第六話 LD ④
そこは通路と同じくらい真っ白な直方体状の部屋。六角形状の部屋と同じくらいの広さであり、部屋の上部には四角いモニターがいくつも据えられていた。壁に埋め込まれる様に規則的に並んだ半透明のシリンダーには銀色の液体がなみなみと注がれ、それらのシリンダーにそれぞれ一つずつ、コンピューターが据え付けられていた。中央部にはテーブルと資料、コンピューターや機械類が同じく規則的に並べられていた。
その部屋の四隅には一つずつ扉が置かれ、ダニエルたちはその右側手前の扉の前で待ちぼうけを食っていた。
「げ、あいつら」
左側の扉から現れた二人組を見て、ダニエルが苦い顔になる。ゴードンが顔を歪ませ、露骨に嫌な雰囲気を露わにした。
「なんであいつらがここにいる?」
「そんなのこっちが知りたいよ。パーシーはともかく、なんでキースまでいるんだ?」
「僕が職務質問に答えたからだ!」
二人の元に歩み寄りながらパーシーが答える。両者の間にはそれなりの距離があるのだが、パーシーはそこから二人の会話を聞きとったのだろうか?だとしたら恐ろしいまでの地獄耳だ。
「職務質問とは何だ?貴様は何をした?」
だがゴードンは、そんなことお構いなしに平然とパーシーに語りかけていた。だが職務質問という単語が彼の琴線に触れたらしい。今のゴードンの口調は犯罪者への『尋問』をする時の物だ。
「答えろ。何をした」
だがパーシーは動じない。いつも通りの軽い口調で言い返す。
「別に何もしていないさ。ただちょっと街の方で殺しがあって、そいつがちょっと君たちに訳ありな奴だったのさ」
「なんだって?」
「殺人はこっちの街で起きてしまったらしいね。でも起きたことは事実だから、予言は当たった訳だ」
「不謹慎な事言うんじゃねえよ。俺が説明するから黙ってろ」
自信満々に言ってのけるパーシーをはたきながら、後からやってきたキースが代わって自分たちがここに来た理由を話し始めた。
バッシュという男が死体で見つかったこと。
バッシュがダニエルとゴードンの名前の書かれた紙片を握っていたこと。
ゴードンを匿っているパーシーの元に行ってみたこと。
二人はいなかったが、二人の居場所(トレイル家に通じる人間もそこにいるというオマケ付き)を教える代わりに自分もそこに連れて行けとパーシーがゴネたこと。
行ってみたらまんまと罠にはまったこと。
「まあ、こんな感じだな……どうした?」
あらかた話し終えた時点で、キースが目の前の二人の顔を見やる。そしてそこにある表情を見て、キースは思わず眉をひそめた。
「おい、どうしたっていうんだ?そんな顔して」
二人は唖然としていた。目と口を開け、その場に立ちつくしていた。キースは今まで、彼らのそんな顔を見たことが無かった。
だが今の二人に、キースの姿は頭の中には入っていなかった。代わりに数時間前にマフィアの一人から聞いた一連の言葉を頭の中で反芻していた。
戦力を集める。
ヒーローを味方につける。
「奴め」
「本気だったのか……」
「そういうことです」
そう言って、キースたちが出て来た扉から、二人を待たせていた元凶が姿を現した。
「ゾフィー」
「やっと来たか」
「申し訳ありません。こちらにいた連中を片づけるのに少々手間取ってしまいまして」
担いでいた長筒状のバズーカ砲を地面に放り落としながら、ゾフィーが申し訳なさそうに言う。
「ですが、あらかた片付いたので当分は大丈夫でしょう」
「そうか。ならいい加減話してもらおうか」
ゴードンが一歩前に出る。そして無言のプレッシャーを撒き散らしながら、ゾフィーの元に近づいていく。他の三人もそれに続いた。
「何をお話すればよいのでしょう。私がここにいることでしょうか?」
「全部だ」
ゴードンが恫喝するようにゾフィーに言う。ゾフィーはそのゴードンの視線を怯むことなく受け止め、やがてゆっくりと目を閉じた。