日常
リュセは急いである場所に向かっていた。
彼は魔族であるが髪の色は人間と変わらない茶色、瞳は深い緑色をしていた。
まだたまに魔族から産まれる"ちからなきもの"のように魔力をまったく持たないわけではないが、ほとんど使うことができなかった。
魔族は村を追い出したりはせず個人の意志を重んじるため、彼は村に残り雑用係を買って出ていた。
今日は休暇であったはずなのだが、村長から呼び出しをくらい今に至る。
ある程度その内容は察しており、その期待は裏切られなかった。
「御用はなんでしょうか」
村長宅につき彼の部屋を訪れ開口一番にそう聞いた。
「ああ、リュセ悪いがまた娘を連れ戻してきてくれないだろうか」
「またですか」
机の書類と格闘しながら村長はため息をついた。
「やはり婆様の元から逃げ出したようだ」
「まったく……。じゃあいってきます」
そう言ってリュセは家をでた。
婆様はこの村一番の魔女であり、村長の伯母に当たる。
現村長の血筋は代々魔力が強く、まだ制御できない村長の娘のフクシアに彼女が扱い方を教えているのだ。
しかし、フクシアは彼女が嫌いでしょっちゅう逃げ出して、その度にリュセが連れ戻しに行っていた。
毎回同じところにいるので何処かに行ってしまう心配はないのだが、その場所が迷いの森に入ったところなのがたちが悪い。
薄暗く悪戯妖精も多い迷いの森では何が起こるかわからない。
そこでリュセが毎回なだめすかして連れ帰る羽目になっていた。
「フクシア!居るだろう?」
幼い頃二人で一緒に遊んだ大木。
フクシアは何かある度にここに来る。
返事はなかったが、木を見上げると木の葉の隙間から特徴的な薄紅の髪が見えた。
「そっち行くよ」
成長した今でも大きな木を慣れた様子で登って行く。
「フクシア、きたよ。みんな待ってるから帰ろう」
「…………」
頬を膨らましてそっぽを向くその姿は、成長が止まりはじめたとはいうのにまるで幼子のようだ。
これくらいはいつものことだったのでリュセは彼女の横に腰をおろして機嫌が治るのを待つことにした。