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動物的俺らの日常  作者: 音符のすけ
1/7

ハムスター、入学する

その日、俺はとある県立高校の校門前に立っていた。


俺は何故ここにいるのだろう?

何度目か分からないその疑問の答えは分かりきっていた。

そう、今日は入学式、俺の高校生活が始まる日なのだ。



母親に促され校門をくぐる。

正面玄関に今年のクラスが貼り出してあるらしい。それは人混みが出来ているので分かった。

……問題は、それが見えないのだ。

まあ、もう高校1年で未だに150cmあるかないかぐらいのチビの俺なら仕方ないのか。まったく、この身長の低さで幾度となく苦労してきて……いやいや、そんな感傷に浸ってる場合じゃない。

とにかくクラスを確認しないとこの場から動けないので、なんとか人を掻き分けてクラスを確認する。


1-4──2番 飯田京介。1年4組か。

この高校では、1~3組が文系クラス、4~7組が理系クラス、8組と9組は1~7組の普通科とは別に専門学科──まあようするに俺らよりも賢い奴らが集まるクラス──となっている。

つまり4組の俺は、当初の希望通り理系クラスに入れたことになる。よっしゃ。


ようやくクラスが分かったので教室に向かう。

渡り廊下で履き慣れないローファーを脱ぎ、真新しいスリッパに履き替える。やっぱりスリッパは履きづらい。まあこれから慣れていくのだろう。


4組は2階の一番奥の教室だった。入ると、既に半分ぐらいの席が埋まっていた。

出席番号はクラスと一緒に確認したが、念のため黒板に貼ってある座席表を確認する。入口とは反対側、黒板向かって一番右側の前から2番目──その列だけ何故か一番前が欠けているから正確に言うと3番目?──だった。

座席表を見たときに改めて思ったのだが、周りの席はおろか、クラスに知ってる人が一人もいないのだ。俺、1年間大丈夫だろうか……?

そう思った直後、前の席から初めての声が掛けられた。


「お前、中学どこなん?」

ああ、誰とでも気兼ねなく話せる社交家なのか、羨ましい限りだ……自分のコミュ障を呪っている場合じゃない、折角の質問に答えねば。

コミュ障なりに頑張って会話を繋いでいるうちに、こいつとはうまくやっていけそうだ、そんな気がした。


前の席の関西弁のこいつは、赤塚雄太というらしい。俺とひとしきり話し終わると、恐らく同じ中学の人なのだろう、名簿真ん中ぐらいの人の席に行って話し出した。

取り敢えず、初日に話せる人が一人出来ただけでも、中学までの俺からすれば十分成長したと言えるだろう。ああ、我ながら小さい奴だよ……


しばらくして、先生──恐らく担任ではなく新入生の誘導係みたいな感じなのだろう──が入ってきて、入学式までの流れを手短に説明した。それからその先生に連れられて体育館へ向かい、とにかく眠い(←)入学式をすることになった。

他の生徒が緊張した面持ちの中でしばらく睡魔と戦っていたのだが、担任の発表となると流石に目が覚めた。

担任は、失礼にも先ほど誘導係と思い込んでいた先生その人だったのだ。ありゃま。


そんなこんなで入学式が終わり、教室に戻ると、担任が軽く自己紹介し、これからしばらくの予定を説明した。それが済んだら、俺の嫌いな自己紹介が始まる。

俺は自己紹介でまともに喋れた試しがない。まあ今回に関しては先生が話す内容を決めてくれたのだが、それでも億劫なのに変わりはない。だが一人悶々としていても仕方ないので、取り敢えず無難に自己紹介を終わらせた。ふぅ。


一応自己紹介はちゃんと聞いているが、やっぱりこういう場は緊張するのだろう、わりとたどたどしい人が目立つ。それでもその中には、俺と同じく吹奏楽部に入るつもりという女子がいたり、俺の中学の隣の中学から来た男子がいたりと、意外と話せそうな人も見つけられた。一番の問題はこっちから話しに行けるかどうがだが。


順調に自己紹介も終わり、高校生活最初の日が終わった。

やっぱりこういうところが中学と高校の違いなのだろうか、終わりの礼をした直後から、みんな次々にスマホを取り出す。多分LINEの交換だったり、親に連絡を入れたりなどしているのだろうが、やっぱり40人が一斉にスマホを触り始める状況は、高校からスマホを持ち始めた俺に軽いカルチャーショックを与えた。


俺はこれからこの教室で1年間を過ごすことになる。

不安ももちろんたくさんあるが、なんだか毎日が楽しみになってきた。明日はどんな1日になるのだろう、そんな期待と不安の入り混じった心境を抱えながら、昇降口で待つ母のもとへ急いだ。

──この高校で動物園の中のように騒がしく忙しい生活が待っているとは、このときには知るよしもなかった。

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