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なんて骨体!  作者: 800
第七章 病魔がゆく
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病魔がゆく その3

「おい、ロブ! 話通ってねぇじゃねぇかっ!」


 その夜。ガントがロブグリエのところに怒鳴り込んできた。


「ドクターに聞いてみたら、『何の事じゃ?』とか言われたぞ!」


 馬車の手直しをしようとしたところ、幹部連中に話が通ってなく、指揮が乱れていろいろ不手際があったのだった。


「あ……、すまん。ちょっとショックなことがあって……、忘れてた……」

「お、おぅ……」


 妙に虚ろなロブグリエに、ガントはちょっと引き気味になった。


「……マジで何があった?」


 どう見てもちょっとどころじゃないその様子に、ガントは流石に気になって聞いてみる。


「それが……、俺の剣が呪われた……」

「……は?」


 ロブグリエの剣は十字剣であり、祝福の宿った破邪の武器である。……量産品だが。

 だから呪とかとは対極の物であり、むしろどうなったらそんな状況になるのか謎である。

 しかし、


「うおっ!? マジで禍々しい気が溢れてるじゃねぇかっ!」


 呪われてるどころの話じゃねぇっ! とドン引きするガント。本来は瘴気とか好物である筈のアンデッドですら敬遠するレベルである。


「エンガチョ!」

「エンガチョ、じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!」

「危ねっ! そんなモン振り回すんじゃねぇよ!」


 禍々しい瘴気のまとわり付く十字剣だが、本来の神気が損なわれた訳ではない。それを利用して病魔の封印にしているのだから。

 その上で、ある程度封印を粗くし瘴気をほぼ素通しさせることで、封印本体に負荷が掛からず破り難い、と言う仕様になっていた。


「とにかく、馬車の件、今からでもいいから許可を取ってくれよ!」

「それなら、幹部連中に通達を忘れただけで、ゴッサムの許可は取ってるよ」

「なら、とっとと連絡を回してくれ」

「わかった、わかった。とりあえず、手近なところから始めといてくれ」


 と、まだどこかヤル気の無さそうなロブグリエは、適当に応じると、


「こっちも今後の予定を練り直さなきゃなんないんだ。どのみち、しばらくここに逗留だよ」


 人口分布と魔族の縄張りの適当な隙間、と言うのがなかなか無く、どこを目指したら良いのやら、と頭が痛いロブグリエ。

 ロブグリエに限らず、幹部連中はみな、少なからず苦悩しているようだった。


「それに、この町は放棄された割に設備が整ってるから、装備の点検とかもしといた方がいいかもな。トーマスなんかも、最近鎧の手入れが出来てない、って愚痴ってたからな」


 鎧の話を言い出せば、ロブグリエも以前の対聖騎士戦で左腕とラージシールドをスクラップ同然に使い潰してしまったので、今はその時切り落とした聖騎士の左腕をつかっている。その分バランスが悪いので、出来るものなら何とかしたい。


 とにかく、ロブグリエはガントに引っ張られ、幹部連中のところを回って事情説明。馬車の手直しの件は伝えておいた。

 雑魚アンデッド達には適当に集めてから通達する。ついでに、この間に各自個人装備の点検をしておくように、とも言っておく。

 おかげで町の鍛冶場は大賑わい。歪んだ鎧を叩き直したり、剣を砥ぐくらいしかしていないのが大半だが、炉に火を入れて新規に装備を作り直すほどの大仕事をしているのも少数だがいる。

 生前が鍛冶屋のアンデッドもいたはずなので、もう少し余裕があればいろいろ作れたかもしれないのだが、残念ながら彼等は、馬車を新造するための釘が足りないとかで、装備を作らず釘を作っていた。




「さて、俺もいっちょやってみるかな?」

「で、何で俺がそれに付き合わされるんだ?」


 ロブグリエに無理矢理引っ張ってこられたサムソンは、流石に不満そうである。


「おまえ暇だろ?」

「そりゃ、俺は特に手入れしなきゃならん装備も無いし、ゾンビ組のまとめ役ってワケでも無いし……」


 それを言ったら、同じように暇している雑魚アンデッドなんて、他にいくらでもいるのだが。


「まぁ、手伝ってくれたら、駄賃代わりにちょっと瘴気を分けてやるから」

「……本当だろうな?」


 そこまで言われちゃ仕方ないと、サムソンはやれやれと肩をすくめて諦めた。


「んで、具体的には何をどうしたいんだ?」

「まず、材料はこれな」


 ゴトリ、とロブグリエが取り出したのは、グシャグシャに歪んだラージシールドとガントレットである。


「あん時のヤツか……」


 かつて聖騎士パーティーと戦ったとき、瘴気と神気の対消滅を利用した裏技により、ロブグリエの左腕と共にカッ飛んで行って大爆発。犠牲になった物である。


「何かに使えるかも、と思ってとっといたんだ」

「それなりに金かかってる物だし、捨てるのはもったいないのはわかるが……」


 何せミスリル製である。その合金を作るのに銀がそれなりの量使われているし、製法も教会の秘匿技術であるため、結構なレア物。ロブグリエも、よくも左腕ごと犠牲にする覚悟が出来たものだと、サムソンは思う。


「とにかく、俺が今考えているのは、コイツをデッカイ十字架にしちまおう。ってことだ」


 今、病魔を十字剣に封印しているのも、十字架の磔の概念を利用してるのだ。ならば、他に同じような十字架を用意すれば、病魔をそっちに移し変えることも難しくない筈。


「大体わかったが……」


 サムソンはロブグリエの説明を聞いたのち、この潰れて拉げたシールドを十字架に整形し直すのは、凄く骨の折れる作業だよなぁとか、どこか他人事のように考えていた。


「俺はちょっと手先が器用とか褒められたって、生前は農村で害獣除けの罠作ったり、農閑期に小遣い稼ぎに細工物作ったりしてたくらいだぞ。そんなハイレベルな仕事を要求されても困るんだが……」

「簡単な彫金は出来るか? 祝福効果を与えるには、聖句を彫り込む必要があるんだが……」

「そのくらいなら何とか……って、聖句をアンデッドが彫っていいモンなのかよ?」

「さぁ? アンデッドの身でも神聖魔法使えるくらいだから、神様ってヤツはその辺意外と寛容なんだろ」

「使えるとか言っても、お前、毎回使うたびに調子崩してるじゃないか……」


 正直言って、ロブグリエの台詞には説得力は無い。

 サムソンも、聖句を彫金したりすれば、なんかキツイ反動がくるんじゃないかなぁ……、とか不安になっていた。


「それ以前に、ミスリルの加工なんて、やり方わからんぞ」

「それなら心配ない。こうして壊れてる時点で、魔法は切れてるから加工は簡単だ」


 祝福の神聖魔法をかけてこそミスリルになる訳で、そうでなければ普通の鍛冶の技術があれば十分である。と言うようなことをロブグリエが言うと、


「その、普通の鍛冶技術ってヤツが結構大変なんだろうが。職人連中は馬車の方にかかりっきりだし」


 サムソンは、俺は出来んぞと念を押す。

 素人の腕前で加工すれば、不恰好な十字架が出来るだけであり、それに祝福効果を期待出来るかどうかは微妙なところである。

 もういっそのこと、この街にもある教会から十字架パクって来た方が早いんじゃなかろうか? と思うサムソンであった。


「そもそも、無理にそんなことする必要があるのか?」


 勿体無いと言えばその通りなのかもしれないが、無くても困りはしないので、手間をかけるだけの価値があるのか、サムソンには理解し難い。


「だから、新たな依り代作って、病魔をそっちに移したいんだよ!」

「……何でまた? 別に、病魔を取り付けただけで、武器としての性能が落ちたワケでもないんだろ?」


 鞘に納まったままでも感じられるその瘴気からするに、むしろ威力が上がってるかもしれないくらいだ。


「冗談じゃない! 病魔が憑いた剣なんて、子供の育成に悪いだろうがっ!」

「…………」


 だから、アニータを遠ざけねばならない。スキンシップが取れない。と嘆くロブグリエ。


「魔族が悪い、って言うなら今更だと思うが……」

「ちがうっ! 病魔なんてばっちいモン、子供に近づけるワケにはいかんだろっ!」

「…………」


 ばっちいとか言うなら、ゾンビも相当なものなので、サムソンは迂闊にツッコミも入れられず、黙るしかなかった。

 だが、何となくはわからなくもない。アニータと一緒にいるには十字剣を手放さねばならず、剣以外にロクに戦う術を持たないロブグリエは、それを手放せば戦力激減である。何かあった場合にヤバイのだ。


 それより、ばっちい呼ばわりされた病魔のデス・ブラックの、シクシクとすすり泣く声が十字剣から漏れてくるのが鬱陶(うっとう)しい。


「とにかく、大体の加工は俺が出来る。何せ、元は鍛冶屋の三男坊だったし」

「鍛冶が出来て彫金が出来んのか、お前は。つーか、何で鍛冶屋の息子が聖騎士に?」

「ウチで十字剣打ってたんで、その縁で」


 細かい説明は端折られたが、サムソンもアンデッドの生前の話など、それほど興味があるワケでも無い。


「まぁ、その聖句とやらを教えてもらえば、彫金くらいしてやってもいいが」

「それなら、『天に召します我等が創造主よ……』」

「ちょっと待て。俺は読み書きなんぞ出来んぞ。紙かなんかに書き起こしてくれ」

「……は?」


 聞いてもそれを文字に出来ず、書かれた文字を理解もせぬまま、模様として掘り込むことしか出来ないと。


「……そうか。一般人の識字率なんて、そんなモンか……」


 鍛冶屋では仕事の関係で注文書とかあったし、教会で読み書きを習っていたロブグリエは、比較的上等な教育を受けていた部類に入る。……もっとも、命令書も読めず報告書も書けなければ、騎士としてやっていけるワケがないので、がんばって勉強したのも当然なのだが。


「よし! この機に俺が教えてやる! ついでに鍛冶の基本も叩き込んでやる!」

「ちょっと待て! お前、俺を便利屋のごとく使おうとしてないかっ!?」

「読み書きが出来ると便利だぞ。アニータにも教えなきゃならんし、この際、雑魚アンデッド連中全員に教えとくか」

「……アンデッドには学校は無いはずだったのに……」


 最早こうなってしまったロブグリエは止められない。それは今までやってきたアンデッド生活向上計画からもわかり、サムソンは溜息をつくものの諦めるしかなかった。




 キン、キン、キン。


「……こんなモン、か?」


 (たがね)と金鎚を手に聖句を掘り込んでいたサムソンは、その出来栄えにちょっと首を傾げる。彼は字が読めないので、ちゃんと文字になってるのか、今一自信が持てないでいた。


「おお。上等、上等」


 ロブグリエは満足の行く出来だと、うんうんと頷く。

 だが、出来上がった代物は当初の予定とかなり違う。封印用のデッカイ十字架を作るだけのつもりだったはずだが、出来上がったのはどちらかと言うとクレイモアである。……何でこうなった?

 平たく言うと、手抜きである。歪んだラージシールドを叩いて伸ばし、……その側面を砥いで剣っぽくしただけ。完全に形を変えてしまうのは、思ったより面倒だったのだ。

 所詮は間に合わせのためなので、時間を掛けたくなかったのが本心である。一応十字剣の体裁は保てるよう、十字架も掘り込んでおいたが。


「とりあえず、十字剣には見える……、と思うが……」


 サムソンは自信なさ気に言う。

 強引にハンマーで整形したそれは、刀身と鍔、柄とで何とか十字型には見えるものの、作りが雑で、どちらかと言えば聖剣より魔剣の類の印象がある。十字型ではあるが、逆十字(アンチクロス)っぽい。とでも言えばそのイメージが伝わろうか。


「じゃあ、さっそくワイズマンに頼んでくるか!」

「おい! ちょっと待てよ」


 何気にそそっかしいロブグリエのこと。何か失敗をしでかさないかと心配になったサムソンは、慌てるロブグリエを押し留める。


「もう少しちゃんとチェックしとけよ」

「失敗したら、その時考える!」

「それじゃ手遅れだろ!」

「俺はこの病魔をさっさと何とかしたいんだ。おかげでアニータと一緒にいてやれん!」


 何が原因でこんな親馬鹿になったのか? サムソンには今一理解しがたかったが。


「最近じゃ、お目付け役として一緒にいるせいか、ゴッサムに随分と懐いてる気がするし……」

「ありゃ、玩具(おもちゃ)になってるだけだろ……」


 これ以上、父親アピールの場が減るのはマズイ! とか焦るロブグリエに、サムソンは落ち着けと諭す。


「気持ちはわかったから。失敗したらそれどころじゃなくなるんだぞ。チェックだけはちゃんと……、といっても、今のロブにそれを期待するのは無理そうだし……。最終チェックはワイズマンに任せたほうがいいか?」

「よんだ~?」

「うぉっ!?」


 相変わらずも神出鬼没のワイズマン。何時の間にか真後ろに立っていた。

 ワイズマンも特に手入れが必要な装備を持っていないためか、やはり暇を持て余して、適当にウロウロしてたらしい。


「ちょうどいい。ワイズマン! 病魔の封印をこっちの新しい剣に移し変えてくれ!」

「おうよ~」


 ワイズマンは言われるがまま、移し変えを実行する。

 あまりにもアッサリやってしまったため、どうやら特に問題はなかったようなのだが……。

 そして、元の十字剣からは瘴気が溢れなくなり、新しく作った十字剣モドキのほうから瘴気が漏れ出す。


「おおっ! 成功だ!」

「……なんか、瘴気の量、多くないか?」

「この封印は元々そう言う仕様……、って言うには多すぎるか?」


 じじゅじじじじゅぐぎゅぎゅじゃぎぎゅぎゅ……!


 不気味な音を立てつつ、瘴気はその量と勢いを増していく。

 そして……


 すぽんっ!


 マヌケな音と共に一際大きな瘴気塊が飛び出したかと思えば、ピタリ、とそれ以降瘴気の放出が収まる。


「……え?」


 それは、つまり……


「出られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 病魔デス・ブラック。早くも復活。

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