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第五話 ビヨンドザソード ①

 アジトから屋敷への帰り道。半殺しにしたマフィア連中を街の警察に引き渡した二人のヒーローの心は、だが晴れやかとはほど遠いものだった。

 バッシュの戦力は全て潰した。後はバッシュを捕まえるだけだ。それで終わる。

 本当に?

 捕まえて終わりなのか?

 ダニエルは苦い顔を浮かべながら、説明できない後味の悪さを噛み締めていた。何かが引っかかる。ヒーローとしての、いや、事前に危険を察知する生物としての直感が告げていた。ではそれは何なのか?それを理論的に説明できないからこそ、彼はその苦みを嫌というほど感じていたのだった。

 黒幕は本当にバッシュなのか?

「考えるのは止めろ」

 不意にゴードンが切り出す。動揺を感じさせない氷点下の口調に、ダニエルは今までにない安心感を覚えた。

「止めろ、というのはどういうことだい?」

「言葉どおりだ。情報が少なすぎるこの段階で、納得できる回答など見込めるはずもない」

「ああ……ああ、確かにそうだな。じゃあどうする?向こうに戻って、バッシュを捕まえるか?」

「それも手の一つだ。だが――」

 ゴードンがサングラス越しに、前方に見えたトレイルの屋敷の姿を捉える。

「奴らに事情を聞いてみるのもいいかもしれないな」

 その闇夜に照らされた姿は、二人の心象を現すかのように、暗く陰鬱に映っていた。


 闇。一歩先すらも見えない闇。画用紙に黒ペンキをぶちまけたような、情け容赦のない完全な闇。

 その漆黒の闇の中で、ランタンの火が鬼火のように揺らめいていた。しかしその火は周囲の闇に比べてあまりに貧弱であり、ランタンの真下に置かれた机の表面を照らすだけで精一杯だった。

 そして机と共にそのランタンの光に照らされて、机の前に一つの人影が佇んでいた。だがその貧弱なその光ではその人間のおおまかな輪郭を捉えるのが限界であり、その身を覆う闇を振り払うことは出来なかった。

「……」

 人影が、机の上に置かれていた物に手を伸ばす。光に照らされたそれは木枠で囲まれた一枚の写真だった。そこに映っている人間に視線を固め、じっと動かなくなる。

「……」

 不意に上方から、大きな物音と悲鳴が聞こえてきた。それに呼応するかのように、石のように固まっていた人影が再び動き始める。写真を机に置き、ランタンの火を消す。

 完全を取り戻した闇の中で、甲高く乾いた靴音だけが辺りに響いていた。


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