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◆10.突然の出会い

春の心地よい風が、私の気持ちも穏やかにしてくれる。


私は犬達を引き連れ、なんとか並木道の入り口までたどり着いた。

犬達は歩きなれた道なのか、先を急ごうとする。

「みんな、ちょっと待って!!」

3頭がみんなで引っ張るものだから、手綱が絡んで転んでしまいそうになる。


「あっ、わんわん」

少し向こうから、一人の男の子が私のほうに駆け寄ってきた。


「ぼく、ワンワン好きなの?」

私はゆっくりとしゃがんで男の子と目線を合わせた。

男の子はにっこりと微笑んで、私に頷いてくれる。

年は3歳くらいだろうか。

えくぼのかわいい男の子だ。


「敬音!!」

後ろから、この子の父親と思われる人が走って追いかけてきた。

私はその人の顔を見てハッとした。

「すみません。息子がご迷惑かけてませんでしたか?」

そう言うと、その人は申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。

「いいえ。大丈夫ですよ」

私はもう一度その人の顔を確認した。


間違いない。

五十嵐雅弘だ!!


「あの・・・。いつもお散歩してる人じゃないんですね」

「すみません。私、新入りなんです。今日からお仕事させていただくことになって」

「そうだったんですか。大変でしょうけど頑張って下さいね」

「ありがとうございます」

「僕、あそこのお店たまにお邪魔してるんですよ」

私はその言葉で、またハッとした。


店長が言っていた、ちょっとした有名人とは彼のことだったのだろうか。


思いがけない出会いだった。


「敬音が、息子がね、犬が欲しいって言うんだけど、なかなかいい子に出会えなくて」

「そうですねか・・・。いい仔に会えるといいですね」


空から射す木漏れ日のような、優しい笑顔だった。

「ときどき敬音を連れて散歩してると、こうしてこの子達に会うことができて」

そう言うと、3頭の犬達の方を見て、また微笑んだ。


「また会えるといいですね」

彼は男の子の手を取り、深く頭を下げて歩き出した。

社交辞令なのだろう。

分かってはいるのだが、私はその言葉だけで、心が満たされたような気がしていた。

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