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怪獣狩らないと滅ぶ世界について  作者: ザイトウ
【第一章】死にかけ高校生のリトライ一週目
17/50

・第16話・ダンジョン探索『地母神の祠』 後編

 地下ダンジョン『地母神の祠』で出会った五人組は、中堅の冒険者パーティだった。数年前から冒険者ギルドに所属して活動し、ほんの数年で中堅こと冒険者階級三級に到達したのは少なく、新進気鋭として活躍しているとのこと。

「すまん、本当に助かった。俺が東郷(とうごう) 賢悟(けんご)。日本、といって解るか? それとも龍墜か道明大王国の出身か?」

長身だが、まだ歳若い青年である賢悟は、十代後半、竜樹より幾つか年上といったところだろう。精悍そうな短髪の男前で、某有名漫画の剣豪の若い頃っぽかった。髪の毛が黒でよかったな緑だとクレームがついただろう。

 装備は長剣に全身鎧。フルプレートでなく武者鎧のような革と金属板を組み合わせた構造をした茶色のものだ。

「日本で解ります。怪獣病で、あと冒険者の南雲 竜樹と申します。で、こっちが喋る虎のメオ」

「よろしゅうたのんまー」

「よろしく。怪獣病というと、あれか」

他の面々が装備や荷物の確認をしている間に、相互に情報を交換したところ、彼は怪獣病患者の大量転移より前にこの世界に来ていたらしい。賢悟が話した大量転移という単語に、そんなに人が沸いて出るようなことがあったのかと竜樹が嫌な気分になる。

「高校から帰る時にいきなり空中に黒い穴が開いていてそれはもう面食らった」

そして、異世界での生活が始まったのが約二年前だったという。

「正直、元の世界に戻りたいとも最初は思ったが、こっちに知り合いができるとどうもな」

転移先もまた幸運だったと賢悟は話す。

 人身売買だのがまかり通っている盲目領ではなく、学術公国へと転移。学生が大半を占める学術都市であるところの学術公国は、学ぶことについては破格の環境が揃っており、身一つで始めた彼は冒険者で生計を立てながら、魔術や錬金術を学んできたという。

「一番最初が上空から学生寮の女子風呂直行だったのも今ではいい思い出だよ」

竜樹はうっすら「こいつ敵だ」と感じ取った。絶対にモテる類だ。

 そのまま今のパーティーメンバー、女性魔術師のエインセル、女性治癒術師のマインの二人と、冒険者学校の教官を勤めていた熟練冒険者にして重戦士のバーディガン老、一緒に転移された弟の東郷(とうごう) 賢二郎(けんじろう)の五人で今回のダンジョン探索に挑んだ。

 そしてあの謎のスライム水槽にフルボッコにされ今に到る。

 手足は再生し、罅割れ程度も塞がってしまう。近接戦をしようとすればあの溶解スライム液による攻撃を受ける。魔術式を放とうとすればスライムの射出攻撃で殺されかねない。

「改めて考えると恐ろしいな。あのスライム水槽」

「そうだろう? しかもあのスライム、魔術的な防壁さえ侵蝕してきたぞ」

物理的、魔術的な防御ができない以上、あとは回避するだけだが、彼等のメンツの中では回避力に優れたのが東郷弟こと賢二郎しかいなかった。

 むしろ、賢二郎がいなければ即座に全滅となりかねない状況が続き、スタミナが切れた賢二郎が狙われた瞬間、バーディガン老が防御に入り、そのカバーに剣を振るった賢悟ごと三人へ打撃が叩きつけられた。

 それがあの瞬間であったという。

 あとは、動きまわる暴力こと竜樹の活躍で難を逃れたとのこと。

 数秒遅ければ人間がドロドロに溶けた状態になる瞬間を目撃するところだろう。

 トラウマになりそうなシーンだが、目撃せずに済んでお互いに幸運だったのだろう。

「それで、何しにこんな辺境に?」

「この祠に古代文明の儀礼設備や護衛用の古代ゴーレムがあると聞いて来たんだ」

つまり?

「装備刷新の為にまとまったお金を得ようと」

それで、隠し部屋なんかも多いこの遺跡を狙ったというわけか。

 この、自動再生式の水槽もどきも解析すればお金になりそうだが、このあとはどうするつもりなのか竜樹が尋ねる。

「正直、戻ろうかと思う。少なくとも当初の目的は果たせそうだし、今の負傷のあとにこのまま進むのもきつい」

そりゃあそうだろうとは思うものの、装備の破損した状態で上まで戻るのは難しい気もするのだが、どうすべきかとメオを見る。人の悪い笑みでニヤニヤしていた。本当に虎かという表情をやたらするやつである。

なにやらこのダンジョンは妙にうさんくさい。ここらで引き上げてもよい頃合でもあった。

べ、別に彼等が心配なわけじゃないんだからね! といった無駄なリアクションを竜樹が示すわけもなく、あくまでついでとばかりに提案する。

「どうする? 必要ならこれ次第で撤退にも付き合うが」

親指と人差し指で丸を作り、金品を要求する。その様子に悩む賢悟だが、集まってきた面々による話し合いが始まる。

「これまでに拾ったアイテムのうち、うちが使わないものと引き換えではどうだろうか?」

「乗った。見せてくれ」

賢悟の階層型収納箱から幾つかのアイテムが取り出される。

 小剣が一本に杖、あとは指輪と首飾りがそれぞれ並べられた。

「小剣って誰か使わないのか?」

「いや、普段なら賢二郎が使うんだが」

「それ、嫌な予感がするからパス。呪われそうな気がするもん」

齢13歳にしてシーフ系のスキル、鍵開けや罠解除に、囮役など、チームの命綱と呼べる線の細い美少年は困ったように眉根を寄せる。兄貴イケメンで弟美少年とか親御さんの顔が見てみたい兄弟だな。この野郎。

 黒革の鞘に柄。剣を抜いてみると、刀身が鏡のように輝いていた。片刃で軽く、振ってみると風を切る鋭い音がした。

 ただ、なんとなく賢二郎が感じた感覚が竜樹にも理解できた。

「これ、少しずつだが魔力を吸っているな。魔剣の類だ」

鑑定スキルもないくせに、五感だけでそういったことを探り出すあたりどっかおかしい。

 こう、世界の法則あたりをどっかで無視している感があるが、単にヴィスラによる魔力的な感性の酷使あたりも関係してそうなので、一概に五感だけというわけでもなさそうなのが可哀相だが。

 ただ、低位らしいが魔剣ともなれば竜樹の武器破壊能力も効果が及ばないはずで、ある意味で何の追加効果があるかは不明だが、彼ほど使い手にちょうどいい人間もいないだろう。

「じゃあこれで」

「よし、じゃあ引き上げよう」

そのままなにやら恐ろしい情報を抱えた竜樹は引き上げた。



 晩御飯の時間には間に合ったようです。

 換金した丘ヤドカリは意外と高価だったことに加え、討伐数の総計が300を超えたことで四級に上がったことでそれなりに満足した竜樹は、幾つか残してもらった丘ヤドカリをイフバルティカに渡し、晩御飯は鍋になった。

「それで、何か収穫は?」

何時も通り、飯前の僅かな時間さえ書類の処理に費やしているオーロックが顔を上げた。

「あぁ、そういえばこれを相談したかったのですが」

そう言って、壁全体が扉だったという地下四層にあった阿呆な隠し部屋から見つけた四冊からなる遺跡補修計画書を見せる。数千年前にしては随分と保存状態がよいものだとも思ったが、紙として使われていたものが、特殊加工された獣の皮だったからという。

 その計画者へ眼を通していたオーロックだが、短く黙考すると、その視線を竜樹に向けた。

「土砂崩れで塞がっているのが幸いしたな。この期間中に冒険者ギルドと連携を図って、最下層付近を調査する必要ができたようだ」

やっぱりヤバい話らしい。

「やっぱり、なんか危険なものが地下に?」

「あぁ。この資料から確認したところだと、地母神の祠の力を使って、後の時代に何かを押し込めたようだ」

「何かって?」

「不明だ。おそらく情報統制だな。肝心な部分は記載されていない」

どうやら竜樹と同じ意見のようだ。封じられたものが発覚するだけでも問題だというのか。

「しかしスライムポッドか。少々困るな」

あのスライム水槽、そんなお洒落(しゃれ)れな名前があるのか。

「スライムポッド?」

「古代兵器の一種だ。大昔に歩兵代わりに使われていたものでな。とある古代遺跡を発掘した際に、数千体出てきた」

「うげ」

「国一つ滅ぼしたあと、極大魔術式の掃射で駆逐されたが、閉所ではコツを知らず戦うのは難儀する相手だ」

「コツ?」

「水属性魔術式で凍らせることだ。再生の阻害とスライムの反応を抑えてしまえば問題の八割は解決する」

「なるほど」

熟練者は語る、である。

「けど、俺はまだ水属性使えないですし」

「それは助かったな。別のモデルだとスライムが出てくると広域に溶解液を撒き散らすものもある」

「聞けば聞くほど恐ろしい兵器ですね」

「兵器だからな。殺す為の道具」

道具。兵器。

 頭の隅で、勝手に与えられた右手を見る。黒い獣を思い出す。

 黒い獣の貌は一体何を見ていたのか。爬虫類とも獣ともつかぬ特撮じみた異貌は。

 あの青い怪獣もまた、その表情から何も見えることはなかった。犬でも、爬虫類でも、動物であれば備える感情や本能の揺らぎが、見ることが出来なかった。人の域を超えた感覚をもつ竜樹であっても。

 しかして兵器ほど無機質なものではなかった。

 その齟齬が、よく、解らない。

 眉根を寄せて考え込む竜樹に対して、書類を脇に置いたオーロックが顔を上げる。

「飯にしよう」

鍋の中では、煮えた丘ヤドカリから磯の匂いがした。丘ヤドカリなのに。



 夜の庭。竜樹は白銀色の小剣を抜く。魔力を吸い始めると同時に片刃の剣身が淡く白に発光する。魔力の吸収を切ると、淡い光が消えた。

「あまり強くないな。制限できそうだ」

扱い方を確認したうえで鞘に戻す。結局、魔剣の能力は未だに不明なままだった。

「うーん」

強くなることに異論はない。とはいえ、何故、どこかで焦っているようにさえ思うのか。

 それは黒い獣が脳裏に過ぎるからだろうか。

 思考を打ち切ると、とっとと部屋の中に戻ることにした。

「………はやく寝よう。嫌な予感がする」

この予知じみた予感は翌日に証明される。

 いや、マジでラブコメとかぬるい人生劇場とかになんねーかなーと竜樹は寝る前に祈った。

 叶えてくれる神様に心当たりが無いのが異世界の哀しさか。

 なんとかなりません? ヒラニヤカシプ様とか。


次回も十一月予定でふ

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