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第七話 ゾフィー ③

「ついてきて!」

 真っ白になった景色の中、ゾフィーの声が高らかに響く。それと同時にゾフィーの手がダニエルの手を掴む。その直後、ダニエルは反射的にゴードンの手を掴んでいた。そしてゴードンはキースの、キースはパーシーの手を掴む。考える暇もない。目も見えない。そうして縦一列になりながら、後ろの四人は先頭のゾフィーに全てを委ねていた。

 ゾフィーが走る。四人がつられて走り出す。

 そしてゾフィーの叫びから数泊遅れて、続いて平静を取り戻したダリアの怒号が響いた。

「何をしている!撃て!撃て!」

 五人が包囲を突っ切って部屋を抜け出し、見慣れた白い通路に退避した直後、背後から銃声が、何重にも重なり合った状態で轟いた。

「あいつら正気かよ!」

 手をほどいて後ろを振り向き、しかし走りは止めぬままにキースが叫んだ。回復した視界の中に見える開けっ放しになったドアの向こうは未だ真っ白だった。

「まだ周りも見えないってのに、あれじゃ同士討ちすんのがオチだろ!」

「多分アレだろう。連中は脳だけでなく体もいじっているのだ!だからあんなことも平気で出来る!」

「肉体強化、そして自己再生能力か」

「まさに化け物だな!モンスターだ!」

 そんなパーシーとゴードンのやりとりを聞き、ゾフィーと並走するようになったダニエルが彼女に尋ねた。

「二人の話は本当なのか?」

「本当です。あれこそがトレイル社の、いえ、ダリアの新商品」

「新商品だあ?」

 キースが素っ頓狂な声を上げる。

「連中、まさかあんなブツを売り物にしようってのか」

「正確には、彼らのような存在を量産することのできるプログラムをです」

「どっちにしろまともじゃない」

 ダニエルがそう言った直後、前を走るゾフィーとダニエルが不意に立ち止まった。

「どうした?」

「行き止まりだよ」

 ゴードンの言葉にダニエルが渋る。そんなダニエルの前方には、真っ白な壁が屹立していた。そして背後から、人とも獣ともつかない叫び声が木霊してきた。太鼓のような足音を響かせながら、それはゆっくりとこちらに近づいてきていた。

「おいおい、なんか来てるぞ」

「ビッグフットだ!」

「ボケてる場合か!」

「ならばノジラだ!二年前に映画になった、伸縮自在の大怪獣だ!」

「うるせえ!黙ってろ!」

 パーシーの戯言とキースの怒号が飛び交う中、ゴードンの方を向いたダニエルが親指を立てたまま首を掻っ切るポーズをとる。それに対してゴードンが首を横に振る。

「荷物を担いで走る余裕はない」

「ヒーローだろ?」

「ならお前が担げ」

「……パス」

「大丈夫。抜け道はあります」

 何に対して大丈夫といったのかわからなかったが、とにかくゾフィーはそう言いながら、壁の前に跪いた。そして床にあるパネルを開き、そこに据え付けられたテンキーを使って淡々と数列を打ち込んでいく。

 そしてゾフィーが立ち上がると同時にロックの外れる音、そして甲高い電子音が鳴り響き、目の前の壁が音を立てて上へとせり上がっていった。

「隠し通路か!」

 通路の先には螺旋階段が見えた。

「この階段を下りれば秘密のボート乗り場があります。それを使って脱出しましょう」

「連中は、ダリア一派はこれを知ってるのか?」

 ゴードンが言う。ゾフィーが返す。

「恐らく知らないと思います。これは有事の際にゼオン様が作りあげられたものですので」

「ゼオン?」

「あんたたち、どういう関係なんだ?」

「それは安全な場所に着いたら全てお話します。それよりも今は!」

 人ではない何かの叫びがこだまする。足音がどんどん近づいてくる。

「まあ、考えてる暇はなさそうだな」

「ならば往こう!無限の闇の彼方へ!」

 ゾフィーが先に階段を降り、後の三人がそれに続く。

 パーシーの言葉は完全に無視された。


 例の五人がボートを使って地下水路から脱出したのを物見から聞き、ダリアは肩を落とした。無線機の向こうの物見の声は震えていた。

「申し訳ありません。追撃に向かおうとしましたが、こちらが準備を終えた時には既に……」

 すっかり縮み上がったその声に対し、ダリアは諭すように返した。

「構いません。過ぎたことをとやかく言っても仕方ありませんしね」

「申し訳ありません……」

「謝罪はそのくらいでよろしい。それよりも、例のプランを実行します。我々もそちらに行くので、貴方たちはそれまでの間に準備をしておきなさい」

「そんな、もう売り出すのですか?」

 無線機越しの声は、今度は恐怖ではなく驚愕に打ち震えた。その声にダリアが眉をひそめる。

「問題でも?」

「些か早すぎはしないでしょうか?生産体制も十分とは言えませんし……」

「やむをえません。こちらの内情を知った者が彼らと共に脱走してしまったので、遅かれ早かれ我々のプランも明るみになってしまうでしょう。いずれバレるというのなら、いっそこちらからバラしてやった方がスッキリするというもの」

「は、はあ……わかりました。準備いたします」

「衛星通信の準備も忘れずに」

「勿論です。カメラの感度も調整しておきます」

 そう会話を続ける中で、ダリアが空いた手を振り指を曲げ、周囲にいたガスマスクを身に着けた集団に無言の指示を飛ばしていく。そしてそれを解した集団が一糸乱れぬ動きでその部屋から一斉に退出していく。そしてダリア一人が残った室内に、無線機からの声が小さく響いた。

「それで、デモンストレーションの場所はいかがしましょう?」

「それについては問題ありません。既に候補地を決めてありますので」

「テスト対象は?」

「それも問題ありません」

 ダリアが妖艶に笑った。

「飛び切りの相手を見つけました」

 後に魔性の笑みを残しながら、無線機のスイッチを切った。


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