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26:音の足りないオルゴール





   風にのって聞こえてくるオルゴールの音

   静かなメロディーを奏でて、消えていく

   道端に咲いている花と草を揺らして

   何処までも届くようなオルゴールの音




   幸せな曲だった

   あの日を境に、幸せな曲は消えていた

   あの白い家に住んでいた恋人の一人が、いなくなった時から




   白い家に住んでいた恋人は

   本当に幸せそうだった

   二人はいつも、17時にオルゴールを流す

   クラブが終わり、帰る時刻と同じ、17時に




   いつみても笑いあっていて

   その空間だけが、別の世界に見えた

   なんて素敵な世界なんだろうって

   きらきらと輝いていて

   きっと、誰もが理想としている世界なんだということがわかった




   遠くで、機会の唸る音が聞こえる

   その音はどんどん近づいてくる

   幾つもの機会音が、大きくなっていく




   気がついた時には、崩れ落ちた家々

   穴の開いた地面

   道端に横たわる人々の姿

   そして、灰色の空




   機会音と爆発音が響く

   灰色の空を何台ものジェット戦闘機

   落ちてくるのは黒い物体




   ナチスに占領された

   この国は、ナチスに奪われた

   そして、あのオルゴールの音も




   あの白い家は、半分ほどなくなっていた

   けど、あの人はちゃんと居た

   泣き声が聞こえる

   声が枯れるくらい、泣いていた

   なんて、悲惨なんだろう




   愛する者を失った時の痛みは、どのくらい重いのだろう




   一九三九年 九月一日にやっと終わった

   少しずつ国も変わった

   だけど、あの人は変わっていなかった

   修復された白い家は、前に比べてひっそりとしていた




   17時になると、オルゴールの音が風にのって聞こえてくる

   音の足りないオルゴールの音が、空に吸い込まれていく

   悲しい曲は、流れ続ける




   あの時の理想な世界は、もうない

   理想の世界は壊された

   それが現実という、酷い世界

   理想なんてないことを実感したとき




   こっちの方が素敵なんだと思った

   理想を素敵というより、現実を素敵といった方が

   本当の素敵なんだと思った




   風にのって流れてくるのは

   音の足りないオルゴール







理想の世界なんて、作るだけ。

現実の世界は、壊すだけ。




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