◆102.移植当日
様々なことが頭の中で駆け巡り、一睡もしないまま朝を迎えた。
廊下の窓から見える緑の木々たちが、私の気持ちを少しだけ癒してくれる。
携帯の電源を入れ、聡からの連絡がなかったかを確認する。
『メール1通』
画面にはメールが来たことを知らせていた。
私は慌てて、メールを開く。
『おはよう。何とか今日を迎えることができました。
響生のために、君のためにしてあげられることが、僕にもあったことを嬉しく思っています』
メールは雅弘から送られてきていた。
雅弘は、響生のために、これから手術に向かう。
私は、緑を見つめながら、雅弘の無事を願う。
ただそれしか私にできることはない。
私は、雅弘からのメールを何度の読み返し、雅弘の優しさを胸いっぱいに感じていた。
病室はどことなく慌しくなり、行きかう看護士や医師の様子で、響生への移植が近づいてきていることを感じていた。
「玲香、こんなところにいないで、中に入って響生についててやらんと・・・」
母は、私の様子を見て心配してくれているのだろう。
「お母さん、ごめんね。今すぐいく」
私は、慌てて響生の元に戻った。
響生は薬の影響もあり、少し元気がない。
これから響生の中に、雅弘の骨髄液が移植される。
父から子へのプレゼント。
私は、横たわる響生の頭を撫でながら
「ママの大切な人が骨髄をくれるんだよ。がんばろうね」
心の中でそっと囁いた。
今頃、雅弘は響生のために、がんばってくれているだろう。
私は、天井を見上げて、雅弘の無事を祈り、再び響生の顔を眺めていた。




