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なんて骨体!  作者: 800
第一章 生まれ変わってスケルトン
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生まれ変わってスケルトン その1

 気分は最悪だ。

 そりゃ、そうだ。死んだんだから。

 それも志半ばで倒れたともなればなおさらだ。

 後もう少しで正式に聖騎士として認められたのに、などと思う。

 ……いや、魔物の巣まで辿り着いていないのに、もう少し、と言うのはおこがましいか。


 何はともあれ口惜しい。

 死というのは、こんな鬱な気分のまま延々と過ごさなければならないものなのか。

 それとも、魔族の手に掛かって死んだ者の魂は、永久に浮かばれず苦しみ続ける、というあれがこれなのか?

 ……なるほど。だとするなら、これを退治すれば聖騎士になれるというのは妥当だな。

 こんな存在など相容れることは出来ないし、普通の人間ではまるで勝負にならない。

 教会の祝福を受けて、瘴気対策を施してきた自分でさえ、この様なのだ。

 ……自分は聖騎士の器ではなかったのか。

 神童と呼ばれ、勇者と呼ばれ、常に人を助け、そして、人を助けるだけの余力を持つことに努力を怠らなかった自分だが、それでも足りなかったか。


 ……なにが?


 それが分からなかったから、こうして死んでいるのだし、死んでいるのだから、それが今更分かったとしても活かす機会はないし、誰かに伝えることも出来ない。

 死んでいるというのは不便なものだな。

 ロブグリエは思う。

 どうせなら、普通に死にたかった。

 こんな魔族に呪われ、今更どうしようもないことを延々と悩み続けなければならない死など望んではいなかった。

 ……望んではいなかったが、こういう道を志した以上、こういう事も有り得ることは分かってはいた。だが、死というものは一生に一度だけであるからして、もう今更普通の死を体験することはないのだろう。

 もし生まれ変わりなどと言うものがあるのだとしたら、次の一生では自分は自殺願望のある人間になるかも知れない。

 もしくは、自分にこのような死をもたらした魔族に対する興味が湧いて、再び今と同じこの道を行くか、あるいは逆の、黒魔術師の類にでもなるかも知れない。


 ……そう思うと、自分はその魔族を一目も見ていないことを思い出す。

 ……だんだん腹が立ってきた。

 せめて、真正面から戦って死ねばよかった。いや、聖騎士ならそうするべきだろう。剣を抜くこともなく、なにやら得体の知れないものに囚われ、体力を奪われ、真綿で絞め殺されるようにじわじわと弱って死ぬなど、不本意極まりない。


 うぉおぉぉぉぉぉ……


 既に無い体が疼く。

 欲求不満。

 どうしようもない衝動に駆られ、暴れ出したいのに力を込めるべき体がない。


 ふんぐー!


 じたばたと意識だけ暴れたつもりになっても、暴れたつもりになっている、と言うことがハッキリ認識され、かえって不満だ。

 ぴしっ、と。

 まるでヒビの入る音のよう。

 ヒビの入った痛みのよう。

 なにか、感覚が、神経が、どこかに繋がった。そう、確信した。


 ふんぐー、うが、うご、じたばた。


 気合いを入れては見たものの、本当にそうなっているのかどうかは分からない。感覚がないのでそのやり方が正しいのかも分からない。

 ただ、その微かに生じたヒビに力を込め、更にこじ開けようとする。

 それでそのヒビが広がったとして、それになんの意味があるのか、その結果何が起こるのかはこの際お構いなしだ。

 このなんにもない世界で、唯一の手応え。それだけで何かをする根拠には十分だった。


 パキッ


 ヒビが、広がった気がした。

 ロブグリエは一切の考えを、迷いを放棄して、同じ事を繰り返した。

 ヒビが広がったと言うことは、そのやり方が正しかったと言うことだ。

 集中。

 もはや、そこに集中しているのが力なのか意識なのか、それすらもさっぱり分からないほど集中する。


 おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 ごすっ!


「ごはぁっ!」


 右手が何かを殴り飛ばした手応えが、誰かの悲鳴が、まだぼんやりとしている意識に届いた。


「お、起きたか」


 ロブグリエの意識が戻ったことを察し、しかしそれになんの感慨も持たぬような口調で誰かが言った。

 そちらの方、左側に僅かに首を傾けると、継ぎ接ぎだらけの顔、しかも、わざとバランスを崩して造形したとしか思えない、不気味な顔のじじいが、まるで医者のような白衣を着てそこにいた。


「!?」


 じたばた。


「そう驚かんでもいい。こう見えても医者じゃ」


 思ったより自由に動かない体を頑張ってジタバタさせるロブグリエに、パッチワーク・ドクターは警戒心を逆なでするような不気味な笑みを浮かべた。

 正直言って、こんな医療ミスしそうな医者は御免だ、と言うのがロブグリエの感想だ。

 顔の造形が変なのも、医療ミスなんじゃないか、とも思う。


「お、俺は助かったのか?」


 辛うじてそれだけは声が出た。

 あの状況から、どうやって助かったのかは不明だが。


「いや、全然助かっておらん」

「…………」


 不吉なことをハッキリと言われ、ロブグリエは二の句を継げなかった。


「あいたたたた……」


 と、ロブグリエをはさんで自称医者の反対側、誰かが身を起こす。


「……あ」


 さっきの右手の手応え。ロブグリエはそれが自分が人を殴ってしまったのだと理解した。


「す、すまぬ、寝起きでつい……」


 ぎぎぃっ、と首を反対側に向け、……それ以上言葉を発することは出来なかった。


「すまんですむか! こっちは内臓むき出しなんだぞ。何かあったらどうしてくれるんだ!」


 漆黒のローブの中にわだかまる闇。

 その闇の中に、脳みそと、右の目玉と、舌と、下顎の骨だけが浮かんでいた。

 そしてそれらに、神経や血管と思われる管がうねうねとツタのように絡みついていた。


「ぎょえぇぇぇぇぇっ!」


 ロブグリエは悲鳴を上げた。

 あんな不気味なものを見て、我ながらよく意識を失わなかったものだと、自画自賛しつつ。


「やかましい。今更、魔族見たくらいでいちいち騒ぐな」


 自称魔族が呆れたような口調で言う。


「お前は一応聖騎士だったんだろうが」

「ほらな。どう見ても助かった状況じゃないだろ」


 ドクターがのんびりとそんなことを言う。

 ロブグリエはとにかく起きあがろうとした。すぐそこに魔族がいるのだ。起きて戦わねば。


「剣、俺の剣は……」

「おい、無理に動くな。まだ瘴気のコントロールに馴染んでないんだ」


 ぴた、と、ロブグリエの動きが止まる。


「瘴気、だと?」

「そうだ」


 何を今更、と言わんばかり。


「既に死んでいるお前を動かしているのは、儂から供給される瘴気なのだ。つまり、お前は儂の眷属としてよみがえったのだ。あんだすたん?」


 死んで、生き返った? 魔族によって?


「俺は、いったい……」


 ぐぐっ、と手に力を入れ、目の前まで持ってくる。


 ……骨。


「なぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」


 がばっ!


 ロブグリエは思わず跳ね起きた。


「おお。もうそんなに動けるのか。なかなかやるではないか」

「しっかりした骨密度だったからのう。スケルトンにはぴったりじゃ。生前はちゃんと牛乳をよく飲んでいたんじゃないか?」


 そんな二人の言葉は当然耳に入らない。すでに耳は無くなっているが。


「畜生! 魔族の卑劣な罠にはまったあげく、こんな姿にされるとは!」

「罠?」


 魔族は首を傾げ、


「此奴は罠に掛かってたのか? いや、罠なんか仕掛けてたっけか?」

「いや、これはそこの森で行き倒れてたのを拾ってきただけじゃ」

「ほぉ、なかなかいいものが落ちていたんだな」

「テメェ等、何言ってやがる!」


 ロブグリエは激昂して魔族のローブをひっつかみ、締め上げた。


「なんか変な瘴気をばらまいて、入ったものが衰弱死するような結界張ってたろ!」

「はて? そんな覚えはないな。言いがかりは止してもらおう」


 するり、とロブグリエの手からローブがすり抜け、魔族は身を離す。


「けっけっけぇ。まぁ、魔族が住んでいるんだし、多少瘴気が濃くなるのは当然として、それでも一般人でもちょっと気分が悪くなる程度、祝福装備の聖騎士ならまったく無害、って所じゃの」


 ドクターが笑いながら言う。だが、顔面の傷のため、上手く表情が作れていないのか、それはお世辞にも笑い顔には見えない。


「第一、ウチのダンナはケチだからのぅ。致死レベルの瘴気結界なんてコストの掛かるもの使わん」

「ケチは余計だ」

「な……に……?」


 考えがまとまらず、ロブグリエは混乱した。じゃあ、自分が死んだのは、ただの偶然?


「じゃあ、何故?」

「本当に知りたいか?」


 ドクターはもったいつけつつ、不気味な笑みで答えた。


「なら教えよう」

「ちょっと待った! 聞かない方がいい気がしてきた!」

「儂が趣味で解剖した結果によると、ズバリ! 毒キノコじゃ!」


 がしゃ……


 自分を支えていた何かが無くなったのか、ロブグリエはその場に崩れ、骨の山になった。


「そんなに落ち込むことは無い。毒で死ぬのは冒険者の死亡率の第三位(魔族調べ)だからのぅ。よくあることじゃ」

「じゃあ、一位と二位はなんなのさ」


 ロブグリエは崩れたまま、いじけたようにそう言った。


「一位が強敵にやられた。二位が崖から落ちた、川で溺れた、などの不慮の事故」


 何となく、リアリティーがある。……せめて、自分も強敵にやられたかった。死体である自分がここにいる、ってことは、後から来た者に自分が戦う前に毒キノコで死んだ、という間抜けな事実が知られる心配だけはないが。


「既に死んだ身で、今更死因を気にしてどうする」


 言うことはもっともなのだが、魔族に正論を言われると人として駄目な気がする。


「とにかく、お前も今日からウチの一員だ。ウチはドクターが趣味で解剖しまくるから、スケルトン率は高い。なに、心配せずとも、すぐに馴染めよう」

「馴染む気はねぇ。魔族が人を慰めてるんじゃねぇ……」

「人は慰めん。だが、お前はアンデッド。儂の部下だ」


 ずーん。


 重たい何かがのしかかるのを、ロブグリエは確かに感じた。


 ……つか、これって瘴気じゃん。


 改めてよく感じてみれば、確かに瘴気だった。アンデッドになった今のロブグリエの活力源は瘴気なワケで、つまり、


「ちょっとは元気になったか?」

「やかましいわっ!」


 がしゃがしゃと、元通りに組み上がるロブグリエ。

 瘴気を加給されたおかげで、ちょっと元気になったことにショックを覚えつつ、


「いきなりスケルトンにされて、はい、そうですか、と納得できるかっ! とにかく、テメェを倒して、俺も成仏する!」


 とロブグリエは宣言し、


「ホーリー……ぐべぇぇぇぇ……」


 突如わき上がってきた吐き気に、思わず床に手をつき、げぇげぇと、何かを吐き出そうとする。

 胃袋さえない今のロブグリエに、吐き出す物など当然何もないわけだが。


「アホか。アンデッドが神聖魔法を使おうとしてどうする? 自爆する気か?」


 確かに、邪を退ける神聖魔法は、瘴気で動く今のロブグリエにとっては毒でしかない。


「かまうか、ンなモン!」


 がっし、と魔族に組み付き、


「ホーリー・ブラストォォォォォッ!」

「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「や、やめんかぁぁぁぁぁぁっ!」

「死なば諸共ぉぉぉぉぉぉぉっ!」


「だからもう死んどるんじゃって」


 魔力の電光が迸るその側で、ドクターが人ごとのように呟いた。

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