表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

第二話 屋敷と人殺し ④

「人切りアッシュ?」

 同じ頃、ゾフィーとダニエルはホール右側のドアの一つを越えた先にある巨大な書庫に居た。

 そこはこの屋敷一階の右側三分の一を完全に占有しているかのようだった。壁一面に書棚が置かれ、中央の空間にも壁にあるのと同じ大きさの書棚が等間隔で並べられていた。書棚が置かれたところ以外の床には赤い絨毯が敷かれ、書棚の手前には長テーブルとイスが置かれている。奥の左隅には二階に上がる階段と、男女別々に別れたお手洗いがあった。

 そしてダニエル達の左側には、壁で仕切られ真ん中をくりぬかれた司書の詰め所が見えた。どうやらホール右の奥側にあるドアはあそこに通じているようだ。

 そんな中でダニエルが先に上げた声を上げたのは、そこにある大量の書物を眺める中で、不意にゾフィーがその名を口に出したからだった。

「はい、聞いたことはございませんか?」

 興味深げにゾフィーが尋ねる。初めて聞くフレーズの意味が分からず、客が狼狽する様を期待するかのような口ぶりだった。だがそんな彼女の狙いは簡単に打ち崩された。

「ああ、アッシュのことなら聞いたことありますよ」

「まあ、そうなんですか?」

 ダニエルの自信ありげな言葉にゾフィーがわずかに肩を落とす。それを見て内心してやったりなダニエルが、壁にびっしり埋め込まれた書物に目を移しながら言った。

「確か、対岸にあった街に古くから伝わる殺人鬼の話、でしたよね?」

「ええ。私はあの街――アルヒタウンの出身なので、向こう側から来た何も知らない人にこの話をするのが、楽しみの一つなんです。試すようなことをしてごめんなさい」

 河を挟んだ二つの街は、仲が悪い訳ではなったが、かといって交流が盛んな訳でもなかった。互いの住民は交易で会う以外は特に相手を意識することも無く、相手に興味を持つことも無く今まで生活をしてきたのだった。故に向こう側の情報も滅多に来ることが無く、相手方の歴史や文化は何も理解されていなかった。当のダニエルでさえ、対岸の街の名前がアルヒタウンだということすら知らなかった。

 そうなった原因を両者の間に跨る河によって交流が遮られていたからだとする学者もいたが、詳しいことはわからなかった。

 そんな状況だから、今のゾフィーのように血生臭い伝説を対岸の人間に話して震え上がらせ、それを見て喜ぶ者もいるのだろう。純粋な悪戯心だ。ダニエルはそんな彼女を怒る気にはならなかった。

「いえ、お気になさらず。実を言うと、僕はここに来る前に一度その話を聞いてるんですよ」

「まあ、そうだったんですか?一体どちらで?」

「フェリーの上で、船頭から聞きました」

 ゾフィーがあっ、という顔を見せる。それを見て面白がっている自分がいる。だからダニエルは彼女を怒れなかった。

「確かその船頭から聞いた話は、こんな感じでしたね」

 視線を上にあげながら、ダニエルがつい数十分前のことを思い出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ