アニータ死す
続きが読みたい。
と言うご要望があったので、頑張って書いてみました。
しばらくはちょくちょく更新するつもりです。
多分、単行本一冊分くらいはがんばって続けるつもり。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん…………
幼子の泣き叫ぶ声が、深い森の木々に、夜の闇に吸い込まれては消えてゆく。
おとーさぁーん! おかーさぁーん!
そう叫んでいるつもりだが、まだ2歳になったばかりのアニータは、言葉も上手くしゃべれず、泣いていることもあってちゃんとした言葉になっていなかった。
まだ、親の庇護を受けているのが当たり前のはずの幼子には、何故両親がいないのか? そのようなことは理解出来ない。
ましてや、体の弱い自分が、将来的な労働力として役に立たないであろうから、口減らしのために捨てられたなど、想像すら出来ない。
ただ、あるべきもの求めて泣き叫び、当ても無くウロウロするだけだ。
そうして、既に丸一日以上たっていた。
体力をすり減らした証の如く、その声は弱々しく、最早叫んでいるとは言い難いものだった。
今まで生き延びられたのは、この辺りは不幸中の幸いか、狼などの肉食の野生動物がいないためだった。
それは何年か前に流行った疫病のせいで、肉を喰らうそれらの獣も影響を受け、激減したためである。そして、野生の勘か、生き残った動物達もこの土地を見捨てて逃げたためだ。
しかし、そんなことは何の慰めにもならない。死因が一つ減ったとは言え、どの道死ぬことには変わりない。幼子には獣道くらいしかない見知らぬ深い森の奥から家に帰ることなど、絶望的に不可能だからだ。
よろよろと。既に歩いている事が奇跡的なほどに体力を失っている幼子は、ついには倒れ伏す。
せめて、並みの健康な体であれば、もう少しは生きられただろうが、そうであればそもそも捨てられはしなかった。無意味な仮定である。
足が言うことをきかなくなり、倒れたことによって、辛うじて気力で保っていた幼子の、……心が折れた。
もう、動けない。
その事実は、理解力に乏しい幼子にも、絶望とは何なのか、心の奥に沁み込み、刻みつけた。
「………………」
折れた心では、何かを言おうとしても、何を求めていたのかもわからず、唇が僅かに震えるのみ。
両親を呼んでいたのでさえ、しばらく前から惰性で叫んでいたにすぎなかった。
もともと口減らしが必要なほどの村で、十分な食事が得られるはずもなく、空腹で朦朧としていたのだ。何かを判断することなど、幼子であることを差し引いても無理であった。
カチャ……
沈み行く意識の中、誰かがそばに立っているのを感じた。
お、とーぉ、…さん……
それを最期に、幼子の意識は消えうせる。
それは勘違いなのだが、最期に親が迎えに来てくれた。と言う幻想に、幸せそうな笑みを浮かべつつ死ねた事は、幼子にとってせめてもの救いであったろう。
アニータ。捨て子。ここに死す。享年2歳。
ちーん。




