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なんて骨体!  作者: 800
第二章 もっと瘴気を!
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もっと瘴気を! その4

 どんっ!


 と再び解き放たれた瘴気塊が、複数の墓石を薙ぎ払う。


「下級アンデッドの分際で、優雅な暮らしをしている、ってのがむかつくのよ。特にそこの。一山幾らの雑魚の分際で、よくもこの私に意見してくれたわね!」

「なんだと! 一山幾ら、ってなんだ。俺等なめんのも大概にせいやっ!」

「そうだそうだ! 吸血鬼なんて弱点多い中途半端アンデッドのくせに!」

「うるさいっ!」


 どごぉぉぉぉぉん!


「うひゃうぅぅぅっ!?」

「ひょえぇぇぇぇっ!?」

「ああっ! カール! クライス!」


 吹き飛ばされる彼らを見上げ、悲痛な叫びとは裏腹に、軽いから良く飛ぶなぁ、などと思ってしまったロブグリエであった。


「さぁ、次はあなたが星になる番よっ!」


 カマ男爵が、掲げた手に集めた瘴気塊を解き放とうとしたその時、ロブグリエの近くの墓から、立派な袈裟を着たミイラが、のそり、と出てきた。


「わ、わしのはかがぁ~」

「おい、じいさん危ないぞ」

「ワ、ワイズマン! 何でそんなところに?」

「わしのはかがぁ~」

「…………」


 たしか、ワイズマンって、そんな名前の幹部がいたなぁ、とロブグリエは思い出した。

 にや。と笑みが浮かぶ(つもり)。


「どうやら幹部のワイズマンさんは俺の作った墓がよっぽどお気に召したようだな」

「わしのはか~」

「……たしかに、これで幹部の意見は二つに割れたわけだな」


 ゴッサムは内心、面倒くさいことになったな、と思いつつ一応肯定した。


「よし。なら、後は俺等の票で……」

「あー、それはない。幹部以外に決定権は無いから」

「なんだとうっ!? 民主主義は死んだのかっ!?」

「そんなもん、最初から無い。っていうか、民主主義、ってなんだ?」


 どうすれば、とロブグリエの頭の中にいろいろな策が浮かんでは没になっていく。


「うぬぅ……、こうなったら、直接ヤツをぶちのめして、意見を変えさせてやるっ!」


 結局、力業しか思いつかなかった。


「なかなか笑えること言ってくれるわね。でもいいわ。私もあんたをぶちのめして、ストレス解消をさせてもらうわ」

「……ありなのか、こういうの?」

「……ありかどうかは分からんが、無茶だとは思う」


 ざわざわと騒ぐアンデッド達。野次馬が大分増えてきた。


「まぁ、本当に倒せるんなら、お前を幹部として取り入れてやる。そうすれば、この件はお前の裁量で適当に収めてかまわん」


 ゴッサムの爆弾発言に、おおっ! と動揺が走る。


「ってことは、この決闘が幹部採用試験になる、ってことか?」

「出世だのう」

「それは勝てれば、の話だろ」

「どうせなら勝てよ」

「俺はロブグリエが勝つ方に賭けるぜ!」

「俺等、賭に出せる物なんて持ってねぇよ」

「お前は下級アンデッド希望の星だぁ」

「はっはっはっはっはっ!」


 カマ男爵はそんな下級アンデッド達の言葉を笑い飛ばした。

 すぅ、と地上に降り立つと、


「下級アンデッドが私に勝てるわけ無いじゃない。夢見るほどの余地もないわ。まぁ、その度胸だけは買ってもいいわ。さぁ、かかってらっしゃい!」

「十字剣、十字剣、十~字~剣~!」

「げっはぁぁぁぁぁぁっ!」


 ちょっと前まで余裕ぶっこいていたカマ男爵は、問答無用で斬りつけてきたロブグリエの十字剣にいきなりボロボロにされ、余裕のない美しくない悲鳴を上げて逃げまどった。


「ちょ、ちょっと! いくら何でもそれは反則じゃないのっ!」

「どこがっ!?」

「アンデッド同士の決闘で、聖剣持ち出すなんて無粋じゃなくって?」

「無粋かもしれんが、反則じゃねぇ」


 ロブグリエは言い切った。


「俺が聖騎士装備を持っているのは見れば分かることだろう。この道具を使いこなすことも俺の力の一部だ。俺と決闘しようってんなら、この程度覚悟しておいてもらおうか」


 おおおおおおおおおおっ!


 と、見ていたアンデッド達から歓声が上がる。


「おい、本当に勝っちまいそうだぞ?」

「いいじゃねぇか。俺は前からあのクソ吸血鬼は気に喰わなかったんだ」

「安心するのはまだ早い。あれは腐っても幹部だ。それほどダメージは受けていない」

「吸血鬼は腐ってねぇぞ。ゾンビじゃあるまいし」


 野次馬達は完全に観戦ムードになっており、のんびりと見物したり、適当な解説をしていたりする。

 ほとんど全員のアンデッドが来ているみたいで、墓場がちょっと狭く感じる。


「って、お前等、仕事はどうした? 仕事はっ!?」


 ゴッサムが怒鳴っているが、


「まぁ、まぁ。こんな事になっては仕事どころじゃないじゃろ。それよりジャッジはよそ見してはいかんぞい」

「誰がジャッジだ」


 ……早く決着をつけないといかんな。


 と、その様子を横目で見てロブグリエは思った。


「なるほど、ちょっと甘く見すぎたようね」


 カマ男爵はちょっとは表情を引き締め、

 ばさり、と。マントをはためかせ宙に浮かんだ。


「なら、剣の届かないところに逃げればいいだけのこと!」

「ホーリー・投石!」

「んぎゃっ!」


 ロブグリエが適当なことを言いつつ投げ放った石ころは、カマ男爵の頭部を直撃した。


「ホーリー・ドロップ・キック!」

「ぼへぇっ!」


 続いて、フラフラと落ちてきたカマ男爵に跳び蹴りを噛ます。


「ホーリー・スタンピング!」

「ひげぇっ!」


 どすどすどす、と。地面に転がるカマ男爵を踏みつける。

 仮にも聖騎士を名乗るヤツのやることじゃない。これの何処が神聖なんだか。


「ちょっと待ちなさいよっ!」


 何とか逃げ出したカマ男爵は、


「なんでもホーリーとつければ神聖魔法になる、ってもんじゃないでしょっ!」

「むぅ、ばれたか」


 実際に神聖魔法を使ったら、ロブグリエ自身もダメージを受けるんだし、そうそう使うわけにはいかない。だが、


「そう言っておいた方が、何となく聖騎士の戦いっぽくない?」

「それはない」


 応援してくれていた下級アンデッド達からも否定される。

 一応、祝福を受けた聖騎士の鎧のブーツで蹴っているから、ただのケリよりは効くはずではあるのだが……


「なら、これならどうだっ!」


 ロブグリエはカマ男爵の腕を取って、ひっくり返し、


「ホーリー・腕拉ぎ十字固めっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ! って、また!?」

「わははははははっ! これをただの関節技と思ってもらっては困る! 吸血鬼にはよく効く『十字固め』だっ!」

「ああああああああっ! そう言われて見れは、何だか効く気がしてきたっ!?」

「今更が気がついても遅いっ! どうだ? ギブか?」


 ぎりぎりぎり、と更に捻り上げる。人間なら既に腕の腱がどうにかなっているところだが、さすがアンデッド。なかなかに丈夫だ。


「こんなものっ! 霧になって逃げれば……、って、なんでっ!? 霧になれない!?」

「馬鹿めっ! 『十字固め』だと言ったろうがっ! 十字で固める、即ち、十字架に張り付けにしているのと同じ効果! そう安易に逃れられると思うなっ! 教会が対吸血鬼用に編み出した聖なる関節技(嘘)、とくと味わえっ!」

「ぎぇえぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 じたばたじたばた。ばんばんばん。


「はい、勝者、ロブグリエ。一分三十二秒。決め手、ホーリー・腕拉ぎ十字固め」


 カマ男爵が地面を叩いたのをギブアップの印と見て取ったゴッサムは、何だか投げやりにロブグリエの勝利を宣言した。


「つーか、情けないぞアルベルト。お前、それでも幹部か? 良いとこ無しじゃないか」


 儂って部下に恵まれてないのかも、とかぼそぼそ呟くゴッサム。


「反則よ~、アンデッド同士の戦いに祝福兵装持ち出すなんて反則よ~」


 右腕を変な方向に曲げて、カマ男爵はしくしく嘆きつつ言い訳をしていた。


「ったく、見苦しいぞ。なんなら、回復魔法を掛けてやろうか?」


 聖騎士の回復魔法は、当然、神聖魔法に分類されます。


「お断りよっ!」


 がばっ、と身を起こし、ばっさばっさと飛んで逃げるカマ男爵。


「……なんだ、元気じゃん」


 と、それを見送ったロブグリエは、彼の勝利で沸き立つアンデッド達の前に立ち、


「よっしゃっ! 俺が幹部になった暁には、アンデッドの人権保護を最優先とする。豊かで文化的な人間らしい暮らしを約束しようっ!」

「……アンデッドが人間らしい暮らし?」

「ほら、あいつは生前の癖を引きずってるから」

「それはいいが、無理矢理草刈りに付き合わされるのはもう御免だぞ」

「草刈りくらいならまだいいだ。おらなんか、墓石用の石を運ばされたど」

「お前らぁぁぁぁぁっ! そんなに働くの嫌かっ!? 健全な肉体に健全な精神宿る、って言うだろうがっ!」

「アンデッドが健全な肉体、とか語るか?」

「腐ったり、骨だけだったりしてるもんなぁ……」

「それに、最低限の瘴気量しか供給されてない俺等下級は、無理が利かないからな」

「そうそう。人権言うなら、俺等の意見効いてから決めてくれよ」


 そこでロブグリエはキッ、と鋭い目でゴッサムを睨み、


「つーわけで、我らの豊かな生活のために、もっと瘴気を!」

「そんな余裕無い、って言ったろう」


 ゴッサムはローブの袖から闇の塊を取り出し、


「お前も幹部になったんだし、そこん所は自分の裁量で何とかしろ。ほれ、幹部の証」


 とその闇をロブグリエの肋骨の中に押し込んだ。


「な、なんだ?」


 ロブグリエはその違和感に、ぐねぐねと身をくねらせた。


「『コンバータ』、だ。人の負の感情を瘴気に変換するものだ。これで儂を経由せずに瘴気を得ることが出来る。それを他のヤツらに配布することも可能」

「それを全員にくれてやれば、働いた分だけ瘴気を得られるようになるんじゃないか?」

「確かに、そうなるがな。これは幹部用だ。儂に依存しないで存在できるようになるんだぞ。信用できるヤツにしかやれん」


 こん中で一番信用できないのは、一番新入りの俺じゃないかなぁ……、とか思うロブグリエだったが、とりあえずそれは飲み込むことに。


「というわけで、頼んだ」


 ゴッサムは、ポン、とロブグリエの肩を叩き、


「吸血鬼等、自称上級アンデッドと下級アンデッドの間の軋轢は何とかせねば、とは思っとったんだが、面倒臭くってな。儂から見れば大差ないってのに、そんなことにいちいち手間掛けるのもなんだしな」

「……俺は中間管理職かよ」

「その通りだ。何だと思ってたんだ?」


 ……まぁ、いいか。とロブグリエは思う。どうせ、ゴッサムはほとんど死んでいて出て来ないし、他の幹部もあんまり動かない。ならば俺が実権を握ることはそう難しくない!


「……声に出てるぞ。そういうのは心の中だけにしておけ」


 ゴッサムが冷ややかな口調で忠告した。

 何はともあれ、予定通り出世して幹部になったロブグリエ。

 後はみんなを更生させることが出来ればいいのだが、アンデッドの常識とずれたロブグリエの言うことをみんなが聞くかどうかは甚だ疑問だ。


「そうだっ! 老後のために、瘴気の積み立て、ってのはどうだ?」

「アンデッドに老後があるかっ!」

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