩んでいた。

そんな小さな幸せが私には大きな幸せに感じた。


4週間の入院生活も残すところあと2日になった朝、沙希がお店に行く前にひょっこりと顔を出してくれた。


「調子はどう?明後日、退院できそう?」

沙希は、心配そうに私に向かって聞いてきた。

「大丈夫だよ。もうこんなに元気になっちゃったし、お店にも早く行きたいし」

沙希は私の言葉に少し驚いているようだったが、

「玲香ちゃんがいないとお店の中が、なんか暗い感じだから、早く元気になって戻ってきてくれると嬉しいな」

と言って、沙希はにっこり微笑んだ。

「それから、今店長と計画中なんだけど、玲香ちゃんの退院のお祝いのパーティーしようってなってるから、必ず参加してね」


私を必要としてくれる人がいて、その人たちの優しさに包まれて、今の私がいる。

そんな当たり前のことを、私はしっかりとかみ締めるように思っていた。


「じゃあ、あと2日、ゆっくり治してね」

彼女はそう言い残し、お店へと向かっていった。


沙希とすれ違うようにして、今日も花屋さんがフラワーアレンジメントを持ってきた。

今日はのそれはいつもよりも少し大きい。

小さな花畑があるように、沢山のカスミソウがゆらゆらと揺れている。


「今日のは豪華ですね」

「明後日退院なので、それでなのかな?」

その言葉に、配達の人は

「そうなんですか。今までありがとうございました。お大事にしてくださいね」

そう言うと、ゆっくりと頭を下げてから病室を出て行った。


入院してからの約1ヶ月、時間の過ぎるのがとても長く感じた。

でも、後2日でここでの生活ともお別れだ。

ワゴンの上に飾られた、フラワーアレンジメントを6月の風が優しく包み込むように通り過ぎた。


「聡のこと、勘違いしてたのかもしれない・・・」

私は少し横にはみ出したカスミソウに、にやけながら呟いた。

「いままでお花なんてもらったこと無かったのに・・・」


ふと視線をそらすと、アレンジメントの籠の中に何かが見えた気がした。

よく見ると、それは、見覚えのある包みだった。


慌てて中から取り出し、私は呆然とした。


その包みは、あの時彼が私に渡そうとしたものだった。


そう、このアレンジメントは彼からの贈り物だったのだ。


私は薄れていた彼への気持ちが一回り大きくなっていくのを自分の中で感じた。


(どうして!!)


彼の何気ない優しさが、私の心に何かを芽生えさせる。


カスミソウの形を崩さないように、そっと取り出した小さな包みには手紙が挟まれていた。


-----------------------------------------------------

松本 玲香様


どうか、早く良くなってください

君が良くなってくれることをみんな待ってるから

そして、またいつものように優しい笑顔を見せてください

僕にも・・・


そして、よかったら、これをもらってください

ほんの感謝の気持ちです

君をイメージして決めたんだ

君によく似合うと思ったから・・・


五十嵐

-----------------------------------------------------


私は戸惑いながらも、小さな包みを破かないように、そっと広げてみた。


中にはかわいいペンダントが入っていた。


私はペンダントを手に取り、それを握り締めると、天井を見上げた。

私の目からは自然に熱いものが込み上げてくるのを感じていた。

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