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なんて骨体!  作者: 800
第八章 天より来るもの
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天より来るもの その2

「失敗、ですか……」


 エリュシエルはちょっと意外そうに、驚いたような表情を浮かべた。


「魔族のクセに、フィルターに掛けて綺麗な瘴気だけを取り出そうとは……」

「綺麗な瘴気、とか……、違和感がある表現ですが……」


 ロブグリエに出来るのは、ツッコミくらいのものである。それ以上のこと、面と向かって逆らったりは出来ない。ドミニオン級天使の支配力は伊達ではないのだ。


「あの……、俺、もう帰っていいでしょうか?」


 見回りの時間に抜けてきたロブグリエは、程ほどのところで戻らないと怪しまれる。


「やる気なさそうですね?」

「いや、何と言うか……、アンデッド仲間のみんなを犠牲にして、俺だけ助かる、ってのはちょっと……」


 数ヶ月の間、行動を共にした仲間たちである。彼等は元人間ということもあって、まともに話が通じるし、結構仲良くなっている。

 それに、今や娘もいる。正直言って、見捨てたりはしたくない。


「そんなことを気にしていたのですか」


 何を言っているのだ、と、エリュシエルは呆れ気味であった。


「だったら、なおさら魔族の手から開放してあげるべきでしょう」

「え? 一網打尽にするんじゃ……」

「それは滅ぼしつくす、と言う意味じゃありませんよ。大体、魔族に囚われた魂なら、助けるのが当たり前でしょう」


 よくよく考えればその通りであった。この天使の仕事の本質は、魔族を倒すことではなく、神の御許に行く魂を増やすこと、と言ってもよい。


「それとも、私がそんな冷血な天使に見えましたか?」

「いえ、そんなことは……」

「まぁ、脳筋のパワーズには、そう言うのもたまにいますが……」


 本当に、パワー級天使が出てこなくて良かった。本当に良かった……。


「とにかく、煉獄で根性を鍛えなおす必要はあるでしょうが、その後はちゃんと輪廻の輪に戻れますよ」

「ってことは、退治されるのはゴッサムだけ、か……」

「神の軍門に下るなら、それも受け入れますが」

「……懐広すぎだろ、それは……」


 人間が思ってるより、魔族と神族の違いなんてないのかもしれない。他の宗教の神様を悪魔呼ばわりすることも珍しくないのだし。


「と言うワケで、憂いなく次の作戦に行ってみましょう!」

「おー! ……ん? なんか上手く乗せられてる気が……」




 作戦その二。


「熱湯消毒作戦!」

「なんでやねん!」


 毒団子の次は熱湯……


「さっきから、そりゃ、Cの退治方法でしょうがっ!」

「魔族もCも似たようなものでしょう」


 こんなノリでは、神族と魔族の戦争が終わらないワケである。害虫相手に、和平などありえないのだから。

 よくそれで、軍門に下るなら受け入れる、とか言えたモノである。


「一応、ちゃんと効果のある作戦を考えてますから」


 注:ここからはエリュシエルのイメージです。


〈ロブ〉「お? こんなところに温泉が湧いてるぞ。『地獄温泉』だってさ」

〈ボス〉「なんだと? じゃあ、さっそく入ってみるか」


 温泉は地脈の力を大きく受けるので、神気や瘴気が地脈に沿って集まってくることがあります。

 ここは名前からして、瘴気の方が集まっているみたいです。


〈ボス〉「こりゃいい気分だ。体中の瘴気が活性化するようだ」


 しかし、実はこの温泉への地脈の流れは、人工的に整えられたもの。

 要石一つ動かせば、たちまち神気が集まり、まるで聖域のようになってしまいました。


〈ボス〉「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!? 何じゃこりゃぁぁぁぁっ!?」


 しかも、エリュシエルが天使の力で聖域化をブーストしたので、効果覿面です。


〈ボス〉「あぱぁぁ…………」


 こうして哀れな魔族は昇天したのでありました。

 めでたし。めでたし。


 イメージ終わり。


「完璧な作戦です!」

「…………」


 フンスッ! と鼻息を荒くして力説するエリュシエルに、ロブグリエは何も言えない。


 どこが完璧なんだか。誰がどう見ても穴だらけである。

 そもそも、温泉見つけて即入ろう、と言う思考が短絡的過ぎる。し○かちゃんか、おまえは。


「ほら、呆けてないで行きますよ」

「行くって、どこへ?」

「決まってるじゃないですか。罠に使う温泉を掘りに、ですよ」


 ヤケに大掛かりなトラップである。

 普通は、温泉は簡単に見つかったり、掘れたりはしないものなのだが、天使の力をもってすれば楽勝なのだろう。


「ほら、あっちに何か反応がありますよ」


 相変わらず、天使レーダーは何をどう探知してるのかしらないが、無駄に万能である。

 ロブグリエは溜息を吐きつつ、その後を付いていった。

 エリュシエルほどの格の天使なら、直接力を振るえばアッサリ片付く筈なのに、それをしようとせず回りくどい策を巡らすのは、ロブグリエに活躍する余地を与えるための親心である。

 そのことを分かっているからこそ、ロブグリエもあまり強くは言えないのであった。

 神族にとっては信者は子供のようなもの、とはよく言われるが、神族の考えることなど、人間には正しく把握できるはずもないので、微妙にニュアンスがズレているかもしれない。本当のところ、どう言うつもりなのか分かりはしないのだ。




「……ホントに温泉が出るとは……」

「そりゃ出ますよ。そう言うふうに地脈を弄ったんですから」


 エラい力技であった。しかも、スイッチ一つで瘴気と神気の簡単切り替え。……その意味不明さに、ロブグリエは頭が痛い。


「さぁ、聖騎士ロブグリエよ! 邪悪なる魔族を誘き寄せるのです!」

「とりあえず、行ってきます……」


 引っかかるかどうかはともかく、温泉見つけた、とだけは伝えておくか。と、ロブグリエはみんなのところへ戻るのだった。


「さて、と……」


 ロブグリエを見送ったエリュシエルは、今一度温泉を振り返る。

 いかにも自然に湧きだしました、と見えるそれが、適当なお湯溜まりを作っている。その脇に立てた『地獄温泉』の立て札が、やけに浮いて見える。


「これじゃ、ちょっと入ろうと言う気には……、ならないかもしれませんね」


 少しくらい綺麗に整えるべきでしょうか? と、エリュシエルは小首をかしげて自問するのであった。


 しばらくして……


「こっちかい?」

「ああ。ほら、湯気が見えてきた」


 ロブグリエはドクターを案内していた。

 地脈の影響で瘴気活性化にいいっぽい? 温泉を見つけた、とゴッサムに報告したら、ドクターに調査させとけ、との返答が返ってきた。

 健康管理はドクターの担当なので、当たり障りの無い対応と言える。

 しかし、天使の施した細工を、ちょっとやそっと調べた程度では見抜けやしない。ゴッサム一味、ピンチである。


「…………ロブよ……、お前が見つけたのは、これなのかい……?」

「……え……っとぉ……、なんか、違うような……」


 そこにはいつの間にか、立派なテルマエが建っていた。こんなもの、ロブグリエがここを発つ時には無かった。

 どう考えてもエリュシエルが余計なことをしたっぽいが、完全にロブグリエのフォロー出来る範囲を超えている。


「……怪しいぞい……」

「……うん。俺もそう思う……」


 二人は何も見なかったことにし、その場を後にした。


 作戦その二。


 また失敗。




「……ちょっと、やりすぎました……」


 エリュシエルは素直に反省していた。


「最初は入りやすい雰囲気に整えるだけ、のつもりだったのですが……」

「だからって、あんな立派なテルマエがいきなり出来てたら、誰がどう見たって怪しいでしょうが!」

「でも……」

「でも、じゃないです! 俺らどうせアンデッドなんですから、多少汚くても気にしませんて!」


 アンデッドなんて、瘴気さえありゃ満足するんです! と力説するロブグリエ。その瘴気回復の足しになるなら、たとえ泥沼と見紛うほどの汚い温泉でも十分であったのだ。

 ……そもそも十分綺麗な湧き水だったので、エリュシエルの気にし過ぎであった。天使とは無駄に綺麗好きなものなのだろう。


「仕方ありません。気を取り直して次の作戦行ってみましょう!」

「まだネタは尽きてなかったのか……」




 作戦その三。


「悪魔ホイホイ作戦!」

「いいかげんにしなさい!」


 ホント、飲食店の天敵害虫じゃないんだから……。


「黒っぽくて、神出鬼没で、生理的嫌悪をもよおす、って、共通点が多いのは認めますが……」


 だからと言って、対応まで似せなくても良さそうなものである。


「でも、■▲■▲(ピィーッ)なんかは、依り代がイナゴからハエになって、次はゴキブリになるんじゃないか? って言われてるくらいなんですよ」

「検閲入るような悪魔の真の名言うな! ついでにゴキも伏字にしておけ!」


 敬語も忘れて怒鳴り返すロブグリエ。


「某レースゲームでは、デビルカーがゴキブリとか呼ばれてましたし」

「次元を超えたネタを言うなっ!」


 妙に疲れる……。と思いつつ、ロブグリエはハァハァと肩で息をしていた。アンデッドなんで呼吸しているのは空気ではなく瘴気であり、つまり貴重な瘴気の無駄遣いである。……おまけに天使が近くにいるので、かなり息苦しくなってきた。


「まぁ、作戦名はともかく、内容はちゃんと考えてありますから」


 注:ここからはエリュシエルのイメージです。


〈ロブ〉「この辺はいい感じで気が乱れてるなぁ」

〈ボス〉「薄くだが、辺りに瘴気が満ちているようだからな」


 死者が怨霊になりやすいパワースポット、とでも言うべき場所のようです。

 魔族にとってはリラックス出来、すごしやすい環境とも言えます。


〈ボス〉「じゃあ、今日はここいらでキャンプするか」


 どうせ休憩するなら、ちょっとでも環境のいい場所で、と言うのは一般論ではありますが。

 しかし、日頃の行いの悪い魔族に、そんな都合のいいことが起こるワケもありません。


〈ボス〉「なんだ……? 急に体が重く……」


 ここには、魔族の動きを封じる、十字架による結界トラップが仕掛けてあったのです。


〈ボス〉「これでは……、手も足も出ん」


 後は煮るなり焼くなり、料理されてしまうのでした。

 めでたし。めでたし。


 イメージ終わり。


「完璧な作戦です!」

「…………」


 三度目の正直です! と、気合を入れるエリュシエル。

 ロブグリエは、またこの程度の、都合のいいことしか考えていない雑な作戦か、と呆れていた。

 正直言って、彼女に任せないで、自分が作戦たてた方がいいんじゃないかなぁ……、と思う。……仲間を陥れる作戦など、たてるつもりはないが。


瘴気(エサ)を目の前にぶら下げれば簡単に引っかかると、そんな単純なモンだと思ってんですか?」

「魔族と言うのは、本能に忠実で、思慮の浅いのがデフォルトでしょう?」


 魔族は神族に比べ、フリーダムと言うか、無秩序なイメージがあるのは否定しようがないが。

 だが、いくら本能に忠実であろうとも、エサに考えなしに飛びつくほど馬鹿ではない。……ハズだ。


「それに、ロブグリエ君だって、アンデッドは瘴気さえあれば満足する、って言ってたじゃないですか」

「そりゃそうですが……。ここ最近、怪しいのが続いたんで、流石に警戒してますよ」


 ロブグリエの見立てでは、ゴッサムは小物で臆病で、そして慎重である。罠にかかる確率は限りなく低い、と考えるべきだろう。


「それに、これって結局のところ、前回の温泉トラップのマイナーチェンジじゃないですか」

「やっぱり、そう見えます?」

「やっぱりって、自覚あったんですか?」


 そっと目を逸らすエリュシエル。


「だって仕方ないでしょう! 悪魔が好きそうなモノって言ったら、瘴気以外には無垢な魂くらいしか思いつきませんよ! 魂を生贄にするワケにはいかないでしょう!」


 それは天使として、絶対にやっちゃいけません! と逆ギレするエリュシエル。

 問題はエサがどうこうではなく、作戦のバリエーションの少なさである。論点がズレている。


「とにかく、行きますよ!」

「行くって……、罠仕掛けるポイントを探しに、ですか?」

「当然です!」




「進行ルートと距離からすれば、この辺りに仕掛けとかないと休憩ポイントになりそうにないんですが……」


 ロブグリエはそう言いつつも辺りを見回してみれば、何の特徴も無い凡庸な風景が広がるだけである。

 それは良くも悪くもなく、安定していることの証である。そもそも、そう言う場所の方が道を敷くには都合がいいので、街道沿いの光景がどこも似たようなものであるのは、当然とも言えた。


「仕方ありません。また少し地脈を弄ります」

「そんなにコロコロ弄って大丈夫なんですか?」


 流石に心配になるロブグリエ。

 言ってしまえば、エリュシエルのやっていることは、気の流れに影響を与えそうな要素の配置を弄っているのであり、珍しくもない風水である。

 しかし、規模がデカい。普通の人間がやるのは置物の位置を変えたり、精々庭木を植える場所を考えたりするくらいのモノだが、天使がやると山を削ったりして、本気で風や川の流れを変えたりする。


「前もマグマの流れを弄ったんで、ちょくちょく地震が起こってたじゃないですか」

「言われてみれば……」


 少しは自重しなければならない、と言う自覚があるのだろう。エリュシエルはその手を止めた。

 そこに込められていた神気に、ロブグリエはゾッとする。アレが使われれば、なにが起こるか分かったモノじゃない。


「あの……、すること無いなら、もう戻っていいですか? 今戻らないと、夜までに合流出来ないんで」

「う……、仕方…ありません……。この計画は、ボツで……」


 作戦その三。


 企画倒れ。

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