第三話 襲撃、反撃、オーバーキル④
「出てこい」
仕事を終え、毛布にくるまったまま倒れている男を担ぎあげながらゴードンが言った。するとクローゼットの戸が開き、中からジリーがのそりと現れて来た。
「お、終わったんでしょうか?」
「ああ」
不安げに尋ねるジリーにそうぞんざいに答えた後、ゴードンがドアを開けて廊下に出る。すると向こうでも獲物がかかったのか、ダニエルが自分と同じように丸めた毛布を担ぎながら部屋から出てくるのが見えた。
「ダニエル」
「ゴードン、そっちは――聞くまでも無いか」
ダニエルが気付き、こちらを見ると同時に状況を理解する。そしてこちらにゆっくり近づきながら、ダニエルが感心したように言った。
「まさか、君の言った通りに上手く行くとはな。びっくりだよ」
『敵』がこの屋敷に何らかのアクションを起こした場合、ジリーとダリアをクローゼットに押し込め自分たちが代わりにベッドの中に潜り込む。そして『敵』がその個室に侵入した場合、その時の状況に応じて行動する。これが先程ゴードンのとった、非常時における撃退作戦だった。恐らくダニエルも同様の方法で『敵』を撃退したのだろう。
因みにこれは入浴中にゴードンが発案したものである。
「この程度、造作も無い」
だが当の本人はそれを自慢するでもなく、ただ事実を淡々と述べただけだった。
「それにベッドに入った後は全てアドリブだ。俺の功績ではない」
「謙遜するなよ。こうして実際に二人を守ることが出来たんだ。万々歳だ」
そうダニエルが囃し立てていると、階下から鳴り響いていた暴音がぴたりとやんだ。それと同時に、ダリアとドリーが恐る恐る部屋の中から姿を見せた。
「もう、帰ったのでしょうか?」ドリーが躊躇いがちに、だが顔色一つ変えずに言った。
「おそらくは。襲撃が失敗したのに気づいたんでしょう」ダニエルがそれに応える。
「なんにせよ、これで一段落と言ったところでしょうか」
「まだだ。根本的な解決にはなっていない」
そう言って胸をなでおろしたダリアを、ゴードンが一蹴する。そしてダニエルもゴードンの意見に賛同した。
「ええ。今回のような襲撃が一日で終わるとは思えない。それに一度失敗に終わったことでむしろ、連中は次回からはもっと多くの戦力を動員してくるでしょう」
「もしくは搦め手で攻めてくるか、だ。物量でもそうだが、毒ガスなんぞ持ちこまれたら対処しようがない」
「では、どうなさるおつもりですか?」
ヒーロー二人のつきつけた事実に対し、だがジリーが動揺の色を見せずに尋ねた。ゴードンが返す。
「決まっている。先制攻撃だ」
「先制攻撃?」
「奴らのアジトを俺たちが襲撃し、先に連中を叩き潰す。やられる前にやれ、だ」
「そうだね。それに奴らの正体とか目的とか、色々聞きたいこともあるし」
「それはあのバッシュとか言う男から聞き出せばいいだろう」
「だからそのアジトに向かうんじゃないか。言いだしたのは君だろう?」
そう言い合いながらホールに続くドアに向かい出した二人を引きとめるようにダリアが言った。
「あの、どちらへ?」
「言ったはずだ。アジトに向かう」
「ですが、そのアジトの場所はご存じなんですか?」
「そのためのこいつらだ」
そう言ってゴードンが、自分の担いでいた毛布を顎で指す。
「何のために生かしたと思っている」