◆104.外泊
大部屋に移った響生は、日を重ねるごとに状態も安定していた。
そして、少しづつ片言の言葉を発するようになっていた。
以前は薬の副作用で、顔が浮腫んでいたが、今はずいぶんと引いていた。
そんな響生には雅弘の面影が所々に現れる。
あれから、雅弘からの連絡はない。
私からメールをしてしまえば、また、変な感情が芽生えてしまうかもしれない。
私には響生がいる。
そう思うことで、変に自分を納得させようとしていた。
秋になり、医師からは外泊の許可が出た。
「響生くんもがんばったし、安定しているので、少し外に出てみませんか?」
「金沢に戻ることはできますか?」
私の質問に医師は少し悩んでから、
「金沢まで戻るのは、少し響生くんにはハードかもしれませんね。何かあったときに対応するのも難しいですから」
そう言って、許可をもらうことはできなかった。
聡にも連絡を取ったが、仕事が忙しく、東京に出てくることは難しいようだった。
私は沙希に連絡を取った。
「沙希ちゃん、今度、響生が外泊できることになったんだけど、金沢に戻るのはちょっと無理みたいなんだけど、一緒に少し付き合ってくれない?」
「ホントに!!いいよ。もちろん!!」
沙希は快く引き受けてくれた。
「ねぇ、どこ行く?響生くん疲れないようにしないといけないでしょ?」
「そうだね。だから、どこに行っていいのかわかんなくて」
沙希は少し静かになって考えてから
「じゃ、私が色々と決めておくから、楽しみにしててね」
「ありがとう。沙希ちゃんにはいつも頼ってばっかだね。本当に申し訳ないよ」
「何言ってるの?私が好きでやってるんだから。気にしない、気にしない」
沙希は明るくそう言った。
あれから沙希と彰人は二人で話し合い、お互い別々の道を進むことを選んだ。
沙希は、いつか彰人が夢を掴んで戻ってきてくれると信じている。
「ねえ、実は、勇気が出なくて一人で行けない場所があったんだけど、一緒に行ってくれる?」
「え?どこ?」
沙希は少し間を取ってから
「彰人の写真を見に行きたいの・・・」
私は、電話の向こうの沙希の様子を想像しながら
「いいよ。もちろん!!」
そう返事した。
「ホントに?今月いっぱいなんだ。ずっと行きたかったんだけど、勇気でなくて・・・。前までは行くんだけど、後一歩踏み出せなくて・・・」
「じゃあ、彰人くんの作品を見学に行きますか?」
「おねがいします」
私と沙希は、しばらく笑っていた。
お互いに、心の中にしまいこんだ男性を思いながら・・・。




