・ 序 ・ 怪獣 対 コンビニ帰りの学生
怪獣。でかくて大きくて立派な何か。そうです化物のことです。
目の前に立ち塞がる巨体を前に、コンビニ袋をぶら下げた高校生にどうすれば助かるのかと南雲 竜樹は鼻水を垂らす。長い尻尾に屈強な四肢、二足歩行する龍とも爬虫類ともつかぬ外見に加え、頭部の左右から伸びる鋭く大きな角。岩石の表面を思わす硬く覆われた皮膚。
人間が咀嚼される音と様子、鉄錆の臭いに吐き気を堪えるのに必死な時間がひたすら長い。
3mという人間の尺度としては巨大だが、建物に逃げ込むことで安全が保障されない絶妙なサイズ。
こういった時はヒーローの1ダースくらい派遣されないものかと思い悩むも、犠牲者第一陣は大抵が怪獣に襲われて命を落とすデモンストレーション役だと厭な想像に思い当たってウンザリした。
震える膝に力を入れながらじりじりと下がる。
夜中にコンビニに行くなどという普段の思考ルーチンとは違うことやっただけでこれか。
厄日かよと、今さらに後悔するがそれこそ今更である。
耳から零れ落ちたのは音楽プレイヤーに繋がっていたインナーイヤホン。音楽を垂れ流しながら地面へ転がっていく先端は黒い液体の中に沈み、音が掠れて消えていく。
思考は途中で投げ出す。目の前では咆哮と共に鼻先をこちらへ向ける怪獣。その手から遺骸を投げ捨てる様子がやけにスローモーションに見える。あらあら走馬灯が見えそうな状況とか余裕ぶっている場合じゃねぇ。
冷静な思考と停滞した本能が撤退を脳へ促すも、下がるより近付かれる速度の方が速い。轟音を伴う突進が至近へ迫り、巨大な腕に捕えられる。溶接されたかの強固な捕縛に総毛だった肌を冷や汗が濡らす。
あ、死んだ。
そう感じた瞬間に竜樹の脳から恐怖が理屈を駆逐した。
竜樹の理性が弾け飛んで限界まで開かれた眼には、ぬるぬると人間の脂がまとわりついた牙、鋭角な先端が迫る。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」
鎖骨を噛み砕いた牙が肉も貫通。感触と痛みを神経が感じるより先に反射的に突き出された指が眼球の弾力に滑りながらも、骨が折れかねない速度で指先を眼窩へ捻じ込んでいく。
「あああああああああああああ!」
悲鳴は途切れない。指先が眼窩と眼球の間に潜り込んでひっかく。巨大な目玉を引き出し、咆哮を上げる怪獣の鼻先へ噛み付いた。数本の歯が折れながら口から零れ落ちるものも構わず、比較的に柔らかい表皮の隙間に犬歯が浅く減り込む。
その間に握られた腕が砕け、あまりの強さに肉ごと皮膚が裂けると血で滑った爪から解放される。眼球の痛みにか、大口を開いた怪獣から跳ね飛ばされるよう竜樹は転がっていく。鎖骨の周囲は大きな牙の穴に引き裂かれ、腕は半ばからぶら下がるよう腱で繋がっているだけの状態で、ペンキじみた濁った黒をした血が、アスファルトに幾重にも軌跡を描いてしみこんだ。
うつ伏せの格好から上体を起こし、荒い息のまま怪獣を睨みこそするも、糸が切れるように路上に倒れ伏す。
一矢報いたにしては、あまりに大きな代償だった。
膝から下には既に力が入らない。出血によるものか、視界からは次第に薄暗く淀んでいく。
全身が震えている。こんな馬鹿な真似をと後悔している。それでいて心に燻っているのは怪獣への殺意。
誰か。誰でもいい、誰か、殺せ。あの化物を。
薄れる意識の中で遠くサイレンが聞こえる。次の瞬間、巨大な鉄の塊が怪獣の腹を貫いたかの映像を見たが、それが幻想か走馬灯の勘違いか、既に解らなくなっていた。
寂しい。怖い。そしてそれらを与えた存在がひたすらに憎い。
それが最後の感情だった。
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次回掲載は2014/09/23 0:00を予定していますです