第五話 ビヨンドザソード ⑨
直撃。
頭から血を流しながらパーシーが後ろに倒れ込む。これで終わらせるつもりはない。
ディクシーがパーシーの真横につき、無防備なその頭を鷲掴みにする。そして自身の全体重をその腕にかけ、怒りのままにパーシーの頭を持ったまま床に叩きつける。
パーシーが大の字で床の上に組み伏せられる。さらにディクシーは頭を握る手に力を込め、その頭を握り潰そうとした。常人ならば出来ないだろうが、自分なら出来る。あの選定試験を乗り越えたディクシーは確信していた。
しかも一息には殺さない。少しずつ力を加えていき、ゆっくりと破壊してやる。いつ頭が割れるかわからない恐怖を心行くまで味わうがいい。鉄面皮は崩さず、しかし嗜虐心を露わにしながらディクシーがパーシーの頭を締めつけていった。
「ふ、ふふふふふ」
不意に笑みがこぼれる。しかしそれはディクシーではなく、パーシーがこぼしたものだった。
「……何を笑っているのです?」
「ふふふ、いやなに、自分の勝利を確信して少し笑みがこぼれただけだよ。メイド君」
意味がわからなかった。パーシーの生殺与奪は明らかにこちらが握っているというのに。状況を理解していないのか?ディクシーが内心抱いた疑問に答えるように、パーシーが言った。
「わからないのかね?二対一だ」
「二対一?」
「君は僕を倒したと思っているようだが、君の敵はもう一人いるのだぞ?少しは周囲に気を配りたまえ」
その勝ち誇ったようなパーシーの口調がディクシーをますます苛立たせた。頭を握る手に力を込めながら、ディクシーがパーシーに対して言い放つ。その言葉は
「何をばかな。あの人は逃げたではないですか」
「逃げたと思うだろう?でも違うのだ。あいつは逃げない男なのだ。僕にはわかる。なぜなら」
パーシーの言葉を遮るように甲高い銃声が部屋に響き渡り、それと同時に見えない手で押し出されたように、ディクシーが勢いよく横に吹き飛ぶ。
ディクシーは床にあおむけに転がり、そのまま糸の切れた人形のように、目を開いたまま動かなくなった。
起き上ったパーシーが周りを見回すと、キースがついさっき自分が出ていった扉に寄り掛かりながら右手で銃を構えていた。
「よう、大丈夫か?」
「おお、キース刑事」
「悪いな。連れを捨てて逃げるなんざ、俺の男としてのプライドが許さねえんだ」
そう言って右腕を下ろして銃をホルスターに挿し、代わりに尻ポケットにあるタバコに手を伸ばして口にくわえる。
「安心しな。殺しちゃいねえよ。ところで、火持ってねえか?」
そう言って平静を装うとするキースに対して、パーシーが両腕を広げながら声高に叫んだ。
「なんてことをするのだ!台詞は最後まで言わせてくれ!」
「あのままだったらお前死んでたぜ」
「それは感謝している、ありがとう!だが台詞は言わせてくれ!それと火は持っていない!」
一気にまくし立てるパーシーを見て、キースは肩よりも頭の痛みが激しくなってきていることに気付いた。