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怪獣狩らないと滅ぶ世界について  作者: ザイトウ
【第一章】死にかけ高校生のリトライ一週目
24/50

・第23話・最後かもしれない時間

 地平線まで、景色が霞むその先まで何一つない空間。

 黒い椅子と黒い机、そして転がる六面ダイス。

 目を覚ました空間に存在するそれらを操るのは、顔のない人影だった。


「例えば、だ。選択肢が幾つもある」


男、いや、男に見える誰かは誰にともなく呟く。


「単純に6×2、12個選択肢があるとしよう。最初はそこから始まった」


「まず、目覚める場所、この異世界にて現出する場所だった。岳山領国(がくざんりょうこく)大河国(たいがこく)学術公国(がくじゅつこうこく)法制統合国(ほうせいとうごうこく)南海国(なんかいこく)南方国(なんぽうこく)樹海国(じゅかいこく)盲目領(もうもくりょう)帝国(ていこく)(せい)王国(おうこく)道明大王(どうみょうだいおう)国、龍墜国(りゅうついこく)の計12箇所」


「次に、初めて合う人間。姫、騎士、文官、農民、魔術師、錬金術師、冒険者、召喚師、召使、異種族、異世界の人間、モンスター」


「次に、その道行きだ。冒険者、騎士団、学生、農民、助手、逃亡者」


「そして、目的だ。帰還、定住、探求」


「ここまで言って、何の事か解るか?」


竜樹は、全身の具合を確かめながら応える。

気を失う寸前までの虚無感は和らいでおり、気分こそ最悪だが頭は回転している。


「異世界の人間達、その召喚?」

「正解だ」


立ち上がったのは黒いズボンに白い服、のっぺらぼうのような真っ白な仮面で顔を隠した人影。

「まぁ、幾つかの偶然が重なれば、あと半年はあの世界も問題なかっただろう。それでも精々が半年といったところだが」

滅ぶ予定の世界。異世界の人間による干渉。

 目の前に存在する相手が狂人でなければ、それは空より高い位置に住まう類の誰か。


「貴方が神か?」

「紛い物だよ。管理者の成り損ない、偽神(ヤルダバオート)狂奔者(アジテータ)、もしくは簒奪神(マルドゥーク)祖王(バ・アル)でもいい。管理する力はない、干渉するのが精一杯の神様もどきさ。精々がその姿に君を戻すくらいに」


 竜樹は驚く。黒殻に覆われていた腕も、腰から生えていた尾も、身体に満ちていた膂力も、全てが元に、いや以前の人間としての体に戻っていた。

テーブルが消え、ソファーが向かい合うように出現する。まるで手品だ。


「座りたまえ。さて、用件だけと、経緯含めて、どちらがいい?」


二歩半の距離、向かい合った椅子に気付けばTシャツにジーンズ姿の竜樹が腰掛ける。

 対する相手、神様もどきを名乗った者も、手元に紙コップに入ったコーヒーを片手に深く腰を下ろしていた。

 紙コップのコーヒー、それもまた久方ぶりに見たことを今更に気付く。


「まず、呼んだ目的を」

「それは簡単だ。あの世界を救うチャンスがある。手を貸すか、全てを忘れ日常に戻るか。どちらがいい?」


唐突な言葉に度肝を抜かれる。いや、驚いてばかりで、それが真実かどうかを判じることもできないくらいに混乱していた。単に、虚言を弄してこちらの反応を面白がって居るのではないかとすら思うが、それにしては手が込みすぎていると自ら否定する。


「正解だ。騙すつもりはない。そもそも面倒だ」

「………心も?」

「読める。まぁ、それこそノートやメモ帳を覗き込んでいるような、無機質な形ではあるがな」


逆に、竜樹側に嘘をつく権利はないらしい。

 今更何を騙りたいのかと自問自答のうえ納得し、相手の言う通り、さっさと話を進めることにした。


「それにしても、何故、滅んだ世界を救おうと?」

「滅ぶと困るからだ」

「困るとは?」

「怪獣が溢れる」

「怪獣が溢れる? 何処に?」

「並列する世界中に」

「あー、うん、なるほど」

それだけの単語で何を掴んだのか、整理をするよう竜樹が額を手で押さえる。


「それはつまり、多世界的な話で?」


まず、並行世界、または複数の異世界として次元だの空間だのが存在する。

そのうえでアルグレンテ達の世界、それに竜樹達の居る世界、それらが相互に影響を与えるような存在として結びついている。その結び付きは、各々の世界で怪獣が行き来できるようなものであり、関連する世界が滅ぶと、連鎖的に他の世界にも崩壊が広がる。


「そういった関係だと?」

「その通りだ。そしてその関連性は、我々の今いる、煉獄、または天国の手前にあたるこの世界にまで及び、そのまま幾つもの世界が滅び去る。つまり、私にとっても他人事ではなく、君にとっても他人事ではないのだ」

「それほど大きな障害を与えるとは、あの怪獣という存在は、つまり何の為にあの場に?」

「生物型の災害、ある種の超常現象とでも言うべきものだ。端的には摂理とも」

「よく解らないです」

「だろうな。人間という存在を食物連鎖のピラミッドに戻すためにやってきた何かとでも言えばいいのか。とかく、倒さねば滅びるのさ。我々がな」


絶対悪という存在と比べても、よほどタチが悪い。

 怪獣とは機能として動いていても本能はない。

知性はあってもシステマチックな思考回路でしかない。

神様もどきはそのような意味を説明している。


 そして、神様もどきにはそれだけでない理由もある。


「勘がいいな。こちらの把握している範囲も察したようだが」

「おそらくは。今までの口ぶりから言っても、貴方、えー」

「そうだな、それでは提督、アドミラルと呼んでくれ。それが一番近いかもしれない」

「ではアドミラル、そちらも怪獣の正体は知らないのだな」

「あぁ」


肯定の言葉は短い。

 そして、その答えこそが、この場に呼ばれた全ての根幹なのだと竜樹も納得する。


「だが、何故俺を?」

「正確にはお前も、だ。可能性のある人間全てに、この問いを発している。あの滅びた世界、その要因に関連した全員に声をかけてはいるのさ。元々、その世界の人間達による対処を望んで一部の異世界人による転移を除けば最低限の力添えだけでは経過を見守るつもりだった、いや、見守るしかなかった」

「それ以上できなかった?」

「その通りだ。どのタイミングで破滅に到ったかというターニングポイントすら解らなかった。正直、こちらからあまり関与をするのも危険だったが、現状だと介入した方がまだマシなようでな」

「………成程」


 そして、この二年前への転移で改善できるかも定かでない。

 そして、この干渉が、おそらくこの神様もどきによる介入の限界なのだろう。

 いや、正確には少し異なるかもしれない。


「今いる『この世界』だけを守るのであれば、まだ、手段はある?」

「この場だけを守るのであればな。ただ、この世界だけ守れたとしても、どちらにしろ破滅さ」

「複雑」


考え込む竜樹の目の前、そこにテーブルと一枚の紙が現れた。

 相変わらずの不思議技、というかそもそもこの世界の物理法則がどこか違うのか。

 手にとってみると触感はあった。そんな些細なことに安心する。

 そろそろ自分が見ている走馬灯の一種ではないかと疑っていたが、自称神様もどきことアドミラルの存在は自分の妄想ではないようだ。


「それが条件だ」


アドミラルに示された紙面上の条件は4つ。


1.異世界以降で関わった人間から対象者の記憶は全て削除される

2.今回の崩壊に繋がったであろう要素は全て除外

3.引継ぎ可能なスキルは要相談

4.二年前に戻す


いや、何処のバイト面接だよ? それとなんかわけわからんのがまたあるぞ。

 そう心中でツッコみを入れた竜樹であるが、解る点から確認を始める。


「まず、引継ぎスキル云々だが、みみっちいことを言わずに一番強いスキルだの、真相を解明できるスキルだのをくれなさい」

「できん。単にこちら側の能力的にな。精々が元々あるスキルを限定的に引き継がせることが精々だ」


使えねー。この神様もどきマジ使えねー。

そう思ったが、まぁ、それができたら初っ端からこいつがやっているだろうさ。

竜樹は一人で頷き、あと諦める。


「いや、まずその二年前って時間制限は何故だ?」

「今戻れる最大値だからだ。そもそも、破滅した時間に戻ってどうする?」

「なにからなにまで中途半端だな」

「だから言っただろう? 神様もどきだと」

「ホンモノは?」

「西荻窪のぼったくりバーの営業中に逮捕された」

「おもんないです」

「そうか。自分でもイマイチと思った」


ジョークがあまり面白くないアドミラルはともかく、つまり助力が期待できる相手はいないろいうことだけ理解する。


「ある程度以上の神格となれば、逆に世界との関わりがなくなる。自分のような神様未満でないと関わることそのものができないのさ」

「解るよーな、解らないよーな」

そこで区切る。応えの先延ばしにも飽きてきたところだった。


「さて、どうする? 全てを忘れ、元の世界に戻すことも出来る。無論、怪獣の被害に合わぬよう時間軸は調整しよう」

「ただし、後の被害には逃げ惑うことしかできなくなるわけか」

「その可能性も否定しない」


 溜め息。

 元々選択肢とも呼べなかったようだ。

 それに、卵と鳥、どちらが先だったのか、今はまだ解らない。

 そして、竜樹は応えた。



次回も一月中旬予定です。

次で第一章(仮)はラスト予定です。

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