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第四話 襲撃、反撃、オーバーキル ⑨

 キースがただ一人でパーシーの家を訪ねたのは、ゴードンたちがマフィアのアジトを襲った数時間前だった。その姿はいつもの水色の制服ではなく、代わりに茶色のトレンチコートを身にまとっていた。

 ドアの前に立ち、躊躇いがちにインターホンを押そうとする。しかし指がボタンに触れる直前、目の前のドアが唐突に内側から開き、そこからショートヘアの女性が涙をこらえるように顔を伏せながら飛び出してきた。キースは反射的に横によけたが、女性はそれを無視し、肩を震わせながら足早に立ち去っていった。

「おや?誰かと思えばキース刑事ではないか」

 キースがその背中をじっと見つめていると、ドアの向こう、だだっ広い居間に居座りカップを手にしたパーシーが声を上げた。キースはそれに軽く会釈すると同時にずかずかと中に入り、のんびり茶を飲んでいるパーシーに尋ねた。

「さっきの女は誰だ?」

「ああ、彼女かい?僕を頼ってやって来た迷える子羊さ。彼女は困っていたんだ。はたしてこの世界は存在する価値があるのかとね。そしてそれを考えている内に居てもたってもいられなくなって、僕の託宣を聞きに来たという訳さ」

「お前は宗教でも立ち上げるつもりか?」

「まさか、僕は人助けをするだけだよ。善行は積んだ数だけ、来世で授かる祝福が増えるからね」

 こともなげにそう言って、パーシーがポットを手にとって中身をカップに注ぐ。キースの分は無かった。だがキースはそれを咎めること無く、目の前の男がなぜこうも『信仰』を集めているのか、気になって仕方なかった。

 この目の前に居る男は、この街の一部の人間からカルト的な人気を誇っていた。年柄年中叫びまわっている支離滅裂な文言に感化されたのかはわからなかったが、彼を師匠ないし偉大な者として畏怖し、尊敬する者たちが確かにこの街に存在していた。

 今見た女もその類だろう。そしてパーシーは、そうやって自分勝手に救いを求めて駆けこんできた彼らをつき返すことはせず、彼らの悩みに耳を傾け、あまつさえ自らそれらを解決しようと動くことさえあったのだった。

「ところで、君はどうしてここに来たのかい?……ああそうか、君も僕の啓示を受けにきたのだな!」

「ちげえよボケ」

 得意げに言い放つパーシーの言葉を一蹴して、胸の内ポケットから手帳を取り出す。それをおもむろに開きながらキースが続けた。

「単刀直入に言うぞ。昨日、ここにヒーロー二人がいなかったか?」

「ああ、いたぞ。それがどうしたというのだ?」

「やっぱりか」

「一人で納得してないで僕にも詳しいことを説明したまえ!何の分け前もなしにベラベラしゃべった僕がバカみたいじゃないか!」

「ただの事情聴取だってのに何言ってやがる。出ねえもんは出ねえんだよ。我慢しろ」

「いやだ!」

 子供のようにダダをこねるパーシーに対し、キースは自分が折れることを選択した。バカとまともに付き合っていても時間の無駄だ。キースが内ポケットから一枚の写真を取り出してパーシーに投げ渡した。

「なんだこれは?」

「見りゃわかる」

 パーシーが写真を凝視する。そこには彼の良く知る二人の男の名前が記された紙片が写されていた。紙片は端が真っ赤に塗れていた。

「ダニエルにゴードンの名前があるじゃないか。これがどうしたんだ?」

「大分前に一人の男の死体が見つかった。その紙をポケットにしまいこみながらな。身許確認も済んでる」

「借金取りか?」

「話は最後まで聞け」

 キースがそう言ってはやるパーシーを抑える。ついさっきまで話すのを嫌がっていたことは、彼の中からはさっぱり消えていた。

「名前はバッシュ・ウッド。向こう側の街に構えるトレイル家の所で執事をやっていたらしい。トレイルってのは、あの、大企業のトレイル・グループの元締め――」

「バッシュだって?」

 その死者の名前を聞いた時、パーシーが表情を険しくした。

「バッシュ、バッシュ。そういえば昨日騒いでたな」

「――死因は鋏で心臓を一突き。即死だったそうだ……おい、聞いてるか?」

 キースはそんなパーシーの態度には気付かずに、まだ世間に公表されていない事件の概要説明を終えた。極秘事項だった

 自分の失態にも気付いていなかった。


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