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第二話 屋敷と人殺し ⑥

「みたいなことを言われましてね。流石に嘘でしょう?」

 フェリーでの話を喋り終わり、最後にゾフィーに同意を求める。だがゾフィーは答えることなく、書棚の一つに向かってそこから一冊の本を取り出してきた。

「それは?」

「それに対する答えです」

 分厚い本をテーブルに置き、ゾフィーがおもむろにページを繰り始める。そしてある所で手繰るのを止め、その部分を開いてダニエルを呼んだ。

「ダニエル様。少しよろしいでしょうか?」

「ああ、なんだい?」

 ダニエルが早足で歩き、ゾフィーのすぐ横に立つ。ゾフィーがその本をダニエルに向けて見せながら言った。

「これはいわゆる、スクラップブックです。ここの部分を読んでみてください」

 ゾフィーの指示した所を読み進めていく内に、ダニエルの顔が目に見えて青ざめていった。


 ――真昼の惨劇

 ――民間人八人死傷

 ――八歳の少年、出血多量で死亡

 ――警察官五名殉職。

 ――オドネルは逃走後、再び消息不明

 ――鋏による傷跡。無残な手口

 ――「ハロー」フレンドリーに笑いかけながら犯行……目撃者語る

 ――「どうして逃げるんだい?」今にも泣きそうなオドネルの声。泣きたいのこっちだ

 ――オドネル・アッシュの凶行、今週で八度目

「これは……」

 記事と一緒に挟まっている写真を見て、ダニエルが思わず後ずさる。大人も子供も、男も女も、あらゆる人種の人間が、糸の切れた人間の様に大通りに散乱していた。手足をあらぬ方向にひん曲げ、地面を真っ赤に濡らしながら。

 八度目?これを、何度も?

 隣で、ゾフィーが静かに言った。

「これがオドネル・アッシュ、人切りのアッシュの伝説です」


「冗談だろう?」

 人切りアッシュの『伝説』を聞いたゴードンが貶すように言う。当のジョナサンは目は笑っていたが、語り口は真剣だった。

「いやいや、これが冗談じゃないんだな。当時の新聞で、奴の話題が出なかったことは一度もなかったんだ。でなきゃ、何百年も前の殺人犯なんざ誰も覚えてないっての」

「警察は仕事をしたのか?」

「勿論したさ。でも敵わなかったんだな、これが。何人がかり、何十人がかりで抑え込もうとしても、オドネルの野郎は服についたごみを払うようにそいつらを吹っ飛ばしたらしいぜ」

「奴のアジトは?捜索したのか?」

「徒労に終わったんだとさ。アルヒタウンはもちろん、その北にある森や南の平野も虱潰しに探したらしいが、なにも無かった」

 ゴードンが顎に手を当てて考え込む。ジョナサンが続ける。

「奴はいつもふらっと街に現れて、街の人間と談笑しながら、普通に買い物をしていくんだ。他と違うのは、その時に会話相手をいきなりメッタ刺しにすることくらいだな」

「……」

 何と言うやつだ。今まで見たことのない悪だ。

「流石にそんなことが何度も起きると、街の人間の方も警戒して奴には近づかなくなった。買い物もさせなかった。するとオドネルは、自分を見るなり悲鳴を上げて遠ざかっていく連中を見てこう言ったらしいんだ。『どうしてみんな俺を避けていくんだ!』ってな」

「凄まじい神経をしている」

「ただのイカレ野郎だよ。あいつの中では息をしたり飯を食ったりするのと人を殺すのは同じくらい当然のこととして認識されている、って当時の学者が言っていたような気がするな」

「良く知っているな」

 素直にゴードンが感心すると、ジョナサンが恥ずかしげに内ポケットに手を入れ、一冊の本を取りだした。

「それはなんだ」

「い、いや、オドネル・アッシュの偉業……犯行をまとめた本だよ」

「なに?」

「俺、あいつのファンなんだ……」

 そう言いながら頭をかくジョナサンを見て、ゴードンの目の色が変わった。

 貴様は悪に与するのか。


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