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なんて骨体!  作者: 800
第一章 生まれ変わってスケルトン
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生まれ変わってスケルトン その4

 その工房の前までやって来ると、中からガンガンカンカンとうるさい音がする。

 扉を開けると、むわっ、と暑苦しい空気が流れ、音は更にうるさくなる。

 中にはいると、剣を研いでいるもの、剣を造っているもの、鎧の穴を塞いでいるもの、鉄板を曲げて鎧の部品を造っているもの。いろいろいた。しかもそのほとんどがスケルトン。


「おーい、トーマス」


 サムソンはその中の一人、剣を研いでいたヤツに声を掛けた。


「ん? どうした? ああ。新入りか」


 トーマスと呼ばれたスケルトンは、サムソンの後に続いたロブグリエを見て納得した。


「そうだ。名前は……スケルトン28号?」

「ロブグリエ。だ。ちゃんと名乗ったろ」

「おお。そうだった。……で、新入りのロブだ。んで、こっちがスケルトン組のまとめ役でトーマス」

「よろしくな。話は聞いているぜ。元聖騎士だったそうじゃないか。期待しているぞ。何せ正面切っての戦闘では、俺等スケルトンが主力だからな」

「そうなのか?」

「そうだ。ゾンビやゴーストは脅かす方が専門だな。あと、一つ忠告しておくが、十字剣は抜き身で持ち歩かないでくれ、他のアンデッドが怯える」

「ああ、すまない」


 ロブグリエはトーマスにマナー違反を指摘されて慌てた。ここのアンデッド達は、アンデッドらしく非常識な面と、らしからぬ常識的な面を兼ね備えている。

 今まで知らなかっただけで、ひょっとしたらアンデッドってそう言うものなのかも知れない。なにせ、元々人間なワケだし。


「ほれ」


 と、トーマスが革の鞘を放ってよこしてくれた。


「とりあえず、それつかっとけ。後で返せよ」

「わかった。恩に着る」


 ロブグリエが十字剣を鞘に収めつつ礼を言うと、


「んじゃ、そろそろ日も暮れてきたみたいだし、次行くか」


 とサムソンが促した。


「おう。班分けは後で決めて教えてやるからな」


 とトーマスに見送られ、工房を後にする。


「日が暮れてくると、ゴースト組が出稼ぎに出る」

「出稼ぎ?」

「おう。ちょっとそこら辺の街まで行って、枕元に立ったり、ポルターガイスト起こしたりして脅かしてくるんだ。とろいヤツだとすぐに捕まって除霊されたりするんで、ベテランにしか任されない仕事だがな」

「……へぇ、そうなんだ」


 ロブグリエが気のない返事をしていると、すぅ、と壁からゴーストが透けて出てきた。

 どうやらかなり年季の入ったゴーストのようで、元の形があやふやになりつつある。


「お、ジェームスさん、出るのかい?」

「いや、我が輩は昨日出たので今日は休みだ。ただ、今日出る奴らの激励だけは、と思ってな」

「相変わらず面倒見がいいな」

「それが年長者の努めであるからして」

「それはいいが、透けて出てくるんなら、出来るだけ扉から、だろ」

「うむ。すまん。ちょっと寝起きでぼけていたようだ」


 と、そこでジェームスはロブグリエの方に意識を向け、


「む、見慣れぬ魂の色だ。新入りか」

「ああ。そうだ」

「なかなかよき魂だ。体が朽ちたらゴーストになるがいい。歓迎するぞ」

「……そのときは大人しく成仏したい」

「はっはっは。面白いことを言うヤツだ。魔族に魅入られたヤツが成仏できるわけ無いだろう」


 やっぱりそうなんだ。

 激しく落ち込むロブグリエ。

 どうせおいらは人の道を外れた駄目な男さ……


「じゃ、我が輩はこれで」

「おう。またな」


 そんな彼を放っておいて、挨拶を交わして別れるジェームスとサムソン。


「で、ゴースト連中の他の仕事と言えば、その隠密性を活かして情報収集なんかしたりもする……、って聞いてないな。おいおい、開き直ったんじゃなかったのか?」

「ちょっとくらい落ち込ませろ。聖騎士見習いとして、神に見放されるのは相当ショックなんだぞ」


 サムソンは頭をぽりぽりとかきつつ、


「あのな、俺にはよく分からんが、本当に見放されたなら、ゴッサムのダンナに喰らわしたような神聖魔法は使えないんじゃないか?」

「……おまえ、人を励ますのが上手いな」

「こうみえてゾンビになってから長いからな」


 こうみえて、と言うのがどう見えると言うことなのかロブグリエにはよく分からない。

 あまり腐敗が進んでいない、と言うことだろうか?

 とにかく、サムソンのおかげで早々と立ち直れたことだけは確かだ。


「んじゃ、立ち直ったところで、次は俺達ゾンビの見せ場だな」

「ゾンビの?」


 ゾンビが集まっているところを想像しただけで腐臭が漂う。……と言うほど実際のゾンビは臭くないみたいだが。みんな匂いを気にしてか、香水とか使っているらしい。


「おう。ここだ」


 と、部屋に入る。

 中には十数人のゾンビがいて、その前に指揮者の如く一人のゾンビが立っている。

 部屋は割と広めで、これだけの人数がいても手狭な感じはなく、外に向かって大きく開け拡げられた窓が更に開放感を助長する。


 うぅをぉぅぇ……

 おあぁ……ん、んんっ……、おぅあぁぁぁ……

 うるぉぉぉ……あうぅあぁぁ……


「な、何やってんの?」


 その不気味さに気圧され、思わず後ずさりながらロブグリエは問うた。

 アンデッドの仕事が人をびびらせる事だ、というなら、これは見事な仕事だ、と言えなくもないだろう。


「見てれば分かる」


 ばっ、と指揮者らしき男が手を挙げると、みんなのうめき声が、ぴたっ、と止まる。

 そして、再び大きく手を振り出すと、


『うぅぅぅおぉぉぉぉぉぉ……』

『あぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ……』

『ぐをぉぉぉぉうぅあぁぁぁぁぁぁぁ……』


 うめき声の大合唱。


「まさか、これって……」


 ロブグリエはここに来る前に聞いた噂話のことを思い出した。

 あの山の方からは、夜な夜な不気味なうめき声が聞こえてくる。と。


「わざわざ声を揃えてうめき声?」

「当然だろ。でなきゃ、街まで届かん」


 確かに遠いからなぁ、と思わず納得してしまう。


「じゃなくて、ゾンビのうめき声、ってただの演出なのかよ?」

「当たり前のことを。四六時中うめいているバカなゾンビなんているわけ無いだろ」


 いるわけ無いんだ。そうなんだ。

 アンデッドは死ぬに死ねない苦しみを訴えたくてうめくんだ、って言うのはガセネタですか。何も知りもしない人間が適当にそれらしくでっち上げた作り話ですか。

 ロブグリエはまたもや判明した、今まで常識だと思っていた知識の間違いに凹んだ。

 なんだが、意気込んで魔族退治に来た自分がどこか空回りしていた、と思わされる。


「うむ。いつもながら我らのコーラスは見事だ。人々の脅える顔が目に浮かぶようだ」


 サムソンはしみじみとそう言う。


「大体の案内はこんな所だ。細かいことは仕事しながら覚えておけ。ああ、それから、北の窓の無い塔は幹部の吸血鬼の住処になっているんで、近づかない方がいいぞ」

 と、説明したところで、


「そうだった。あと、スケルトンの溜まり場に案内しておくか」


 と付け加える。


「俺達アンデッドは寝なくていいから寝室というものはない。だから常にどこかで勝手に何かやっているわけだが、同族で集まった方がいい場合があるんで、それぞれの溜まり場ってのがあるんだ」

「あれ? さっきのゴースト、ジェームスだったか? 寝起きとか言ってなかったか?」

「ゴーストの場合は依り代を持たない分、昼の強い気に弱いからな。厳密な意味では寝ているわけではないが、まぁ、似たようなものだ」

「ふ~ん。あ、そうだ。溜まり場に行く前にロッカールームに行こう。鞘を取ってきて、これは返さなければ」


 と、ロブグリエは借り物の鞘をポンと叩いた。


「ん? あとで工房に戻しておけばいいんじゃないか?」

「いや、ちゃんと礼を言って返しておきたい」

「じゃ、そうすっか」


 と、二人はロッカールームへ。

 ロブグリエは鞘とベルトを取り出すと、腰骨に適当に引っかけた。肉が付いていた頃とは同じようには収まらないが、仕方ない。


「どうした?」


 しばらくロッカーの中身を見ていたロブグリエに、サムソンが声を掛けた。


「いや、そう言えば、工房で鎧を手入れしていたヤツがいたなぁ、と思って」


 ロブグリエは疑問を口にする。


「スケルトンでも鎧着れるのか」


 試しにガントレットをつけてみるが、骨だけの腕ではベルトを幾ら締めても足りず、すかっ、と抜け落ちる。


「……なぞだ」

「骨を繋いでいるのと、同じ力を使うんだよ」


 サムソンが簡単な説明をしてくれた。


「その分、高い技量を必要とするがな。スケルトンより骸骨騎士の方が格が高い理由だ」


 見た目が強そうだから、じゃなかったんだ。


「慣れないと無駄に疲れるだけだぞ。無理して鎧着ることもないだろ」

「しかしなぁ……」


 ロブグリエは今まで何となく感じていたことを言う。


「なんつーのか、肉が無くなって骨だけになった分、体がすーすーするというか」

「そりゃ、な。だから鎧でも着たいと」

「ああ。ちょっと落ち着かなくてな。例えるなら……、そう。まるでパンツをはいてないみたいだ」

「……たしかにはいてないな」


 サムソンは適当に頷きつつ、内臓を落としたときのような気分かな、と想像する。


「まぁ、どうしても鎧を着込みたいなら、その辺の瘴気のコントロールについてはトーマスにでも聞けばいいだろう」

「なるほど。じゃ、早速聞こう!」


 がしゃがしゃと走っていくロブグリエ。


「おいおい。何処行けばいいのか分かってるのかよ」


 慌ててその後を追うサムソン。

 ロブグリエはぴたっ、と足を止め、引き返し、


「何処だ?」

「テラスだよ」




 テラスに来てみると、大勢のスケルトンが、ゾンビやリビングメイルもいたが、煌々と照らす月明かりの下、かちゃかちゃと躍っていた。

 慣れとは恐ろしいもので、人間の頃ならば不気味な儀式でもやっているんじゃないか、と思えるそれは、なにやら楽しそうに見えた。


「スケルトンの溜まり場じゃなかったのか? ほぼ全種類居るんじゃないか?」

「ああ。今日は満月だからな」


 ……なるほど。わからなくもない。と、ロブグリエが月を見上げながら思っていると、


「お、新入り。ロブだったか。お前も混ざれや」


 ぐにゃぐにゃとたこ踊りをしていたトーマスが、ロブグリエに気付き声を掛けてくる。


「ああ。トーマスさん。鞘ありがとな。何処に戻しとけばいい?」

「おう。持ってきてくれたのか」


 トーマスはその鞘を受け取ると、自分の剣を収めた。


「あんたも抜き身で持ち歩いていたのか……」

「お前さんのような聖剣でもなきゃ、俺達にとっては大して害はないからな」

「むぅ、やっぱり十字剣みたいな聖剣の類はまずいか」

「いや、別に。好きにすればいい」


 トーマスは最低限のマナーさえ守ればかまわん、と言う。


「そんなことより、躍れ」

「その前に、ちょっと聞きたいんだが」

「ん? 何をだ?」

「どうすれば鎧を着込めるようになる?」


 ロブグリエはさっき言ったような理由以外に、アンデッドになっても聖騎士の志は忘れずにおきたい、と言う理由でその鎧を着ていたかった。


「気合いだ」


 トーマスはガッツポーズを取り、そう言いきった。


「気合い?」

「そうだ。後は慣れだ。瘴気のコントロールなんて、所詮精神力の問題。だったら気合いしかないだろう」


 わかりやすいが、わかりにくい。

 ……そうそう都合のいいコツなんて無い、と言うことか。


「特におまえの場合は難しい。祝福の聖騎士装備なんて、コントロール間違えればこっちの瘴気が削られるからな。フル装備できるようになれば、幹部クラスの実力が備わっているって事になんじゃないか?」


 なるほど、と腕組みをして考えるロブグリエ。やっぱり少しづつ慣れていくしかなさそうだ。とりあえず、ガントレットだけとか、その辺から。


「難しい話は終わりだ。躍れ躍れ~!」

「しらふで躍れるかっ! 酒はないのか!」

「なにぃっ!? おまえ、スケルトンなのに酒が飲めるのかっ!」

「いや、勢いでつい……」

「なら勢いで躍れ~」

「あんたこそ、本当に酔ってないのか?」

「わはははは。月明かりは魔力を乱すからな。ちょっとした酩酊気分を味わえるぞ」

「そう言うモンなのか?」

「躍るといい具合に酔いが回るぞ」


 魔物が満月でパワーアップするとか言う話なら聞いたことがあるが……


「わははははははっ!」


 カタカタカタカタカタ……


「えぇいっ! もうヤケだっ!」


 がちゃがちゃ……


 月明かりの下、アンデッド達の宴が続く。

 こうしてロブグリエのスケルトン人生が始まった。

 人ではないし、生きてもいないのを人生と呼んでいいかは、ちょっと微妙。


「おおっ!? ホントにこりゃ、いい気分だぁぁぁぁぁっ!」

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