ぐるコメ!
まだ連載準備中なんですが、そのお話がシリアス一色にするか、コメディにするか、それとも両方併せるかで悩んでいる時に思い付いた一場面でした。
載せられるエピソードかはまだ分からないので、取りあえず、こんな女の子が出るお話を書きますよーと言う、お試し作品として読んで頂けたら幸いです。
そう言う内容でも大丈夫な方のみ、お読み下さいませ。
冒頭のみR15風味ですが、コメディです。
年明けを控えた真冬。夕暮れを迎え、煉瓦造りの家々には仄かな灯りが灯り、暖炉の炎は煌々としている。
そんな寒々しい日に、何の変哲もない民家で、それは行われていた。
つつつ、と。その白い容に指を滑らせた。クリーム色の毛糸のセーター越しに、びくりと身体が震えるのがよく分かる。
呼吸は、何かに耐える様にか細く繰り返され、私の中の劣情を刺激する。
美しい少年である。まだ年端もいかぬ幼子は、逃げ場を失い、頼りなく壁に背を預け、座り込むばかり。
蜂蜜色の髪は細く柔らかい。アーモンド型の瞳は澄んだ空を思わせる。顔のパーツの一つ一つが整い、まるで人形の様であると言うのに、円やかな顔と優しげな眉が完璧なパーツに温かみを持たせ、これを感情のある人間なのだと知らしめていた。
彼を少女の様に見せている少し長めの髪は前髪も長めで、それをかき上げてやると、戸惑った青と目が合う。
「え、えまちゃ……」
愛らしく高めの声が、私の耳朶を打つ。
「触りたい?」
「う……っ」
息を飲む姿が、幼子のくせに酷く妖艶で。赤みの差した頬が更にそれを助長させていた。
今の私は、きっと、とてもとても愉しそうに笑っている事だろう。
――たのしい。すごく、たのしい。
「ねえ、ルゥ。触ってもいいんだよ?」
「エマちゃん……っ」
幼子――ルゥの頬にそっと手を這わせたら、ルゥがくすぐったげに身をよじった。構わずにその頬を優しく、撫でてあげる。ルゥにしどけなく身を寄せて、正面からルゥの顔を覗き込んだ。
「こんな風に、触って、撫でて、身体中に指を這わせても、良いんだよ?」
「で、でも」
私の台詞に、ルゥが目を泳がせた。誘惑と理性のせめぎ合いに、葛藤が見て取れる。
「でも?」
先を促すと、ルゥは今にも泣き出しそうに顔をしかめた。
「でも、エマちゃん、さわったら、おしおきするって……」
「するよ?」
「う、うう」
弱り切ったルゥの声。ぞくぞくする。
「触ったらお仕置きするって、約束したもの。当たり前じゃない」
「おしおき、やだ」
でもルゥは触りたいのだ。だけどお仕置きの恐怖にはまだ勝てない。
さあ、どうするの。どうしちゃうのルゥ!
興奮状態が最高潮に達しかけた瞬間、それはあっさり壊された。恐怖の女王様によって。
「エーーーマーーーー!」
「ぴきゃんっ!」
めこっという効果音が聞こえてきそうな勢いで、拳が私の脳天に直撃した。星が散った。
痛みに呻いて頭を押さえつつ後ろを振り返ると、恐怖の女王様は恐怖の女神様に進化してた。
「お、お母さま! 待って! 話せば分かる!」
「分からん!」
「めぐんっ!」
ぺこんっと、スリッパで頭を叩かれた。まさかの家庭の害虫扱いだと!
結局、恐怖の女神様こと私とルゥのお母さまは、私にこの状況説明を求めてきた。いつも思うんだけど、こういう非日常的な演出をかました後のお説教と、経緯説明はとっても羞恥プレイだよね。だって自分の性癖駄々漏れだよ。
「エーーマーーー?」
「ひゃひょっ」
とうとうほっぺを指で摘まれてしまったのであるよ。どうだいこのもち肌。堪らんだろう。
「もう、ね。お母さんね。エマがどうしてこうなっちゃったのか分からないのよ。なんでこんな風に育っちゃったのかな六歳児よ」
「お母さん、世の六歳児全てが六歳児らしいと思ってたら痛い目見ちゃうんだからね?」
「もう見てるわよ」
「にゅひゅっ」
ぐにぐにとお母さんが六歳児のもち肌ぷるるんほっぺを指で弄んでいらっしゃるよ。
「お母さんは晩ご飯の支度がまだ終わってないから、簡潔にルゥに何をしていたか述べよ」
「ルゥを壁際に追い詰めて周りを子猫ちゃん十四匹で囲んで焦らしプレごぺっぷんっ」
まだ最後まで言ってないのに頭をぺしりと叩かれた。もう、本当に我が家の女神様は暴力的なんだから。
お母さんはいつも身に着けているエプロンのポケットからメモ帳とペンを取り出した。
「正直に答えなさい。今ルゥにじゃれついてる子猫達はどこから調達したの」
お母さんがルゥの方を見たから、私もつられてそっちを見る。実は冒頭からずっと子猫ちゃん達は「みゃー」とか「にゃー」とか「にゅー」とか鳴いてて私達の周りに居たんだよ。雰囲気を出す為に、我が脳内で音声処理されていないもの扱いされていただけで。
そんな不憫な人懐っこい子猫ちゃん達は、ルゥの周りをウロウロしながら、ルゥにちょっかいをかけていた。が、ルゥはまだ「お仕置き」が怖いのか瞳を潤ませ、手をぎゅっと握って子猫ちゃんに触れない様にしていた。可愛いなあ。
触る触らない云々は勿論子猫ちゃん達の事であるよ。私は健全な幼女だからね!
「子猫ちゃん達は、リフェちゃんをたらし込んだら、簡単に借りらめきょん」
おおお、今度は頭をぐっと押さえつけられた。多彩なお仕置きですよ。
「また!? リフェに迷惑でしょう!」
因みに、リフェちゃんとは街のペットショップの看板娘で、子猫ちゃん達はそこでもうすぐ売られる予定です。リフェちゃんは私を大層可愛がってくれていて、小首傾げて上目遣いでお願いしたら、あっさりと子猫ちゃんを貸してくれたんだよ! 年上殺し――ただし女の子に限る!――とは、このエマ様の事だ! 年上殺しの武勇伝はいっぱいあるとも!
えっへんと胸を反らす私に、お母さんはメモを取りながら深々と溜め息を吐いた。あれ? もしやそのメモは後日行われる罰則用だったりしますか。私の罪状たっぷり書かれてますか。
「――で? 何で子猫を借りたのよ」
「来年の小等学校デビューに向けての特訓ですよ」
「は?」
お母さんには予想外な答えだったらしく、目と口をまん丸にしてびっくりしている。そんなお母さんに私の方がびっくりです。何で分かんないのかな!
「お母さん、よく聞いて下さい」
「う、うん」
ここぞとばかりに立場逆転して、しゃがんでいるお母さんの肩をがしりと掴んだ。目の端に、子猫に触れなくてめそめそ泣いているルゥが見えたけどめちゃくちゃ可愛かったので放置だ。
「小等学校と言えば言わずもがなで共学ですな?」
「そ、そうよね」
「私とルゥは来年、そんな場所に通う訳ですよ」
私とルゥは同い年の六歳なんだけど、双子ではなくて義理の姉弟だったりする。まあ、お母さんも私も赤茶色の髪で、お父さんは焦げ茶色の髪。お母さんは緑色の瞳で、私とお父さんは薄緑色の瞳。ルゥはそのどの色も持っていないから、血の繋がりが無い事は誰の目にも明らか。顔も似てないし。ルゥは天使だし。
「学校には、まさに花開かんとしている子猫ちゃん達が群れをなしているのですよ!」
「はい?」
「そんな中に純粋で無垢で天使なルゥを放り込んでみなさいよ。あっという間に子猫ちゃん達が猫の皮を脱ぎ捨ててメス狼に大変身!」
「ちょっと、何言って」
「メス狼の群れに囲まれた哀れな天使子羊ルゥ! 皮剥かれて美味しく頂かれちゃうに決まってる!」
「…………」
「可憐な子羊に群がるメス狼! 年齢制限のめくるめく新世界に旅立っちゃうっつー話でびろっぱー!」
問答無用でお口を指でキュってされた。ひよこ口にされた。ぴよぴよ。
「あのね、エマ。それ、六歳児のお口から出て良い内容じゃない」
「七歳児なら良いのか」
「一年しか待てないあんたの忍耐の無さが悲しい!」
忍耐力はお母さんのお腹の中に断腸の思いで置いて来たんだよ。本当だよ。
「お母さんは甘い!」
「何がよ」
「女は生まれた瞬間から女!」
「……まだ六歳なんだから」
「そんな事言っちゃったが最後! ルゥはお母さんが知らない間に食べられちゃうんだよ!」
草食系ゆるふわ少女に見せかけて実はメス狼! 否! ハンターだ! 上等な獲物を素早く罠に嵌めて狩り捕る! 女は幼女の頃からハンターなのだよ!
「ルゥがハーレム作る事には反対しない! 捕食者であれさえすれば反対はせん! 獲物にだけはなるな!」
拳を握って力説する私に、お母さんはもう何も言えない様だった。
「だからこその子猫ですよ! ほにゃほにゃの子猫の誘惑にすら屈しちゃう軟弱者にはあのメス狼の群れに挑む事は適わんのですよ!」
そんな風に叫ぶ私の足元に子猫ちゃんがふにゃふにゃと転がりながら纏わりついてきた。「みー?」とか何か話し掛ける感じに見上げてきて、あまつさえ私の足を小さな前脚でちょいちょいと触っている。くあ、可愛い……とか思わないよこのメス狼(予定)め!
ぷるぷる震えながら子猫を見下ろす私に、お母さんは呆れた顔をした。
「……我慢は毒よ?」
「ふおおおおっ! もふもふー! 可愛いよハアハアハアハアもふもふー!」
お母さんの後押しに、私はあっさり陥落して可愛い子猫をもふった。可愛い。私の指を舐めるとかイケない子! めっちゃ可愛いよおおう!
「ああ! エマちゃんズルい! 僕も撫でたい!」
ルゥがめそめそしたまま私の元にすり寄ってきた。他の子猫ちゃん達も何故かルゥと共に移動してくる。
おおお、天使がもふもふと共に天から遣わされてきた様にしか見えない。
「撫でれば良いあるよ! 私許すね! もう良いよ! 負けたあるよ! もふもふと天使には勝てないっつーんですよ!」
私が愚かでした! 無謀な戦いでした!
にこにこと笑うルゥと一緒に、初志を忘れた私は、ついでに我も忘れて一心不乱に子猫ちゃん達と戯れたのであった。
でもメス狼対策は諦めないよ!
そううっかり声にだしたら、「六歳児の言う事じゃない」と憤怒の女神様化したお母さまにほっぺを伸ばされました。失敗失敗。