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なんて骨体!  作者: 800
第四章 聖騎士、襲来!
14/40

聖騎士、襲来! その1

 ロブグリエ不在のため、ここしばらくは滞っていた環境改善も、少しずつ再開されはじめていた。

 いままでは、ほとんどロブグリエの一方的な思いつきを実行してきたが、これからは幅広く意見を取り入れて行われるように改善された。みんながそれだけ積極的に環境改善に乗り出すようなり、やっと意見を言うようになったためだ。


「だから、噴水はちょっとさわやかすぎる、って言ってるだろうが。ゴーストなんかが、うっかり浄化されたらどうするんだ?」

「いくら何でも浄化されるか。聖水ばらまいてるワケじゃないんだから。それより、この虹がいいんじゃないか」

「虹が? お前、頭でも打ったか?」

「はっはっは。頭打っても、今更そこに脳みそはないから問題ない。って、それはおいといて、虹ってのは、どっかの地方では凶兆なんだそうだぞ?」

「ここは『どっかの地方』では無いわっ! むしろ縁起物だぞ!」

「……そう言う考え方もあるか」

「そう言う考え方も、じゃ無いだろ。異国の風習を取り込むのはかまわんが、もう少し考えてくれ……」


 その様子を聞きつけ、通りかかったサムソンが、


「おお、またいつも通りやってる、って、今日はロブじゃないのか……」

「おう。ロブなら、修行の成果を試す、とか言って、どっか行ったぜ」


 と、ロブグリエに代わってゴッサムと交渉していたカールが答える。


「まったく。ウチのスケルトン共は、みんなロブに似て来よった」

「はっはっは。反骨精神、ってヤツか?」

「んで、お前さんはどうしたんだ、サムソン?」

「こっちの仕事が一段落付いたんでな。ちょっと報告。ロブがいないが、ボスに先に伝えておこう」


 と、城の見取り図を開き、


「テラスやバルコニーの改装が今日で完了した。後で見てもらう事になるが、なかなかいい雰囲気に仕上がったぞ。自殺名所的雰囲気に」

「ほう。それは楽しみだ」

「その調子でこっちの噴水にもOK出してくれ」

「却下」

「なんなら、血が吹き出るようにするからさぁ……」

「それだけの血をどこから持ってくる気だ?」


 カールはちょっと考えて、


「カマ男爵秘蔵の血液庫から?」

「……やめとけ」

「んじゃ、俺はロブにも報告しないといけないから」


 と、サムソンはその場を後にする。


「さて、修行の成果を試す、って事は……、多分あそこだな」




 共同墓地の納骨棚を改装したロッカールームで、ロブグリエは両手に持ったそれをゆっくりと慎重に頭上に掲げた。

 そして、ゆっくり下ろす。

 ごくり、と誰かの唾を飲む音が聞こえる。

 かちゃ、と言う小さな音。そして、ロブグリエは一呼吸ほどの間をおいて、覚悟を決めたように、


「ふんっ!」


 と、気合い一発、首を大きく振った。


 ……何も起こらない。


「おおっ!?」


 周りで見ていたアンデッド達の歓声。


「や、やった……」


 ロブグリエは、握りしめた拳を振るわせていた。


「ついに聖騎士の鎧、完全装備完了!」


 ぐっ、と拳を突き上げて宣言すると、周りから拍手が起こる。今し方、最後の一つ、ヘルムの装着に成功したところだった。


「やったな、ダンナ!」

「いままでは、首振ったら頭ごと外れてたもんな」

「うむ、なかなか似合ってるぞ」

「しかし、これだとリビングメイルとの見分けが付きにくいねぇ……」

「やっぱ、ヘルムは外しておいた方が骸骨騎士っぽくて良くない?」

「そうだな。せっかくのロブの綺麗な頭蓋骨を隠しておくのは勿体ないよ」

「そ、そうか?」


 何だかよく分からないが、とにかく照れるロブグリエ。


「おう。ついでに一部の鎧を外して、ある程度骨を露出させておいた方がらしくないか?」

「そうだな。聖騎士装備で完全に覆っちまうと、外部からの瘴気の吸収がしにくくなるからな。それくらい外しておいた方がいいよな」

「そうか? そう言うなら、そうするか?」


 と、みんなに言われるままにヘルムを取り、鎧も二の腕と太股の部分を外すロブグリエ。


「うむ。確かに、いい感じだ」

「男前だねぇ、ダンナ。こんな立派な骸骨騎士は見たこと無いよ!」

「いやぁ、そこまでほめられると、照れるなぁ……」

「鎧も立派だが、それに劣らぬ立ち姿がいいねぇ」

「並みの戦士なら、見ただけでびびって逃げちゃうね。俺が生きていた頃にダンナがいたら、俺だってこの城に来ようとは思わなかったかも知れないよ」

「ははははは!」

「やっぱりここだったか……」


 と、皆が談笑している中、サムソンが入ってきた。


「ん? サムソンじゃないか。どうした?」

「どうしたもこうしたも。お前さんの指揮してる改装計画の報告だよ」


 パタパタと報告書を振る。


「おう。そうか」


 その報告書を受け取り、パラパラと捲ると、


「んじゃ、ちょっと見に行くか」


 と、サムソンと一緒にロッカールームから出て行った。


「それはそうと、遅ればせながら、念願のフルプレート装備おめでとう」

「ありがとう」

「しかし、やっぱりフル装備は止めたんだな」

「ああ。なんだかんだ言って最初っから分かっていたことではあったが、聖騎士フル装備は息が詰まる」


 ロブグリエは肩をすくめた。


「特にヘルムはいかん。頭重いわ、視界が狭くなるわ、音も聞こえにくいわ、で散々だ。今や頭部はバイタルエリアじゃないから、無しでいいや、ってことで」

「つーか、アンデッドのバイタルエリア、って何処だよ、って感じだけどな」


 ははは、と笑い合いつつ、手近なテラスへ辿り着く。


「ほう、これはまた……」


 ロブグリエが感嘆の声を上げる。

 見た目はあまり変わってない。いつも騒いでいる、いつものテラス。

 小洒落た雰囲気で、綺麗にまとまっており、むしろネガティブな印象はない。


「ははっ。いい感じで手すりが低いなぁ、おい」


 身を乗り出せば、すぐにでも落ちそうなその低い手すりを、ロブグリエは嬉しそうにぱんぱんと叩いた。


「ワイズマンの知恵を借りて、風水駆使して何となくふらっと死んでみたくなる雰囲気を演出してみました。コンセプトは『死ぬにはいい日だ』」

「グッジョブだ!」

「んで、見たとおり手すりが低いんで、宴会するときに間違って落ちるなよ。いくらアンデッドとは言え、この高さから落ちたら、修復が大変だ」

「……ま、落ちるヤツがいたら、そん時はそん時、と言うことで」


 ロブグリエは肩をすくめつつ言った。


「んじゃ、次行くかい?」

「このできばえ見れば、他のところも大丈夫な気はするが……、まぁ、一応見ておこう」


 と、二人して次の自殺ポイントに向かった。




「……ま、結局、何処もそつなくまとまってるな」


 計画書と実際の場所とを見比べ、ロブグリエはふむふむ、と頷いた。

 まだ人間の感性を多く残しているロブグリエにしか理解しにくいことだが、様々な工夫がついついフラフラと柵から身を乗り出したくなるように仕向けられている。

 ここなんかも、なかなかの眺めと、周りのプランターの配置、テーブルや椅子、建物の作る陰影なんかの影響で、柵から身を乗り出したときに転落する危険性が意識されないように仕向けられている。

 ロブグリエが柵から身を乗り出し下を眺めてみたが、かなりの高度があるはずなのに、そうは見えなかった。


「こんな感じで、自殺名所化計画は概ね順調。他にも自然の気をねじ曲げつつ城内を循環するよう、ワイズマンが『間違った風水』を適用する、ってことだが、こっちは大規模になる分、当分完成しなさそうだ」

「そりゃ、しかたあるまい。……つーか、そんな大規模な改装、よくゴッサムの許可が下りたな?」


 元々ゴッサムは改装に肯定的じゃなかったよな? と思いつつ、ロブグリエは問うた。


「その辺は微妙に諦め気味だ。なんか、勝手にやれ、って感じ。あまり気に障るのは、さすがにちょこちょこと口出ししているみたいだが」

「ふーん。他の計画の進捗は?」

「外敵に備えた、城壁と門の強化が進んでいる。つっても、これもかなりの範囲だから終わるまでは当分かかるだろう。あとは、新しい畑で栽培予定の毒草が結構集まったって聞いたな」


 畑は主導権はロブグリエからドクターに移っていた。ロブグリエがやっていた頃は、主にハーブを育てていたが、ドクターは毒草を中心に、様々な薬草を育てるつもりらしい。

 それらがドクターが作る瘴気回復薬などの薬の材料になるんなら、全体的に大きなプラスになるので文句はないが、ロブグリエは自分の趣味としてハーブ畑はあんまり潰して欲しくはなかった。


「まだ全種そろってないのか。そんなに種類あったっけ?」

「ドクターが独断で種類増やしたからな。俺等どうせ死なないんだから、マンドラゴラとか大量生産しようとかなんとか……」

「……マンドラゴラ、ってどういう薬の材料になるんだっけ?」

「さぁ? でも、敵が来たらそれ引っこ抜くだけで武器になる、ってのはいいよな」

「そりゃ、本来の使い方とは違う気がするが……、生産体制が整った暁には、鉢植えマンドラゴラを大量配備するか」

「そりゃあ、いい。それが必要なほどの強敵が来る事なんて滅多にないだろうが……」


 サムソンはかっかっか、と笑うと、


「まぁ、その辺の小規模なものはともかく、この調子で城の改装を進めると、すぐに資材が無くなるぞ」

「そっか……、そろそろ資材調達についても真面目に考える必要があるか……」


 ロブグリエは遠くの景色を眺めつつ、うーん、と唸った。


「木材は周りの森から取ればいいとして、石材なんか切り出すのに良さそうな所あったかな?」

「近くにゃ無いな。それに、運ぶにしてもろくな道がないから大変だぞ」

「まぁ、その辺はゴーレム連中に頑張ってもらうことにしよう」

「相変わらず、人使い荒いね。お前は。労働を強いるなら、瘴気を稼ぐことも真面目に考えとけよ?」

「一応考えてはいるんだけどな……」


 といいつつ、ほとんどただの思いつきだ。ちょっと言いにくそうにしながらロブグリエは頭を掻いた。


「盗賊狩りツアー、なんぞというものを考えている」

「……このあいだ、お前がやったみたいにか?」

「概ねそんなもん」


 ロブグリエは頭の中にあった構想を確認するようにしばし黙ると、


「盗賊なら、アンデッドに襲われたからって、教会に助け求めにくいだろうし、そもそも盗賊アジトは人目に付かないところにあるからな。人知れずに襲うには都合がいい」


 言ってみて、何となくいけそうな気がしてきた。


「都合がいい、って、お前みたいな化け物に目を付けられるなんて、ここら辺の盗賊連中も不運だな」

「盗賊なんぞ、幾らでも不幸になってくれてかまわない。うむ。瘴気の荒稼ぎに向いた、なかなかいい方法だと思うが」


 自画自賛しつつ、ロブグリエは誇らしげに胸を張った。


「たかが盗賊とはいえ、そこそこの戦力はあるだろうから、こっちも安全に行くにはそれなりの戦力を振り分けなければいけないが、まぁ、大した問題じゃあるまい」

「そうか? お前が大暴れした所為で、この前みたいに盗賊でも僧兵みたいな対アンデッド戦力を整えてる可能性が高くなっていると思うが……」

「う……」


 その可能性はさっぱり考えていなかったのか、ロブグリエが言葉に詰まる。実際に僧侶が四人もいた盗賊団があったって言うのに。


「となると、ここもそんなに戦力があるワケじゃないから、戦力の分散は好ましくないんだよなぁ……。とはいえ、総戦力で出かけると、この前みたいに空き巣狙いに入られるかも知れないし……」


 と思案するサムソンの言葉に、ロブグリエはしゅん、と自信を無くして小さくなった。


「それに僧侶がいなくたって、雑魚アンデッドじゃ、普通にやられると思うぞ。せめて、インストラクターとして幹部クラスの一人でも付けないと……」

「幹部クラス、って言ったって、戦闘向きなのは俺かカマ男爵くらいのモンじゃねぇか。二人でのローテーションは、ちょっときついぞ」

「ってことは、また企画倒れかよ」

「また、って言うな」


 といいつつ、まだ何か打つ手があるはずだ……、などと呟きつつ思案するロブグリエにサムソンは、


「とりあえず、次のネタ考えたら?」

「じゃあ、瘴気を生産するために、人間を飼う、ってのはどうだ? そこら辺の盗賊でも捕まえてきてさ?」

「いや、いくら何でも、その発想は邪悪すぎだろ……」


 サムソンは呆れたようにそう言った。


「お前は人間の癖を引きずってるくせに、所々突飛に悪魔的な発想するのは何故に?」

「ンな事言われたってな……、所詮相手は盗賊だしな。最初は私利私欲の為に盗賊退治なんて、って思ったモンだが、やってみればヤツらの命など、思ったほど気にならないモンだ。大体、悪魔の手先が細かいこと気にするな」

「うわ……、なんかさらりとろくでもないこと言ったよ。つーか、それならまだ盗賊狩りの方がマシだ」

「……結局、どっちなんだ?」

「どっちでもいい。適当に頑張れ」

「適当、って、お前ね……」


 と、文句を言いかけ、ロブグリエは面倒くさくなったので口をつぐんだ。

 そのまま特に何をするでもなく、眼下のグランドでちょこまかと動き回るアンデッド達をしばらく眺めていた。


「平和だなぁ……」


 何だか、生前はこんなに一生懸命働いたことも、こんなにノンビリしたこともなかった気がする。……いったい、どういう人生だったんだ? と、今更ながら思う。


「なんか、俺って、死んでからの方が活き活きしている気がする」

「人生そんなモンだ」

「そんなモン、って、問題発言を……」

「餓えだとか疫病だとか、いろいろと問題の多い世の中だからな。アンデッドになってからの方が気ままに生きられるだろ」

「……考えてみれば、ろくでもない話だな」

「死んでる俺等には今更関係ない話だけどな」

「ほんと……」


 だんだんと日も傾いて薄暗くなってきたが、夜こそアンデッドの時間だ。より活発に動き回っているのが見て取れる。仕事をしている者もいれば、スポーツに興じている者、ノンビリ休んでいる者もいる。


「……平和だなぁ……」


 ロブグリエは再びしみじみ呟いた。


「はっはっは。そんなこと言ってると、いきなり明日辺り平和じゃなくなったりするぞ」


 サムソンがそんな冗談を言う。……所謂、フラグというやつである。

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