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いつかこの手につかむもの  作者: 高霧 蒼
見知らぬ世界
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07

 前日の移動で慣れたのか、それともただ単に道が良かっただけなのかはわからないけど、今日の移動は結構調子が良い方だと思う。

「疲れたらすぐに言えよ?」

 無理はするなと声を掛けてくれたのはグエンで、今日はグエンの馬に乗っている。

「うん。ありがとう」

 昨日はシキとだったから前を進んだのだと思うけど、今は私達を中心にして前をラルフさんが進み、少し離れた後ろにシキが付いていた。そしてシキは左側の腰に、昨日は見なかった細身の剣をたずさえている。

 その形状は、どちらかというと刀に近いような気もするけど、一般人の私にはその辺りの判断がつきにくい。それでもシキの剣はグエンやラルフさんの物よりも僅かに細くて、そして軽そうな感じにも思えた。

 確か昨日は持っていなかったはずだ。だからあれはラシュで受け取った物なんじゃないだろうか。

「シキ、昨日は剣を持ってなかったよね?」

 その確認のためにグエンの顔を見上げて訊くと、グエンは少しだけ考えてから口を開いた。

「ナイフは持ってたけどな」

「え、そうなの?」

 そんなのまったく気づかなかった。一体どこに隠してたんだろう?

「いくらシキ様でも、流石に手ぶらでは出掛けないよ。俺も一応は持ってる」

 それにも全然気づかなかった。

 どこにあるの? と訊いたら、グエンはちょっとだけ上体をらし、羽織っているベストの左側を少しだけずらしてみせた。

 これの呼び方は確か…、ホルスター、で、よかったんだっけ? よくドラマとかで刑事さんとかが拳銃を持ち歩くために身に付けている物と似たような感じの物に、小さなナイフ(と、いうよりは、短剣?)がしっかりと鞘ごと収まっている。その柄は下の方にあったけど、そう簡単には落ちない構造になっているらくて、つばの部分もしっかりと固定されているようだった。

「俺の場合、ここにあった方が使いやすいんだ」

「…と、いうことは、それぞれ違うってこと?」

「好みもあると思うけど、大抵はラルフ様のように右側の太腿に付けているか、俺のように左右どちらかの胸元に隠しているかだな」

 そう言われれば、確かにラルフさんは太腿に付けている。あれは右手を伸ばした時にすぐに取れる位置だ。

 でもシキはそこじゃないみたいだから、グエンと同じように胸元に隠しているのかな?

「シキもグエンと同じ?」

「いや、シキ様は腰になる」

「腰?」

「上着で隠れているからわかりにくいんだけど、柄を左側に向けて、背中で真横に付けてる」

「へー…」

 そうなんだと思いながらグエンの体越しからシキを見てみると、私達の会話が聞こえていたらしく、目が合った途端に左手を後ろに回し、ナイフを引き抜いて私に見せた。日の光を浴びてキラリと反射するそれはとても切れ味が良さそうだ。

「…あれ? 剣は左側にあるから、多分シキは右利きなんだよね? なのになんでナイフは左手なの?」

 ふと感じた疑問を声にすると、シキはナイフを仕舞しまいながら「護身用だからな」と素っ気なく口にする。

「剣を抜いた時に補助として使うこともたまにはあるが、殆どの場合は使わずに終わる。それに右手を怪我した時なんかは左で持った方が色々と便利なんだよ」

「ふぅん…」

 その便利っていうのが私にはよくわからないけど、そういうものなんだと納得していたら、グエンがシキの言葉を引き継ぐ形で「だけど、」と更に続けた。

「流石に正装の時は身に付けたりはしない物なんだ」

「どうして?」

「正装をするのは“それなりの”状況だってことだろう? 保安上剣を持つことは許されているけど、正装を着るような場所で殺傷沙汰があるかもしれないだなんて、誰も考えたくはないしな」

「ああ、確かに…」

 正装って、つまりはスーツのことだもんね。私達の感覚で言ったら仕事をする時とか何かの行事がある時とかってことだから、そんな場所に武器なんか持ち込んだら大変なことになるだろうし。

「ただ、シキ様だけは例外で、そういった場でも身に付けている」

「どうして? ダメなんじゃないの?」

「シキ様はそれを許されているんだよ。シキ様のナイフの位置なら正装でも隠れるし、それに必要な時もある」

 必要な時ってどんな時なんだろう? ちょっと想像もつかない。というか、想像したくない。けど、

「必要な時って?」

 それでもやっぱり訊いてしまいたくなる程度には興味があった。

「例えば、誰かを護る必要がある時だな」

 つまりは要人警護って考えればいいのだろう。映画とかで見るボディーガードってやつ。

 でも、そんなことをする必要がある人ってことは、私達の世界で言う警察みたいな仕事をしているってことになるのだろうか?

 昨日ラルフさんに遮られたままで結局訊けなかったから、今訊いてしまおうかな?

 でも、ラルフさんに釘刺されたし…、うーん。

「…ねえ?」

「うん?」

「グエン達は、…何をしている人達なの?」

 ちょっとだけラルフさんを気にしながらも訊いてみたら、グエンも同じようにちらりとラルフさんの方を見て、次にシキの方に視線を泳がせた。やっぱりダメだったんだろうな。ごめんなさい。

「無理に言わなくてもいいよ」

 言いたくないものを無理に訊こうとは思ってないから慌てて付け加えたら、グエンはちょっとだけ笑いながら「大丈夫だよ」と答えてくれた。

「…なんて言ったらいいのか…。多分なんだけど、お前達の言う、軍隊?」

 ある程度の予想はしていたからやっぱりそうだったんだと納得しかけていたら、すぐにグエンが否定の言葉を口にする。

「…あ、いや、軍隊、ともちょっと違うような…」

 あああ! ど、どうしよう。今すごくグエンを悩ませている気がする。そんなつもりはなかったのよ! と、一人であたふたとしてたら、今度は後ろの方から「軍隊とは、」と言うシキの声が聞こえてきた。

「つまりはその国に属する部隊のことで、主に自衛の為に存在しているものだろう?」

「…多分、そうだと思う」

「多分か」

 少しだけ笑いながら馬の脚を早めて私達の隣りに並ぶと、シキは静かな声で言葉を続けた。

「『自衛』という意味ではお前が考えているようなものとそうは変わらないと思うが、もっと正確に言えば、俺達が護っているものは国ではない、ということになる」

 えっと、意味合い的には変わらないけど、その役割が違うってことでいいのかな…?

「お前の感覚で言う軍隊というものは、その国全体を護るものだろう?」

「うん」

「だが、俺達が護っているのは国ではなく人だということになる」

「人って、どんな?」

「この国を動かすのに必要な立場にある人物、と言えばわかるか?」

 ああ、やっぱりそうなるのか。

「つまりは要人ってことだよね?」

「言い方は色々あるけどな。ただ、立場上国の為に動くことも多いから、お前が考えているような軍隊だと思っても間違いではない」

「でも、本当は違うんだよね?」

 シキが何を言いたいのかは伝わってくるんだけど、微妙な説明過ぎて上手く纏められないでいたら、シキは「そうだな…」と呟き、言葉を選びながら口を開いた。

「…ユウナから聞いただけの知識だから役割的なものがどう違うのかまではわからんが、お前達の言葉を借りるのならば『ケイサツ』の方が近いのかもしれない」

 あ、なるほど。確かにそっちの方がわかりやすいかもしれない。というか、私がわかった。…とは言っても、その辺りの違いを正しく理解出来てるわけじゃないんだけども。

 でもそれを説明したお姉ちゃんにもきっとわかってないと思う。それなのにある程度であっても理解出来ているらしいシキはすごい人なのかも。

「そういう人達のことを、こっちではなんて言うの?」

 続いて出た私の問いに答えてくれたのは、シキではなくグエンだった。

「その国によって呼び方は変わるけど、グウィンヴァールでは衛兵とか警備兵の方が一般的かな」

「グエン達もその中に入っているって考えていいのね?」

「…………多分?」

 ……なにその随分と長い間は? 違うなら「違う」って言ってくれればいいのに。

 グエンの反応にむーっとしてたら、シキの笑い声が耳に届いた。

「まぁ、その辺りは本当に微妙だしな。だからあまりグエンを悩ませないでやってくれ」

 なんだかとっても楽しいものを見ているように笑うシキをきっ! と見たら、同じタイミングで視線がそららされる。

「もっと安全な場所まで着いたら、ちゃんと説明してやるよ」

 ちっ! カンのいいヤツめ! おかげで反論する機会を逃しちゃったじゃないか。もっと色々と訊きたかったのに、先手を打たれたら黙るしかないじゃんか。

 いいもん別に。あとで教えてくれる、な…ら?

(あれ?)

 朝食の時に、シキは迂回ルートがあると言っていた。そして、その道の方が安全だとも。

「……ねえ?」とグエンに寄りかかって顔を上げたら、グエンは複雑そうな笑みを浮かべたままで私を見下ろした。

 まぁ、ただだまーって前を進むラルフさんと同様に、グエンにもシキを尊敬しているような節も見られるから、気が気じゃなかったんだろうけどね。

「この道って、そんなに安全じゃないの?」

「そういうわけじゃないけど、用心するに越したことはないだろう?」

「それはそうなんだけど…。どこまで用心すればいいの?」

「少なくとも教会に着くまではってとこかな。その後のことは状況次第だと思う」

 そして目的の教会まではあと半分ぐらいだと教えてくれたけど、周りの景色は森ばかりで何の変化もないもんだから、私にはさっぱりわからない。

「何か目印になる物でもあるの?」

「もう少し進むと川があるんだ。そこまで行けば景色も変わるから、それが目印代わりって感じかな。あとは経験と勘」

 そうですか。経験とカンですか。初めて通る私には全くないものですね。わかりました。

 でもさ、カンって案外役に立たないものだよ? とか思っていたら微かに水の流れるような音が聴こえ始め、そして私の髪を水辺特有の冷たい風が撫でていった。

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