第四話 襲撃、反撃、オーバーキル ⑦
やはり地下は寒い。
だだっ広く薄暗いコンクリート張りの空間。その中で、ダニエルは白い息を吐きながらそう思った。そして目の前に文字通り山のようにうず高く積まれた黒服の男たちを見つめながら、帽子を整えて一つため息をついた。
彼らはアルヒタウンでも指折りのマフィアグループだった。そして数分前まで、彼らは医者が見たら満点をつけるほどの健康体だった。鍛え抜かれた頑強な体と冷徹で狡猾な頭脳。それらを武器に、彼らはここを根城にして様々な悪事に手を染めて来たのだった。
だが数分前、何の前触れも無く表れた二人の自称ヒーローによって、彼らはその体を粉々に破壊され、一人残らず全滅してしまったのだった。
「いてえ……いてえよ……」
「骨が折れちまってんだ……助けてくれ……」
「駄目だ。そうやってもう少し反省していろ」
マフィアの懇願を一蹴しながら、ダニエルが床に落ちていたデザートイーグルを拾い上げる。非常に大きく、重い。そして一般人が撃ったら肩を脱臼する。少なくとも護身用に持つようなものではなかった。
このマフィア連中は、やはりというか、ほぼ全員が拳銃を持っていた。ダニエル達がここに来た時、彼らはテーブルを囲んで会議中だった。だがその中には先程ダニエルが拾ったものやドラムマガジン式のグレネードランチャー、対戦車ライフルといった物騒極まりないものを担ぎながら発言している者もいた。
そして二人の姿を見た時、彼らは話し合いもせずにそれらを構えて一斉掃射を敢行した。
「誰だ、あいつら!」
「誰だって構わねえ、ここを見た奴は生かして返すな!」
普通の人間ならそれだけでお陀仏だろう。だがマフィアの相手は普通の人間ではなかった。
彼らはまさか、遠くから歩いてくる男が銃弾より早く動けることなど思いもしなかっただろう。彼らが引き金を引いた時、既にその懐には白いタキシード姿の男とコート姿の男が潜り込んでいた。その時の彼我の距離は七十メートル。
「え?」
「Hi!」
弾丸がコンクリートを穿つ爆発音と、自身の骨がへし折れる鈍い音を同時に聞いたのは、後にも先にも彼らだけだろう。この予想外の奇襲に、彼らはあっという間に総崩れになった。密集しているのも災いし、大半の人間は銃を撃つことすらできなかった。
「ダンスパーティだ」
「真面目にやれ、ダニエル」
その中を、キャプテン・スクリームとマックス・キッドは縦横無尽に駆け巡った。のろのろと蠢くマフィアの中を、彼らはエッジを利かせた踊りを踊るかのように鋭く、瀟洒に動き回った。そして目に付いた悪党共を、まさに疾風の如く、片っ端から成敗していった。
剣のように鋭利に。手刀が腹を突き、相手を背後の壁に叩きつける。
鞭のようにしなやかに。回し蹴りが頬を打ち、敵をその場で回転させる。
ハンマーのように激烈に。拳が悪の鳩尾を捉え、そのまま真上に打ち上げる。
一人の悪党が空を飛び、その余波で数十人の悪党が全方位に吹き飛ばされる。
それはまさにエンターテイメント。二人のヒーローを中心にした、テレビドラマのワンシーンのような過激で華麗な殺陣だった。