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R15は酷い言葉が入るかも知れないので保険です。
思いついて書き出しただけなので無茶苦茶かも知れませんが、スルーして下さると嬉しいです。
2,3話で終わるはず・・・・・・
2016.11.06 誤字修正しました。
私はアリア=ガーネット、17歳。コーフネル国の貴族であり、ガーネット公爵の令嬢だ。
何不自由なく過ごしてきたお嬢様と思われるが、たった今、婚約者であるこの国の第一王子に婚約破棄され、家族だと思っていた弟にも冷ややかに見られていたりする。
ことの始まりは、異世界から一人の女の子が迷い込んできた半年前からだ。それまでは貴族令嬢は気苦労が多いけれど順調に歩んでいたの。
幼少期に私は第一王子と婚約をして、未来はこの国の王妃となるべく教育を受けていた。その教育は辛いことが多かったが、支えてくれる弟や家族がいたから耐えることが出来た。
それなのに異世界から来たというミズキ=ハトリによって全て崩壊の道へと変えられてしまったのだ。
幼い頃からの婚約者にはときめくような愛はなかったにしても幼馴染みとしての愛情と信頼があったのに、王子は魔を浄化する能力を持つ巫女ミズキに惹かれた。それだけでなく家族である弟も気さくな彼女を愛し、私と魔法を切磋琢磨していた魔法省長官の息子である同級生にも裏切られ、高潔であるべき騎士団長の息子までも守るべき対象者を見誤り、学園で私を支持してくれていた皆も離れ・・・そして今、私は無実の罪で断罪されている。
「お前は民を守るべき貴族でありながら、異世界から来たというだけのミズキをいじめ抜いたそうだな。忠告という名目で呼び出し罵詈雑言を浴びせ、教科書を破き、靴を隠し、水をかける。お茶会ではわざとワインをかけ皆に恥をかかせた。それだけでなく、明るく前向きなミズキを妬んで、終いには階段から突き落としたというではないか!貴族としてあるまじき所業!そんな奴を国母には出来ぬ!」
等と、今年最後の学園の舞踏会で、それも皆がいる前で婚約者の口から身に覚えのないあり得ないことを言われたところだ。
「王子、私には何のことだか分かりませんわ。そんなことよりも、このような場で迂闊なことを仰るものではありません」
舞踏会にふさわしく着飾った王子は金髪碧眼の見目の麗しい人だ。その後ろにはふわふわした茶髪の大きな黒目を潤ませた美少女が、いかにも今まで目の前の人に虐められていましたといった風にふるふると震えている。他にも魔法長官と騎士団長の息子二人と弟と、あろうことか先生までもその一団に混じっているではないか。
王子が仰るミズキっていう少女は遠目では見かけたことはあるものの、接近した覚えもない。そんな方に何をどうできるというのでしょう?
理不尽なことを言われていて怒りよりも呆れのほうが先立つ。
「姉さん、証人と目撃者がいるんだよ?潔く諦めたら?」
「何を言うの、アルバート。貴方なら私がやっていないことをよく知っているでしょう?」
家でも忙しくしていたのだから、そんな暇はなかったのを弟であるアルバートが一番分かっているはず。
家では妃のための立ち振る舞いや教養の勉強に、学園では国内でも魔力の高い私へ魔法の改良の依頼に休憩時間を使い、お偉いさんからは妃の修行といって財政のあり方や使い道などを試すかのように草案を持って休みの日に訪問に来たり・・・と休む暇無く対応に追われていたのに、アルバートは一体何を言っているのでしょう?
「お茶会や舞踏会もここ最近は参加していませんよ?私ではありません。なんなら魔法省や財務省の方々にお聞きになられてはいかがでしょう?」
「まさか、魔法省をやっている魔法長官である父を買収しているのではないでしょうね!」
あの聡明な魔法長官の息子であるリカルドが、自分の親を疑うような台詞を。私は風邪でも引いて耳が可笑しくなったのでしょうか?
「証人もいるのに言い逃れようとは恥を知れ!」
「では、その証人は何処にいらっしゃるのでしょう?」
何をどうなってこうなってしまったのか経緯は分からないが、どうやらこの人達は、私がミズキという少女を虐めた張本人だと本気で思い込んでいるようだ。
未来のお妃として教育をされていたので、なんとか気丈に振る舞うことが出来ているけれど、内心では動揺も衝撃も受けていた。
10年近く幼い頃から許嫁として一緒に学び、時にはいたずらをしたりして王子と信頼と絆を築いてきたのに、彼の口から、たった半年のつきあいで人が変わってしまったかのように私を汚いものでも見るような蔑んだ目を向けてくる。
家族として弟として仲良く支え合ってきたアルバートも、なんて冷たい瞳を姉に向けるのか。
時には喧嘩をしながらも魔法の発展のためと一緒に勉学に励んだリカルドも、この数ヶ月研究室に来ないと思ったら、あの向上心を無くし恋の色に染まりきって、私を見る目は憎しみをはらんでいる。
正義感が強く情熱家でありながらも紳士だった騎士、ハンスまでも私に剣を向けている。
皆が皆、信頼していた人たちからの仕打ち、こんな状況で正常でいられるわけがない。
そして、連れてこられた証人達がまさかの私のお友達だったなんて・・・・・・口々に私が指示を出したと言われたら・・・・・・立っていられなかった。
気を失う瞬間、王子の背中からあの少女が醜く笑みを浮かべていた―――
気を失ってしまったので、ろくな弁解も出来ずに私は牢屋に入れられてしまい、牢番の人が嫌々ながらも私の処遇を教えてくれた。
どうやら私はこのまま家に帰ることも許されず、国外追放となるらしい。助けてくれるはずの両親からは「お前は公爵家の恥だ!縁を切る」という手紙を貰った。
「な・・・・・・なんて・・・滑稽な・・・・・・」
薄暗く汚れた狭い牢屋の中で、真っ白な頭でようやく出た言葉がこれだった。
私の今までの努力は何だったの!?王子が一時他の女性に目をくれようとも、相手は異世界の方で王妃になることはないと分かっていたから。良くて側室。学生だけの気の迷いでその内、本来やるべきことを思い出してくれると思っていたのに。
ミズキという少女が現れた当初は、私の注意も王子は聞いてくれて、「突然、違う世界に来た巫女だから、手を貸しているだけだ」と言っていた。そして、日がたつにつれ「分かっている」しか言わなくなり「今は放っておいて欲しい」となった。自分が王子という立場を
分かっていて一時の自由が欲しいのだと、進言をするのを止めてしまったのだけど、それがいけなかったのだわ。
「本当に私はこの世界でもダメね・・・」
私には前世の記憶がある。多分、ミズキ=ハトリが住んでいた世界に似通った世界の記憶が。
そこの私はとある会社に勤め接客業をしていた。お客様が第一で、失敗は許されない厳しい会社で、長年働いていた為私は女性ながらも部下がつくようになった。でも、あの時代の若者にはこの会社のやり方に耐えきれず、辞めていくものが多発していた。上からは上司である私が懇切丁寧に教育していないと怒られ、物言いが悪いのではないかと責められ、下のものが失敗しても私が怒られ、理不尽な立場だった。
どちらも緩和できるように、私は今まで以上に頑張った。部下が失敗しないように、もしくは失敗していても早期に発見できるように、辞めるものがないように楽しい職場を心がけていた。だが、それが返って上の者の感に触った。お客様をないがしろにしているとか、無駄話が多いとか、兎に角難癖を付けてくるのだ。終には働いている姿勢が悪い。頑張るところが間違っている等々。
精神的に参っていても、その会社をつとめていたのは、独り身で稼ぐ必要があったのと、40歳を超えてしまっては新しい職場は見つからないからだ。
何故、死んでしまったのかは分からないが、人間関係が上手くいかない人生だったと言える。
そしてこの世界に記憶を持って生まれ変わり、思い出したのは王子との婚約が決まった6歳と頃。今度こそは人間関係を円滑に、穏便に生涯を送ろうと決断した。
40年間の経験が役に立つかも知れないと、子供時代は親兄弟、周りの期待に応えた。結果は良好、子供にしては聞き分けが良く、柔らかな脳は物覚えも良い。ありとあらゆるものを吸収して、良い王妃になると賞賛をもらえた。
学園に入った12歳からは人当たり良く、面倒見の良い優等生で通し、ただでさえ次期王妃とみられ辛口なのだからと、敵を作らないように、でも次期王妃にふさわしい成績もほどほどの順位に調整。人脈も作って楽しく笑える友達も作れていたと思っていた。
すべて、自分の心を欺き周りに神経をとがらせていたというのに、なんて滑稽な結末だこと。
私の努力は無駄だったみたい。前世同様ダメダメなのね。魂から残念なんだわ。あの上司が言ったように頑張るところが間違っていたのかも・・・
次期王妃ともてはやされていても、私は何て小さい・・・私自体が誰も必要としていなかったと言うことだわ。
汚れた牢屋の地面に両の手をつき、うなだれた頭から髪が落ちる。その間から、ぽたりぽたりと止めどなく涙が床を濡らしていった。
「ふ・・・、ふふっ・・・・・・っ、ふふふ・・・、っ・・・はぁ・・・あははははははっ!!!」
「何が可笑しい!静かにしないか!」
牢番の人が私の笑い声を聞きつけ、鉄格子を叩く。
それでも私は可笑しくて笑い続けた。何かに取り憑かれたように泣きながら笑い続けたのだ。牢番の人は、何度か怒鳴り声を上げても笑い続けた私を気味悪く感じたのか、持ち場に戻っていった。
泣きじゃくりながら、ひっひっと引きつったように笑う。止まらない。
だって可笑しいじゃない!私の頑張りは無意味で、皆には私が虫けら同様に必要の無い人間なんだから。
一体、私は何だったの!?
音を立てて崩れていった瞬間だった。
どれ程の時間、泣き笑っただろう。もう涙が出てこなくなった。声もかすれている。
涙を流すたびに、心が空っぽになっていく。
心が空っぽになったから流す涙がなくなったのね。
私が大事だと思っていた人たちに裏切られてしまったわ。
そっかぁ、私って必要なかったのね。
「・・・・・・だったら」
全てのしがらみを断ち切って、好きに生きてやる!!いらないというのなら、自由に好き勝手に楽しんでもいいじゃない!
私には魔法があるわ。それに、前世で好きで読んでいた小説、あれは物語だけど生きていくのに必要なことがいっぱい書いてあった。幸いなことに、それらのことは思い出そうとすれば思い出せる。
生きてやる!
一晩中泣いて笑って空っぽになって、新たな目標が出来た。
その二日後、ろくな調書もとらず捜査することなく、私は着の身着のままで国外追放となった。
本来、国外追放という罪はかなり重い。ただの女生徒の虐めにしては破格だ。
「それも、食料も水も無し、魔物が出るというのにナイフ一つなしとは、本当に嫌になるわね」
舞踏会の緑のドレスのまま馬車で運ばれ、国境近くの山の手前に放り出された。振り返れば、私が山の中に入るまで見張っているつもりなのか、兵士5人がこちらをにらんでいる。たき火と食事とテントの用意をしているあの様子じゃ、戻ってこないように2,3日は見張るつもりかも知れない。
「念の入りようね。戻るつもりなんてないから大丈夫なのに。ただ、この靴で山を登るのは一苦労しそうだわ」
立ち止まっていたら兵士がやってきそうなので、兎に角彼らに見えないところまで上りましょうか。
1時間ほど歩いてから、ヒールのかかと部分を石にたたきつけて折り、邪魔で歩きにくいドレスをくくりつける。
これで少しは歩きやすくなったかな?
令嬢として必要な運動だけしていては、山を越えられない。それどころか、魔物が生息している自然界で令嬢が一人で生きて国境を越えられるわけがない。
元から私を抹殺するつもりだったのね。良かったわ、普通の令嬢じゃなくて。
ぽっちゃり体型だった前世、もしかしてそれが原因で死んでしまったのかもと・・・健康に気をつけ適度な運動を繰り返していたので、深窓の令嬢よりは足に自信があるのよね。趣味が散歩だし。
他にもお妃様は何かと狙われやすいということで、多少の体術と剣術を習っていたし、険しくない山だから何とか越えられそうだわ。ただ、魔物に出会わなければね。
そうして1日目は魔物に出会わずに朝を迎えることが出来た。
飲み水は魔法で出せるし、魔力は消耗するけれど簡易な結界を張れば多少の睡眠も取ることが出来る。
後は食料があれば最低限生きていける。
「山を越えながら食料を探しましょうか」
水も簡易食料も持たされていない。なんて厳しい刑なんでしょうね。でも、私魔物にやられることも、餓死することもないわよ!
まだこれからの目標は決まっていないけれど、兎に角生き抜いてやるわ!
暫く歩いて行けば、リスたちが実を食べているのを見て、逃げ出した辺りから種を見つける。そして更に歩けば川にたどり着いた。この山が源流となるのか、川幅は狭いけれど水は澄んでいて川魚が住んでいそうだ。
「後はどうやって魚を捕る・・・かよね。つりの道具も何も持っていないんですもの・・・仕方が無いわね。大技でいきますか」
川辺まで近寄り、魔力を練って流れる水全てに作用させると、五メートル範囲の水が宙に浮き上がり球体を作っている。一瞬の間、川は普段見ることがない川底を見せ、上流から流れてくる水によって普段の姿に戻っていった。太陽の光を浴びてきらきらと輝く水球の中には動くもの、魚だけでなく沢ガニもいるようだった。
「やった!三匹いるわ」
魚が逃げないように水球の余分な水をちょろちょろと川に戻し、半分ぐらいになった後、石が多い川辺に運んで術を解く。解いた瞬間水が流れ出し、一匹逃げられたけれど二匹は川辺に打ち上げられた。
「う~ん、効率が悪いわね。でも、ま、食料は調達できたのでよしとしましょう」
いつ食材と出会えるか分からないので、とれるものは全て取っておきたい。
取り過ぎて、生活をしているだろう下流ではどのような影響が出るのかわからないけど、そんなの自由になった私にはもう関係ないことだ。
幸い私は余りある魔力があるから、さっきみたいな魔法は朝飯前である。
王都であんなことをすると、怒られるどころか、危険人物にされてしまうのでやらなかった。もしこんな力強い魔法を使えると上層部が知っていたら、国外追放ではなく、処刑もしくは戦争奴隷にされていただろう。
「人間関係を円満にしたかったら、隠していただけなんだけど、これは良かったと言えるのかな?」
そもそも、人間関係を円滑にしようとして失敗しているんだけど・・・ま、もう関係ないことだかいっか。難しいことは考えないで存分に力を使うことにしよう!
その後も5回、魚を捕ることにした。合計12匹を捕まえることが出来、さっき食べた二匹を除けば10匹を確保。簡易版だけど、魔法で水分取り日持ちできるようにした。持ち運びは大きな葉を二つ折りにし、蔓で両端を縛って鞄を作った。その中に魚と植物の種を入れてある。
食べることが出来ない植物の種を何故保管するかというと、長年研究していてようやく完成させた魔法陣で、植物の成長を促進できるからだ。
魔法省とその長官の息子とで研究していた事柄であり、もしあのような出来事がなければお目見えできた画期的な魔法陣。飢えをしのぎ世界を救うだろうものであるが、残念ながら検証が少なくて、まだ上に報告していなかったりする。つまり私だけの魔法と言うことになる。
「リカルドもあの少女に骨抜きにされていなければ、救世主と言われていたかも知れないのにね」
『こんなところに籠もってばかりいたら、不健康よ!』と研究室を荒らしリカルドを連れて行ったらしい。連れて行くだけならまだしも、何故研究室を荒らす必要があったのか、後から入室した惨状に私は台風が襲ったのかと目を丸くしたのを覚えている。あれから紙に記載してもいつ同じ惨状になるかもしれないと、研究過程を残すことを辞めた。よって、『植物促進』の魔法陣が出来上がっているなんて他の人には知るよしもない。
そんなことで、植物の種は私の食料となるから取っている、というわけ。
時には植物の種を採取して、実を食べ、魔物に襲われたら風魔法でやっつけ、火魔法で焼いて食べた。
飢えることなく山を越え、森を抜け、目前に村を発見した。歩きだったからここまで来るのに2週間かかっている。舞踏会用のドレスも母親譲りの綺麗な銀髪も汚れボロボロである。
「もう、元の色がなんなのかも分からないわね」
それでも、私は飢えることなく、魔物の餌になることなく生きている。それで十分だ。
隣国の村では私の姿に不審がられたが、育てた果物と、洗えば多少は綺麗になるであろうドレスを売って、庶民では当たり前に着られている質素な服と、ナイフや旅に必要な雑貨を買うことが出来た。
そう、私はこの村に滞在することはせず、直ぐに旅立つ予定でいるのだ。
目指すはどの国にも属さない土地である。煩わしいものが一切無いところで、趣味の散歩と魔法陣の研究に明け暮れたいのだ。
国が欲しがらない土地は魔物が多く、手を焼くほどの危険な土地だったり、入ったら最後帰ってこられないという森だったりする。
「ここから近いのは迷いの森だけど、それでも歩けば数ヶ月はかかる距離なんだよね」
せめて馬があればとは思うものの、馬を買う余裕がない。お金がなければ盗めばいいんだけど、残念ながらこの村では馬がいない。
もともと、盗むつもりもないけどね。そんなつまらないことで追いかけ回されたり罰を受けたくないし、第一、急ぐ旅でもないのだから、あれば便利な程度だ。
ナイフと手頃な鞄、木で作られたコップと皿、動きやすい服と丈夫な靴を手に入れただけでも今までと格段に旅がしやすくなっている。食料は現地調達できるから簡易食料は少なくて良い。
旅を続けるのと普通の生活を送るのにまだ必要なものがあるのだけれど、それは徐々に資金を貯めて集めていけば良いだろう。ゼロからのスタートでの醍醐味でもある。
「全てを楽しまなきゃね」
私をこんな目に遭わせた人たちに復讐するわけでもない、いや、正確には、存分に楽しんで自由に生きることで見返すことが出来ると思っている。酷い目に遭わせた割にささやかな仕返しだけど、今は生きることで精一杯なのだからこれでいい。
それに、あんな人たちと関わるよりは有意義だと思う。
本音は出来ることなら一矢報いたいけど、何もかもが力不足なのだから、それはその内に。