ロブグリエ死す
何年か前に書き上げた小説です。
どっか適当なコンテストに応募しようかと書いたものですが、結局ほったらかしになっていました。
まぁ、一応書き上げたものなので、ここで日の目を見ることにしました。
ややこしい話ではないので、適当に暇潰しにでも読んでみてください。
草の根をかき分けつつ、男は森の中を進んでいた。
木々が日の光を遮り、まだ昼間のはずなのに視界が悪い。
これほどまでに日が入らないと、下草など伸びないはずなのだが、栄養がいいのか、歩くのに困難なほど茂っている。
目的地まで道はあるのだが、これから敵地に向かおうというのに、正面の道から行くわけにも行かない。
しかも、敵の方が数が多いのだ。だから少しでも有利にしようと、こうして気付かれないよう道無き道を進んでいるのだが……
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、
大した速さで進んでいるわけではないが、既に疲労の色は濃く、息も荒い。
森の中を歩くのに向いているとは到底思えない、フルプレートメイル装備に、祝福を受けた十字剣。背中に背負ったラージシールド。これならば確かに疲れはするだろうが、それだけではない。
顔色は悪く、病気か、あるいは毒にやられたかのよう。もしくは、この森に満ちる瘴気の濃さに当てられたか。
「ぐふっ……」
そして、その予想を肯定するかのよう、彼は何度目かの嘔吐を木の根本にぶちまけた。
「はぁ、はぁ、うぶ……」
乱暴に口元を拭い、未だ意外なほど生気に満ちた目で前を見据えて歩き出す。
この先に、魔族が住むとされる城がある。
その真相は定かではないが、この近くでアンデッド・モンスターの類を見た、という証言は後を絶たない。
その真相を確かめ、あるいは原因を排除するのが彼に与えられた職務なのだ。
そして、その功績を持って、彼は聖騎士として認められることになる。
その予定だったのだが……
がくっ、とついに膝が落ちる。
気力はともかく、体力は既に限界に達していた。
睨みつけるその視線の先、森の切れ目から遠くにツタに覆われた古い小さな城が見える。
「く……そ……」
魔の眷属のテリトリーは、これほどまでに人の進入を拒むのか……
彼はそう思いつつ、木を掴んで辛うじて体を支えていた腕から力が抜けるのを感じた。
ずる……
ゆっくりと、倒れ伏し、草の中に埋もれる。
ジメジメとした腐葉土に顔を突っ込んでいるが、それももはや気にはならない。
というか、既に何かを感じたり、考えたりする余力は一片たりとも残ってはいなかった。
ロブグリエ・バーツラフ。聖騎士見習い。ここに死す。享年24歳。
ちーん。