第四話 襲撃、反撃、オーバーキル ⑥
闇。
そこには闇が広がっていた。
照明も無く、人気も無い。何の音も聞こえてこない。その空間に果てがあるのかさえわからない。
無限の闇。
時折どこからともなく吹きつけるうすら寒い風が、どこかに通じる道があることを辛うじて伝えていた。
ドリーは、その窮極の孤独の領域に、たった一人で置き去りにされていた。
両手足を縄で縛られ、椅子に固定された状態で。
ヒーロー二人が出て行ってから数分後、彼は今の状況に立たされていた。
「……」
その発狂しかねない状況の中で更に極限状態に立たされていた彼は、顔を強張らせて口を固く結び、じっと闇のある一点を見つめていた。これから来る未曾有の恐怖に押し潰されないよう、必死に耐えていた。
遠くの方から乾いた足音が聞こえてくる。その音は段々と音量を増し、こちらに近づいてくるのがわかった。ジリーはそちらの方を見向きもしなかった。
やがてジリーの真横に、一人のメイド服姿の女が現れた。顔にそばかすを残し、髪は三つ編み。右手には銀色の盆を持っていた。
盆の上には注射器が置いてあった。
「……」
ジリーは顔色一つ変えない。それを見ようとすらしない。汗を流すことも怯え震えることも無く、じっと闇の中を見据えていた。
「お覚悟は、よろしいですね?」
女が左手で注射器を持ちながら静かに言った。
ジリーは小さく頷いた。
首筋に異物感。
後戻りはできなかった。