11:戻らない時間
白く聳え立つ建物
決して入るのことのできない領域
主が招待した者だけが入れる、城
何年・・・・いや、何十年が経っただろう
彼女はまだ、帰ってこない
春の日に主に招待されて、城へ入った彼女は
領域から出てこない
何回春が訪れても、彼女は帰ってこない
『誰を待ってるのかな?』
パン屋の主人に声をかけられた
『彼女を待ってるんです』
『ずっと前の春に、入った子かな?』
『はい』
『諦めなさい』
『何故です?』
『あの子は帰っては来ない』
どこかでは気がついていた
彼女が帰ってこないこと
もういないんだと
『あの子は、殺されたよ』
『わしもあの城に入ったことがある』
『それはもう立派な城でな、見とれていた』
『だが、それも束の間』
『あそこは地獄だった』
『人を喰らう城だった』
パン屋の主人は城を見つめて、唸るように言った
彼女は喰われた
白く聳え立つ、あの城に
彼女と過ごしたあの時間は、もう戻らない
戻らない時間は、過去のこと。
戻る時間は、無いということ。




