◆100.聡への不安
病室へと続く道を歩きながら、私の頭の中で、雅弘の言葉が何度も繰り返されていた。
『きっと、ずっと、永遠に玲香を愛してる・・・』
病室の前に立ち、私は雅弘との会話をそっと胸の奥にしまった。
「ただいま。お母さん、大丈夫だった?」
母は、少し驚いて私の顔を見る。
「えらい、早かったね。ちゃんとご飯食べてきた?」
「あんまりお腹へってなくて・・・。病院でじっとしてるだけだから」
私は舌をぺろりと出して、母に笑いかける。
「そんなこというて、体が大事やろ?玲香が倒れたらみんなが困るのわからん?」
母の気持ちは嬉しかった。
「わかってるよ。明日ちゃんと食べるから。無理して食べても仕方ないし・・・」
母は黙っていた。
「玲香、聡さんが金沢に戻ってから、連絡はあるの?」
母の突然の言葉に、私は少し躊躇いながら
「突然どうしたの?」
アタフタしながら母に問いかける。
「いやね、聡さん仕事も忙しいようだけど、響生のこともあるしね。離れてしまって、連絡はきちんととっとるのかと思って・・・」
母が心配してくれていることは痛いほどわかる。
聡から連絡が来るのは週に1度くらい。
後は私のほうから、1日1回、響生の様子を知らせるためにメールを送る。
そのメールに返事が来ることはない。
「メールしてるよ。響生の1日の様子とかね」
「そうね。ちゃんと連絡は取りあっとるんやね。優生のことは?ちゃんと話しとる?」
「優生?何かあった?」
母に言われて、私は優生の顔を思い浮かべ、話しの続きを聞くために、母の隣に座りなおした。
「金沢の家に聡さんのお母さんが来てね。優生をしばらく引き取りたいって言われてね」
私は、母の言葉に驚いて
「そんなこと聞いてない!!どうしてそういうことになってる訳?」
私は少し取り乱していただろう。
「優生がかわいそうやからって。家にも迷惑をかけられんって・・・」
聡はそんなことこれっぽっちも言ってくれなかった。
それどころか、連絡が来ても、話をするのはほんの1分ほど。
内容も、『元気か?』『元気だよ』毎回毎回そんな会話が繰り返されるだけの僅かな時間。
「響生のことも気にしててね、東京に行きたいけど、なかなか行けないから、よろしく伝えてほしいって、お母さんが・・・」
「そう・・・」
私は優生のことが不憫に思えた。
「ねえ、お母さんはどう思う?松本のお母さんはいい人だし、響生が戻るまで優生をお願いしたほうがいいの?聡は忙しくて優生の面倒も見てあげられないんでしょ?」
「そうやね。私は優生がよければ家で見ても構わんけど、ただ、聡さんがあまりいい気持ちはしてないやろうから」
「優生は松本の孫だからね。松本のお母さんの言いたいこともよくわかる。でも、優生をお願いしたら、そのまま・・・ってことにならないよね?」
「何を言うかと思えば・・・。そんなことないよ。響生がよくなって帰ってくるまでにきまっとるやろ?」
母は私の背中をそっと撫でながら、そう言った。
「聡さんからきちんと話してもらって、二人で決めなさい。優生の気持ちもちゃんと聞いてやって、みんなで相談して決めなさい」
私はそっと頷いた。
私は、たとえ聡と離れていても、どこかで通じているのだと信じていた。
信じようとしていた。
でも、これは私へ心配をかけまいとした、聡なりの思いやりだったのだろうか?
私の頭の中では、明日の移植への不安よりも、聡への不安が大きくなっていた。
なかなか毎日更新できずにいますが、がんばって行きたいと思います。(そろそろ先が見えてきました)
10日までは更新できませんが、よろしくお願いします。
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