21:ただ殺すだけ
やわらかい風が、窓から部屋の中に流れてくる
その風は、薄暗い部屋でもはっきりと見える白いカーテンを揺らしていた
大きく揺れたり
小さくなったりと不規則に形を変えて揺れる
僕のところにも、流れ込んでくる風は、やさしかった
この部屋に住んでいた夫婦をまたいで
窓に近づく
風はやさしいまま
手にしているナイフからは
赤い血がポタリと床に落ちている
だけど、そんなことも忘れて
僕はただ、風のやさしさを肌で感じていた
殺り終えた後に感じる爽快感は、いつもない
だけど、今は感じる
風が爽快感をくれた
夫婦にもこの風を送ってみようか、と思ったけど
振り向いたら、息絶えていた
舌打ちした
それは、静かな部屋に響いた
僕はただ、殺すだけ
どんな奴でも、気に食わなければ殺す
時間帯は気にしない
殺りたい時に殺る
ただ、それだけ
そんなことを思っても
風はやさしいままだった
殺し終えた後の爽快感は、無い。
自然が運ぶ感情だけは、素直になりたい。




