◆12.虚しさと憂鬱
私は一日の仕事を終えて、家路に着いた。
午後4時。
誰もいないマンションで洗濯物を畳む。
今日の出来事が走馬灯のように駆け巡り、夢のような時間をひとりで思い出していた。
史乃が聞いたらそれこそ驚くだろう。
必要以上に浮かれている自分を、別の自分が笑っているような気がした。
結局、お店には平日の朝9時からお昼過ぎの3時まで通うことにした。
ただ、沙希という子がくるまでは、朝8時にお店に行くことになった。
優生は今週末に東京に来る。
私は『それまでの間であれば』ということで、了承した。
今日は朝から緊張しっぱなしで、1日があっという間だった。
ただ、すごく疲れた。
慣れるまでは色々とあるだろう。
ある程度の覚悟はしていたが、心も体も、くたくたになっていた。
私は、側にあったソファーに座り、背もたれに凭れかかると、いつの間にか眠っていた。
ふと気がつくと、外は真っ暗になっていた。
慌てて時計を見ると、針は9時を指そうとしていた。
(いけない!!初日からこれじゃ、聡に何を言われるかわからない・・・)
私は、ソファーから飛び降り、部屋の電気を点けると、キッチンに向かい夕食の準備に取り掛かった。
10時を過ぎてようやく聡が帰ってきた。
「おかえり」
聡は私の方を見て
「ああ」
とだけ言って部屋に入った。
「どうしたの?なんか元気ないけど」
「今日は疲れた。ご飯いいや」
そう言うと、聡は部屋に入りスーツを脱ぎ捨てベッドの上で大の字になった。
「ご飯食べないの?食べたほうがいいよ」
「いらない。とにかく寝る」
聡はベッドの上で目を閉じてそう言った。
時々、こんなことがある。
仕事で疲れているのだろう。
トラブルがあったのかもしれない。
聡は何も言わず、ただ無口になって眠りにつく。
そんな時、私は何も言わず、言われた通りにする。
聡は仕事のことは家では何も言わない。
そんな人なのだ。
でも、今日は話しがしたかった。
東京に出てきて、初めて仕事に出て、話したいことが山のようにあった。
山のように・・・・。
聡がこんな感じの日は、私はいつも憂鬱になる。
夫婦って何なのか?と考えさせられる。
今日、聡にどんなことがあったのか知らない。
でも、私はどんなことでもいいから、些細なことでも知りたいと思う。
それが夫婦だと思うから・・・。
それなのに、聡は何があったのかも話してくれない。
聡が何かに押しつぶされそうなら、私が力になりたいと思う。
小さなことでも、何か支えになりたいと思う。
そんな気持ちは、聡には伝わらないのだろうか。
私では役不足なのだろうか。
そう思うと、なんだか途轍もなく虚しくなった。




