◆103.細い管
とうとうその時がやってきた。
医師や看護士達に見守られながら、雅弘の骨髄液が運ばれてくる。
響生の体にゆっくりと、それが入っていく。
親子のつながり・・・。
私はそれをゆっくりと見つめながら、雅弘から送られたCDを聞いていた。
離れていても、雅弘と血のつながりのある響生。
そして、その響生を愛しいと思ってくている。
私が勝手に決めてしまったことで、多くの人たちへ迷惑をかけ、苦しみを与えてしまったのではないかと、自分自身を攻めていた。
細い管から雅弘の愛と優しさが、ゆっくりと、時間をかけて響生の体内に流れていく。
私はただ黙って、それを見つめていた。
移植が無事終了して、1月が過ぎようとしていた。
あれから、何度か危険な状態はあったものの、雅弘の骨髄液は無事、響生の体内で働き始めていた。
病室も、大部屋へと移された。
私は、毎日をただ祈るようにして生きていた。
こうして、今を生きている響生の姿を見つめて、幸せを噛み締めていた。
ただ、気がかりなのは優生のことだ。
優生はあれから、松本の家でくらしている。
結局私の言い分など聡は最初から聞くつもりもなかったのだろう。
時々、優生から電話がある。
「ママ、響生はいつ治るの?」
優生は一人我慢しているのだろう。
「もう少し我慢できる?もう少しだけだから。ごめんね優生・・・」
そう言って、ただ謝ることしかできない私がいる。
「おばあちゃんに会いたいな。おじいちゃんに会いたいな」
優生にとっては、松本の祖父母よりも、幼いときから気の通った私の父母のほうが安心できるのだろう。
「こんど、おばあちゃんのところに遊びに行きたいなぁ」
「そうだね。ママからもパパにお願いしておくね」
「うん!!」
優生の明るい声が、私の心を締め付けた。
響生がこのまま、回復してくれれば、金沢に戻り、元のように家族4人で幸せな生活が待っているだろう。
そのための試練なのかもしれない。
私は、そう自分に言い聞かせることで、優生への罪の意識を減らそうとしていた。




