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わんわん!

作者: 宮森透

「みなみは犬派? それとも猫派?」

 私の友人は、臆面もなく、こんなことをきいてきた。

生まれてからこれまで、この質問をされたのははじめてではない。質問をされるたびにいつも思うことは、どうしてこんなはずかしいことをまじまじときけるのか、ということである。

犬が好きだろうが、猫が好きだろうが、そんなのはひとの勝手だ。だいたいどうして選択肢が犬か猫の二択なのだろう。こういうことを平気できいてくるのは、どんな色がすきかをきいてくる層とかぶっているように思える。

 面倒くさくも、私はこたえた。

「しいていうなら、猫かな」

「わたしはね、犬派っ!」

「どうして犬なの?」

「だってかわいくない? うちでも犬飼ってるんだけどさ、いっつも鼻をべちゃべちゃに濡らしてとびついてくるの。顔に鼻をすりつけてきて最悪なのに、こうね、思わず抱きしめてあげたくなっちゃう」

「猫はちがう?」

「猫はだめね。愛想がない。みなみみたいに愛想がない」

「余計なお世話よ」

 といいつつ、自身を例えるなら猫だろうと思う。となりの友人は、まあ、犬だろう。暑苦しくも愛くるしい。

 私がぼけっとしているところを、となりからおどかされた。友人ではない。彼女は犬には似ているけれど、わんとは吠えない。そこには大きな犬がいた。

「わんちゃん!」

 自称犬好きの友人はためらいもせず、その大きな犬に近づいた。いわゆるラブラドールレトリバーという犬種で、よごれた茶色の毛がごわごわとたくましい。首にはまっ赤な首輪がまかれており、その手綱は初老のおばあさんが握っていた。

「かわいい。さわっていいですか?」

 許可をもらうまえに、すでに友人の手が伸びていた。

 犬のほうは、その間も、かまうもんかと吠えたてている。きゃんきゃんなんてかわいらしいものではなく、ごわんごわんと和太鼓のようである。非常にうるさい。

「わんちゃんかまないで、かまないでよ」

 そっとあたまをなでようとすると、犬は歯茎をむき出しにして友人に噛みつこうとした。

「きゃっ」

「もうやめときなさい」

 見境ない友人をこれ以上放っておくわけにはいかない。本人にけがをされても困るので、私は友人の襟を引っ張り、犬との別れを強制した。

「どうもすみませんでした」

「いえ、こちらこそすみませんね、よく吠える犬でね」

 とおばあさんは悩ましげな顔をしていた。

 別れたあとも、背後からずっと和太鼓のような犬の声がしていて、本当に迷惑だなと思った。友人はなごやかな表情をいつまでもしていたけれど、とてもそんなふうになれそうもない。

 友人とも別れて家に近づいてくると、いつものように、犬の鳴き声がきこえてきた。またか、と辟易する。家の門をくぐると、犬の声はもっと大きくなった。

「ただいま」

 上がり框でまっていたのは、我が家のほこる名駄犬だった。その鳴き声は夏場のセミよりもうるさく、とてもきくに堪えない。

 わんわん、わんわん。

「うるさいっ!」

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] わんわん、わんわん、わんわん [気になる点] ヴァウッ フフッ ヴァウぅ [一言] くぅーん
2015/08/01 09:39 退会済み
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