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第五章 継続

第五章 継続

十月八日金曜日、夜の十時五十分。

 音花勇作と滝川昇は車で都内某所を走っていた。 

「どうだった?一Cの名探偵は?」 

 勇作は後部座席、運転席に向かって左の窓枠に肘を掛けながら滝川に問いかけた。

「いやぁ推理力はさすが直人さん譲りですね!女の子達や先生、守衛の竹田さんにあれこれ質問してましたよ!中にはよくわからん内容のもありましたが、彼は恐らく真相にかなり近づいてるんじゃないですかね!?」

 滝川はハンドルを握りながら興奮したように答える。

「そうか…。」

 勇作はニヤリ顔で答えた。

「いやぁ、僕も刑事ドラマに憧れてた身ですからね、あんなに純粋に推理している高校生を見ちゃうと、つい学生時代の自分を見てるようでしたよ。しかし、実際に刑事になってみたら九割は事務処理ですよ?聞き込みとか現場検証とかでたまに外に出れるくらいで、あとは一日缶詰めになってパソコンに向かってますよ!?今日だって朝九時に綾瀬署に戻ってそこからこんな夜遅くまで…。」

 滝川のマシンガントークが始まると、勇作はすぐ外を見てやり過ごす。滝川はスイッチが入るとこちらの相槌を待たず、一方的に喋るからだ。こういう時はとことん満足するまで喋らせるのが良いと、勇作は知っているからだ。

「ああすみません、ついつい喋りすぎてしまいました!それよりも娘さんは元気ですか!?最後に見たのは小学校一年生でしたっけ!?もうかなりの美人になってますでしょ!?」

 滝川はバックミラーで勇作の顔色を伺った。

「そうだなぁ。親バカになるが、かなりの美人になっているんじゃないかなぁ。変な男に言い寄られてないかだけが心配だあ。それに好奇心旺盛だから何にでも首を突っ込む…。」

「まあ、ユリちゃんは空手強いですし、いざとなれば…あの人…がいますからね。クラスの人たちは何も知らなさそうでしたが…。」

 数分間、都内の夜景を見ながら二人は沈黙した。すぐに勇作が口を開き「捜査の方は?犯人は捕まえられそうか…?」と呟く。最高責任者からの圧に、滝川は一瞬言葉を詰まらせながら答える。

「特殊な形状のナイフが使われた事が判明し、付近のホームセンターや一〇〇円均一では扱ってない事が分かっています。それと足立区内を走っている運送会社を調べても…そのような形状のナイフが運ばれた形跡は無かったです…。現在は捜査の幅を徐々に広げていますが…。」

「それは…厳しい状況だなぁ。」

「はい…この世に存在しない刃物が突然現れ、突然消えたような…。」

「そんな二つとこの世に無さそうな刃物が使われたと聞いて、こりゃあ事件解決も近いなと思っていたが…。」

 また数分沈黙し、エンジン音が虚しく響く。

「目撃証言も無かったか?」

「留守宅が多かったので全てはまだ聞き込みが出来てませんが、今の所有力なのは…一つも…。」

 滝川の声はどんどんと小さくなる。

「ふむ…。」

 二人はしゃべる事無く都内を走り続け数十分後、ある高層マンション前の道路に路駐し、滝川は車から勇作を下ろす。

「ご苦労だったな滝川。捜査の方も引き続き頼むな。」

 ネクタイを緩めながらチラリと滝川を振り返る。

「任せてくださいよ!ぶっちゃけ、死ぬほど行き詰まってますが、何とかなりますよ!いや、何とかしてみせますよ!」

 滝川は右手の拳を運転席から高らかに上げた。

「昔からお前のそういう所が気に入っている。ではまた。」

 勇作はマンションの中に消えてゆき、滝川はその場の車内でタバコを吸う。

「二人が出会ってもう十一年かぁ。」

 滝川は高層マンションを見上げながら呟く。

        

         *


 十月八日金曜日、夜の十一時。荒川は赤和桜公園すぐ横の道路で土下座の格好をしていた。

「二日前の水曜日…夕方三時前に俺とみっちゃんと坂本さんはあそこのブランコにいた。…んで目の前のここに問題の砂場があるから…あるとしたらこの近辺に…。」

 荒川は顔くらい大きな懐中電灯を地面に起き、アスファルトを照らしている。懐に入らないから、もはや懐中電灯ですらない。

「うーん。なるほどなぁ。」

 荒川は虫眼鏡で地面を念入りに調べている。

「お巡りさんあいつです!不審者です!」

 突然背後から女性の声が鳴り響く。荒川は咄嗟に顔を上げ後ろを振り向く。すると一人の謎の女性がニタニタ笑いながら荒川を見つめる。

「なんだよお前かよ…。捜査の邪魔したいなら帰れよ…。」

 荒川は再び虫眼鏡で地面を見る。

「間食とかしないくせにコンビニ行くとか言うから後を付けてみたら案の定だね?何それ土下座してんの!?えっへっへっへ!」

 特徴的な笑い方の謎の女性は荒川の顔の横に立つ。

「何見てんの?」

「タイヤ痕だ。犯人が車を使ったのなら残ってるはずだ。タイヤ痕は一日二日で消えるもんじゃないからな。仮に犯人が車を使ったのなら、逃げる際は相当アクセルを踏んだに違いない…。」

「で?タイヤ痕はあったの?」

「うーん、このタイヤのデカさ的に宮司先生のハイラックスだろうな。」

「じゃあ先生が犯人?」

 謎の女性は驚いた表情で荒川を見る。

「いやいや、あの時は俺らが近くにいたし、宮司先生と俺等は会話している。さすがに顔馴染みのすぐ横で殺人はしないだろ。」

「ふーん、じゃあ皆が解散した時にふらーっと戻ってきて殺したんじゃない?」

「だったらタイヤ痕が二重についているはずだ。見た所、一回通っただけ。しかもこの公園を囲む道路は反時計回りに一方通行だからな。また戻ってくるんだったらまた俺らと鉢合わせするリスクがある。まあ律儀に道交法を守ってればの話だが…。」

 口調は早口で荒々しいが、ゆっくりと舐め回すように荒川は地面を丁寧に見てゆく。

「へー。てか、そんなタイヤ痕なんて付くもんなの?」

 謎の女性は口を尖らせながら地面の小石を蹴る。

「警察二十四時とかでもあるだろ?ひき逃げの事件で現場の地面のタイヤ痕を念入りに見るやつ。ひき逃げとかして逃げる犯人ってのは逃げたい一心でアクセルを思いっきり踏むんだ。するとタイヤ痕が地面に残る。だけどここには目立ったタイヤ痕が一筋しかない。宮司先生は普段から急加速急発進、急ブレーキする人だから、それで着いたんだろう。」

「んじゃあ犯人は普段から丁寧に車を運転する人で、女の子を殺した後もゆっくり発進したんだよ!?」

 謎の女性はわざとらしく掌に拳を乗せ、ひらめいたとアピールをする。

「うーん。まあ考え出せばきりが無いな…。」

 荒川は顔を上げ、ひざまづいた姿で数秒ぼーっとしていた。

「朝早くに学校に呼び出されてたけど、もう犯人の目星はついたの?」

「目星は付いてる。宮司先生、坂本さん、みっちゃん、守衛の竹田さん…。この中に犯人はいる。」

「えーやば…。誰が犯人でも驚くね!」

 謎の女性は荒川の靴の裏を軽く蹴り始めた。

「本当はもっと核心に迫ってるけど、どうせそこまで教えてくれないんでしょ?口を開けばエラリー・クイーンは~だもんね!」

 謎の女性はケラケラ笑う。

「いやいや、本当に今回は難しい。何より凶器がまだ見つかってないし、そもそも凶器がこの世にあるのかと疑うくらいなんだ。」

「そんな変な凶器なの?」

「ああ…特殊な凶器なのにその足が全然付かない…。正直泣きそうだよ。」

「警察に任せておけば良いのに…。」

 謎の女性がそうぼやくと、荒川の顔つきが険しくなる。彼は立ち上がり背中越しに謎の女性に語り掛ける。

「殺された女の子の両親はな…来るはずの未来を奪われたんだ…。我が子が小学校を卒業して、どんどん進学して、就職して…お嫁に行って孫産んで…そしてその子供や孫たちに看取られながらこの世を去る…そんな来るはずだった未来をね…。それを気が狂った殺人鬼に奪われ…なおかつそんな奴がまだこの近辺に潜んでいるなんて…。」

 荒川の強く握りしめた掌に爪が食い込み、血が滲んでいる。最初は茶化してニヤついていた謎の女性も、徐々に真顔になる。

「結婚すらしていない俺には想像も出来ない…くやしいとか泣きたいとか…そんな言葉じゃ表現できない感情で…今も遺族は苦しんでるんだ…犯人は絶対に俺が自分の手で見つける…。動かぬ証拠を突き付けて牢屋にぶち込んで…自分の罪の重さを嫌と言うほどわからせて…。」

 謎の女性は突然、溜め息混じりに微笑むと荒川を後ろから優しく抱きしめた。

「おい…恥ずかしいんだが…。」

「えっへっへっへ!誰も別に見てないよ!そういう所、ほんと昔から変わってないね!?」

 恥ずかしいから離れて欲しい人間と絶対に離れない人間の攻防は数分続いた。

        

            *


 十月九日、土曜日の朝七時。荒川は落ち着かない様子で家のキッチンに立っている。鮮やかな手つきでチャーハンを転がしながら一連の通り魔殺人について考えていた。しかし、彼が落ち着かな理由はもう一つ…坂本麻耶と松坂道子からお誘いを頂いたからだ。行くのは東京江戸川区に最近オープンしたばかりの水族館。荒川は趣味で釣りをするので、魚にはある程度の知識や興味がある。

「女の子二人と水族館……。」

「私の分だけじゃなくて自分のも作ればいいのにー。」

「…いやぁ、たまには手料理じゃなくてカップ麺とかが食いたくなってね?」

 荒川が料理をする背後に、謎の女性がのっそりと近づいてきた。

「ふーん。可愛い女子二人の為にお弁当でも作ってあげたら?」

 謎の女性は少し不満そうに嫌味を言ってきた。

「…まあそう怒るなよ。もしかしたら事件の捜査に役立つかもしれんし。断る理由も浮かばなかったんだから。」

「あたしが女子二人の弁当でも作ろうか!?」

 謎の女性はさらに不気味に微笑む。

「それはもっと辞めてくれ。お前の料理はもっと修行が必要だ。」

「うわぁ何それうざぁ。もういいもん!水槽からサメが出てきて食われれば良いじゃん!」

 謎の女性は寝床のふすまをピシャリと閉めた。荒川は振り返らないままチャーハンをさらに炒める。

「あーあー…。そう怒るなよなぁ。」

 荒川は独り言を呟きながらも振り返らない。どうやらいつものことなのだろう。すると荒川の後ろから急に謎の女性が抱きついてきた。

「…騙したな…。」

「えっへっへっへ。寝床に行ったと思ったでしょー?推理が足りませんなぁ。」

 その後も謎の女性は荒川から離れない。

「…熱々のチャーハン飛び散るぞ…?何をしている?」

「んー変な女避けの為にあたしのニオイ付けてんのー。」

「お前なぁ…。」

        

           *


「うう…うあああ…ああああ………。」

 野反五駅にある女子トイレの個室。腹や胸が原型を留めずぐちゃぐちゃになった女児が便器に座らせられ、鮮血と糞尿が地面に落ちている。女児は痛みと恐怖の臨界点を超え、顔は涙と鼻水でびちゃびちゃに濡れている。ただ呻く(うめく)ことしか出来なくなった女児を見ると、満足そうに謎の人物は立ち去る。鍵爪のようなナイフからは、女児の血が滴っている。

         

           *


 十月九日、朝九時五十五分。荒川は野反五駅前に着いた。大き過ぎず、小さ過ぎない駅である。

「ちょっと肌寒いから朝飯がてらカップ麺でも食うか…。坂本さんたちは…まだ来てないか…。」

 荒川は改札前にある売店でカップラーメンを買い、お湯を注いだ。硬麺が好きな彼は一分と立たない内にカップラーメンをほうばり始めた。

「あ、いたいた。荒川君。もう来とったんやなあ!?」

「あれ、何それカップ麺?」

 二人の女性が改札の中のトイレの前で荒川に手を振る。みっちゃんと、坂本麻耶である。みっちゃんは頭の上の巨大な髪団子を揺らし、坂本はポニーテールを束ねているひときわ大きなシュシュを左手で押さえながらカップ麺をすする荒川を見つめる。

「やべ…。」

 荒川は口に運ぶ麺を一旦止めて二人に会釈した。

 荒川は慌てて片手で財布を取り出し、タッチ決済で改札を通る。二人の女子の前に行ってから財布をしまい、途中のカップ麺に再び手を掛ける。

「え?朝からカップラーメン?しかも立ち食いとか行儀悪かよ?」

「ああごめんごめん、すぐ食べ終わるから!」

 荒川は急いでカップ麺をかっ食らう。坂本は湯気で隠れる荒川の顔を怪訝(けげん)そうに見つめる。

(しまった…行儀悪いところを見せちゃったなあ…。)

 荒川は坂本の顔つきに少し申し訳ない気持ちになった。

「ゲホッ。そうだちょっと待ってて!」

 荒川は急いでカップ麺を食べ終わりビニール袋に入れると、駅員に事情を話し、改札を出て売店に走っていった。

「荒川君、すごか勢いでカップ麺食べよったね!あれじゃ火傷するよね?」

「ねー、まあでも十月になって朝少し肌寒かったからねー」

 みっちゃんはクスクスと笑った。カップ麺を早食いしてる荒川の姿が可笑しかったのだろう。

「ごめん、ごめん。二人共寒かったでしょう!?缶コーヒー買ってきたよ!」

荒川は慌てながら二つの缶コーヒーを持って走ってきた。

「そげん気ば遣わんで良かとにー。ありがとう!」

「アハハハ。めちゃくちゃ紳士なんだね荒川君!」

 二人が缶コーヒーを受け取ろうとした時、坂本はそれを落としてしまった。

「ああ、ごめん。渡し方が悪かったね!?」

「う…うん。思いの他熱かったから。」

「そうと?こっちん缶コーヒーは丁度良か温度ばいー?熱かとが苦手ならうちんと交換する?」

「ああごめん、大丈夫だよー!」

 みっちゃんが差し出した缶コーヒーを手で制しながら、坂本は足下に転がる自分の分を右手で拾う。同時に左手で髪を止めているシュシュを抑える。荒川は二人のやりとりをじーっと見つめていた。

「あれ?どげんしたん荒川君?ましゃかうち達の私服に惚れてしもうた?」

「わかりやすい顔だねー」

 荒川は…みっちゃんもそうだが、特に坂本の私服に見とれてしまった。茶色いワンピースにグレーのジャケット。日本人離れした堀の深い顔立ちもあいまって、十六歳とは思えない気品を放っている。また、荒川は坂本の胸元に目が行った。

「あー荒川君、坂本しゃんの胸ばっか見よー。男子ってほんなこつ正直やなあー。」

 みっちゃんは荒川の顔を指さしながら大声でゲラゲラ笑う。坂本は恥ずかしいのか、笑いながら顔を赤らめている。

「いやぁ、ついつい目がいっちゃって…。」

 荒川は顔を赤らめ頬をかいた。

「それで?うちには言うことは無かと?」

 みっちゃんは大げさに自分の私服をアピールした。白いロングTシャツに黒いジョガーパンツ。黒いカーディガンでいかにも動きやすそうな格好だ。しかし、みっちゃんもなかなかの美人なので、正直何を着ても似合う、と荒川は思った。

「うーん、めちゃくちゃ動きやすそうだね!」

「それ褒めてるんかぁ!?」

 みっちゃんはぎゃあぎゃあと荒川に抗議した。荒川と坂本はまたも笑った。

「水族館なんてうち初めて行くけん楽しみ!ペンギンとかシャチが見たか!坂本しゃん、誘うてくれてありがとう!」

「殺人事件なんかに巻き込まれちゃったからねぇ!息抜きしないと!」

 二人の女性ははしゃぎながら二階のホームに続くエスカレーターへ歩き出す。荒川は、前を歩く二人の手元をじっと見ながらついていく。

「何も起きなきゃ良いけど…。」

 荒川は二人に気づかれないように呟く。一行がエスカレータを登りきった頃、同駅の女子トイレでは金切り声が轟く。女性が腰を抜かし視線を向けるトイレの個室には、腹をズタズタに刺され、ふたをした便器の上に座らされている女児がいた。一階のフロアの人々が金切り声に反応し、続々と女子トイレに入っていく。その姿に目もくれず、一人の老人は、荒川たちが登っていったエスカレーターに乗る。

        

        * 


 十月九日、朝の十時四十分。

「ああ、はいそうです。野反五駅です。もうちょっとで着きますんで!」

 綾瀬警察署の滝川昇警部はクラウンの助手席にいた。せわしなく携帯電話で話しながら現場に急行している。

「河北高校の事件の報告書をやっと作り終えたかと思ったらまた殺し…。僕らもうすぐ死ぬんじゃないですか?」

 ハンドルを握る若き刑事、大和介之助(やまとかいのすけ)巡査部長は疲労を通り越し、笑ってしまっていた。

「笑い事じゃないが、笑ってなきゃやってられないな。十月六日水曜の夕方三時、赤和桜公園の砂場で女児が…。七日の朝七時半頃、野反五公園の茂みの中でまたしても女児…。同日昼十二時に河北高校の保健室教諭がトイレで、そして九日、朝十時に野反五駅内トイレで女児が…。」

 滝川はメモをめぐりながらため息混じりに話した。

「傷口が一致したら同じ犯人って事になりますよね?だとしたらこれで四人目…。許せないですね…。」

 狭い商店街を車で走り、通行人にひやひやしながら大和は話しかける。

「ああ、普通に考えればな。しかし、こうも同じ地区で立て続けに殺人が起きるのはどう考えても普通じゃない。やはり…。」

「一応、彼にも連絡しときますか?」

「それはまず死体と現場を見てからだな。」

「わかりました!」

 時折、滝川に前をちゃんと見ろと注意されながら、大和巡査長は満面の笑顔で滝川に言葉を返す。

「ああ、それと滝川警部、実は面白い事実が判明しまして…。」

「面白い事実…?」

「はい、実は聞き込みで判明したことなんですが、十月六日水曜日の夕方三時頃…最初に女児が殺された赤和桜公園付近と、次の日の十月七日の朝七時半頃に女児が殺された野反五公園付近で、竹田梅が目撃されてるそうなんですよ!?」

「何!?」

 あまりの滝川の声の大きさに大和はハンドルを取られそうになる。

「もー警部!デカいのはそのガタイだけにしてくださいよー!?」

「ふざけてる場合か!なぜすぐ報告しなかった!?」

「しようと思ってた時にこの緊急無線が入ったからしょうがないじゃないですか。どうせ移動してる時間あるしー。」

 大和はヘラヘラ笑いながら滝川に話かける。優秀だが、若さ特有の常識の無さに滝川はたまにイラッとするようだ。

「二件とも、血相変えて自転車で走り去る姿を見られてたらしいですよ?」

「血相変えて…。」

 滝川は助手席で腕組みをしながら眉間にシワを寄せた。

「それだけでは何とも言えんな。目撃証言は参考になるが決定的とは言えない。」

「まあでも、奴を徹底的にマークするに越したことはないんじゃないですか?」

「そうだな…。取り敢えずは目の前の事件だ…。」

 覆面とパトカーの軍団は野反五駅前の路上に駐車した。

「はいはいどいたどいた!綾瀬警察署だ!」

 野反五駅はさほど大きくない駅である。滝川や大和や他数人の刑事、鑑識が野次馬をかき分け、先に入っていた制服警官が引いた規制線の中のトイレに入る。トイレは比較的広く清潔感があった。入って左手前に手洗い場があり、その奥に個室が三つ、向かい合うように右側に個室が五つある。洗面所の所に嗚咽を我慢しながら一人の女性が立っていた。彼女の周りには数人の制服警官がおり、滝川の姿を見るとすぐに敬礼をした。滝川は適当に挨拶を返し、すかさず女性に話しかける。

「あなたが第一発見者ですね?綾瀬警察署の滝川と申します。名前と職業と、ここの駅を訪れた理由のあとに発見した時の状況をお聞かせ願いますか?」

「な、中丸美保です。大学生です。坂井臨海水族館の中の飲食店にアルバイトで向かうためにこの駅をり、利用しました。と、トイレに入ると左側の一番手前から二番目の個室が閉まってて…床になんだか赤い液体が染み出てたので…何か嫌な気がして念のために隣の…左の一番手前の個室に入って便器の上にのぼって中を覗いたんです…そしたら…女の子が血だらけで…うう…。」

 女性は泣きながら吐き気を我慢し、右手でハンカチを口に当てた。

「辛いですが、もうしばらくの辛抱です。死体の身元は?」

 滝川が初動捜査をした制服警官に尋ねる。

「女児が持っていた手帳や駅員の証言によると、殺されたのは鈴原サキちゃん、七歳。この近くに住んでおり、十時半からのスイミングスクールに行く途中トイレを利用。その際に刺されたと思われます。鈴原サキちゃんは元気で挨拶を欠かさず、駅員は全員この子を覚えていたそうです。」

 大和はそれを聞きながらまたメモをする。

「こんな物騒な事件が立て続けに起きているるというのに、女児一人を出歩かせるのか?正気の沙汰じゃないな・・・・・。」

 滝川警部はため息を漏らした。

「個室で血だらけ…まったく状況は一緒ですね…。」

「まだ決めつけるには早い…。両親に連絡はついたか。」

 眉をひそめながら滝川はまた制服警官に尋ねる。

「はい、二人共同じチェーン飲食店で勤務しており、母親だけ連絡がついてこちらに向かっております。」

「共働きか…。世の夫婦とはそんなもんなのか。」

 独身の滝川には共働き夫婦の価値観は理解出来なかった。滝川はようやく個室の中を覗き死体に目をやった。女児の死体はふたをした便器の上に座らせられ、白い便器と床は鮮血でぐっしょり濡れていた。

「腹や胸をナイフでメッタ刺し…。凶器はやっぱり見つからんか?」

「はい、ありませんでした。女子トイレ内や男子トイレ内、駅内のごみ箱も一通り探しましたが…。」

 制服警官は申し訳なさそうに答えた。

「発見したのは何時頃でしたか?」

 滝川は発見者の中丸に向かって質問した。

「十時丁度です…。十時五分の電車に乗るために時間を気にしながらトイレに入ったので間違いないです…。」

 女性は必死に答えた。

「死亡推定時刻は?」

「およそ十時前後ですね。」

 鑑識官は黒縁メガネをクイっと上げながら答える。

「では、発見される直前か…。くそ! 電車を使われたのなら犯人はもうとっくに遠くに逃げてるか!」

 滝川警部は時計を見ながらイラついた。

「少し気になる点がありますね。」

「ほう、どの点だね。」

 鑑識官は座らせられた女児と中丸を交互に見ながら、滝川にそばまで来るようにジェスチャーした。察した滝川は鑑識官の口元に耳をやると、鑑識官は手を当て小声で話した。

「傷口から推測するに、やはり曲がった特殊な形状のナイフが使われています。一連の殺人と同じ…。」

「そうか…やはりな…。」

 滝川が鑑識官から離れ、中丸に体を向ける。中丸はようやく落ち着いてきたのか、おえつは止んだようだ。

「女児の叫び声のような物は聞きましたか?」

「いいえ、全く。」

「なるほど…。」

 腕を組みながら考える滝川に中丸が申し訳なさそうに口を開く。

「あの、落ち着いてきたらトイレに行きたくなってきたので、用を足してきてもよろしいですか?」

「ああすみません!念の為に婦人警察官に付き添ってもらいましょう!我々がいるこんな所で用を足してもらうのも難ですから、多目的トイレでお願いします!」

 中丸は婦人警官と一緒に女子トイレを出ていった。

「警部、もしかして中丸さん疑ってます!?」

 大和は滝川に耳打ちした。

「まあ第一発見者だから一応な。まあ彼女はシロだろ。あの泣き叫びようは演技には見えんし。まあ身体検査と指紋の検査もしておこう。大和、お前は駅長室に行ってトイレに出入りする人間で怪しい奴がいなかったかカメラで確認してこい。おいお前、野次馬の中に他に目撃者がいなかったか聞いてこい。鑑識さん、中丸さんが用を足して戻ってきたらさっき言った検査お願いできますか?」

「「「わかりました。」」」三人は同時に返事をし、大和ともう一人の刑事は走って散った。

「犯人は今、どこにいるだろうか。」

 滝川は弱気に独り言を吐いた。殺人事件が起きたことで、電車は運転見合わせ。改札の前では門前払いされ、わあわあと喚く人々で溢れかえっている。

        

         *


「うわーまるで海ん世界におるみたいー

「こら!走るな高校生だろ!」

「みっちゃんも坂本さんも離れすぎないでねぇ。」

 十月九日土曜日の朝十一時。荒川一行は水族館を楽しんでいた。東京都江戸川区にある坂井臨海水族館。イルカショーなどの派手なショーは無いが、まるで海の中にいるような大迫力の巨大な水槽や、実際の生態に近い状態で飼育されているペンギンなどが魅力である。

 荒川一行は三六〇度の水槽に釘付けになり、まさに海の中にいる気分を味わっていた。みっちゃんは周りの子供達に負けないくらいはしゃぎ散らし、坂本がそれを何回もたしなめている。

「うん、釣れた魚しか見たことないけど、泳いでいる魚を見るのも良いなぁ。」

「あれぇ、荒川君魚釣りするの!?」

 最前列のちびっ子たちの数メートル後ろで坂本はぴったり荒川のそばに寄って話しかけてきた。クリクリとした大きな瞳が下から覗き込む姿に荒川はたじろぐ。

「え!?あぁまあ川でシーバスとかチヌとか釣るね!夏は暑いし冬は寒いし、糸は絡まるし、結構大変だけどね!」

「ええ!そんなに自分の趣味を卑下しなくて良いのに。」

 荒川は完全に上がってしまっていた。こんな超絶美少女に下から至近距離で話されたらとてもじゃないが理性を保てない。さっきから胸もちょくちょく当たっている。

 すると小学生の群れを跳ね除け、戻ってきたみっちゃんが坂本の腕を強く掴み水槽を指さした。

「何あれ坂本しゃん見て見て、あん魚なにあん頭ん形?トンカチんごたーばい?あれじゃ隣ん奴にすぐぶつかってしまうばい!?」

「あっ、もーこら!」 

 みっちゃんは坂本を引き連れ、また小学生を跳ね除け最前列に向かった。どうやらアカシュモクザメの頭の形が珍しいようだ。別名ハンマーヘッドシャーク。その名のように頭がハンマーの形をしているためその名が着いた。シュモクとは鐘などを鳴らすT字の木の棒である…と一人残された荒川は水槽に掲げられた文章を頭の中で読みながらため息を着いた。

「もうちょっとで坂本さんの…くそ。」

        

           * 


 場面は河北高校。十月七日木曜に保健教諭が殺害されてから初の部活動解禁の為、ここ体育館はいつも以上の熱気に包まれていた。河北高校は偏差値こそ平均的だが、スポーツは強豪である。中でもバスケットボール部、バレーボール部、テニス部は男女とも全国大会優勝の常連である。

 十月九日土曜日の昼前。河北高校女子バスケットボール部と女子バレーボール部は今日も体育館を半々に分け活動していた。

 ある一人の少女が豪快なダンクシュートを決め、守りに入った少女三人がぶっ飛ばされた。茶色の短髪でスラリとした体格の美少女、音花ユリである。

「ごめん、力入り過ぎちゃった!立てる!?」

「ああそんな!わざわざすみません!」

 音花は一人一人に手を貸す。華奢な体に似合わず怪力である。

「やっば女子なのにダンク!?まじ音花さんかっこいい!」

「何でバスケ部のマネージャーで選手登録してないのかなぁ?」

 練習をしているバスケ部女子が二人してひそひそ話をする。

「やはり彼女を説得出来なかったか…。」

「はい、申し訳ありません。中学で燃え尽きたの一点張りで…。」

 体育館の隅で話しているのはバスケ部監督の金田慶次。傍らで申し訳なさそうにするのは女子バスケ部三年主将の緑川敦子である。緑川は、黒縁メガネをくいと上げ、金田に語りかける。

「足立区立第三中学で三年間、全ての全国大会に出場し、全て優勝。得点率は全チーム最多。ポイントガードからシューティングガード、センターなどほぼ全てのポジションもこなす。パス、ドリブル、シュート、全てが最高水準。おまけに身長一七〇にしてダンクシュートも決められる驚異の身体能力を持つ…つまり怪物ですね。」     

 緑川はスラスラと答える。

「そうか。それだけのポテンシャルを持ちながら高校ではあくまでマネージャーで通すと。」

「はい、何とか練習にだけ参加してくれる事で話はついたんですが…。」

「公式の試合には出ず、選手登録もしてくれないと。」

「はい…。」

 金田は自慢のオールバックの髪をさらにかき上げる仕草をしながらため息を漏らす。

「彼女が出場してくれればもっと楽に優勝出来ること間違い無しなんだがなぁ。わざわざ練習を見に他校生が来るくらいだから。」

 体育館の二階の手すりには他校生何人かが物珍し顔で眺めている。音花が神プレーをするたびに称賛の声を漏らす。

「良いんですか!?あんなにまじまじと観察させてしまって!?」

「構わんよ。観に来ているのは同じ地区のたいして相手にならない学校の生徒だ。我が部は正々堂々と正面から敵を叩き潰す。分析をされた所で痛くも痒くも無い。それに君も含め、音花以外にも天才と呼ばれている選手はこの部にはたくさんいる。本当の王者とは、たかるハエは気にしないものだ。」

 緑川は一瞬ぞくっとした。金田監督は細く鋭い目で腕組みをしながら淡々と語る。この人は物静かだが、時折強い口調になる。それほど彼は全国の有望な選手を集め、最強の部を作ったという自信があるようだ。

「よーし、もういっちょやりますか!」

「「「おう!」」」  

 仮にもまだ一年の音花の檄に、上級生も同級生も関係なく答える。それぞれが全国から集められた強者でプライドも高いが、この半年ほどで音花の実力を嫌というほど味合わされた彼女らは自然と従う。これも彼女の才能なのだ。

「まあとりあえず、練習に参加してくれているだけでも感謝しなきゃな。夏の全国大会も男女とも優勝できたし。」

「そうですね。」

 河北高校女子バスケ部は夏の全国大会を優勝した。しかし、トーナメントを勝ち進むにつれ徐々に苦戦を強いられた。特に決勝で当たった北海道の札幌中央高校には両チーム逆転の応酬の末、何とか勝利を納めた。見ている側としては面白いが、当の選手たちにしてみれば、心身ともにあまり良くない。

「なんせ打倒音花に燃えていた藤崎アカネがいましたからね。音花が高校ではバスケをやらないって表明したことで記者の前でかなり怒っていたらしいですが。」

「ああ藤崎か。あの怒りのインタビュー映像は今でもネットの動画を見返すと笑ってしまうな。そんなに音花に恨みがあるのか…。」

 緑川はスマホを取り出しネットの記事を見始めた。

「中学時代、夏の全国大会一回戦で足立区立第三中学と札幌市立清平中学が対戦。そこで清平は第三に一一二対十五で大敗。藤崎と音花は当時三年生で、共に中学最後の大会だった。」

「なるほど。中学最後の大会にボロ負けしたのなら恨むのも当然か。」

 金田は目線を落とした。

「清平は数十年ぶりに全国大会に出場して学校を上げて応援していたみたいです。藤崎もその当時は全国にあまり名前は知られていませんでした。しかしマッチアップした音花に手も足も出ず大敗。チームメイトは散々にプライドを打ち砕かれ、高校ではバスケはやらないと皆が言う中、打倒音花を掲げ、この一年…血反吐を吐く思いで練習に明け暮れ、今や強豪校の一年エースに成り上がり、この河北高校を追い詰めるまでに成長した…。」

「やけに詳しいな。」

「ネットにいくらでも載ってますよ。努力の天才ってもてはやされてますから。」

「日本人は挫折だの努力だの大好きだからな。」

 スポーツ強豪の河北高校は体育館が広く、バレーボール部と半分使っても二つ試合が出来る程だ。音花の神プレーの連続に隣のコートで試合をしている女子や、はたまたバレー部の女子までもが、彼女が気になってしょうがない様子だ。

「ちょっと集中力が無くなってきてるな。緑川、報告ありがとう。練習に戻って良いぞ。」

「では失礼します。」

 緑川はコートに戻って檄を飛ばした。

「音花ユリ。しかし、とんでもない逸材がいたもんだなぁ。」

 金田はゆっくりと体育館の出口から出ていった。

        

            *


「いやぁ、さすがユリ目立ちまくりだね!?」

「あんたもでしょ。」

 昼休憩、体育館ではバレーボール部、バスケ部が関係無くそれぞれ集まり持参した弁当を食べている。音花は体育館全体を見渡せる舞台上でいつもご飯を食べる。バレーボール部が練習していたコートから、クラスメイトの菅澤ゆずが音花の横にやってきて、座り込んだ。

「しかし、高校で試合出ないとかまじもったいないじゃん!」

 音花は菅澤の話を聞き流しながら弁当のチャーハンをほうばった。

「だいたいあんたも一年でもうレギュラーじゃん。この強豪バレー部で。」

「んまあ私も生まれ持ったものが違うから。」

「言うねぇ。」

 菅澤はスポドリを飲み干しながら弁当を開ける。彼女は容姿端麗な顔立ちにして一八〇センチの長身、かつ一〇〇メートル走十二秒の俊足。中学時代は陸上部であったが、高校では心機一転し、バレーボール部に入った。真価は直ぐに発揮された。夏の全国大会ではレギュラーに抜擢され、準優勝を勝ち取る大活躍を見せた。美貌も相まってか、部活内では彼女を神格化する者も少なくない。

「うわ、すぐそこの野反五駅でまた女児の死体が発見されたらしいよ。何この足立区?世紀末じゃん!」

 菅澤はスマホと箸を持ちながら驚愕した。

「まじ?山岸先生殺した人と一緒なんかなあ?」

 音花は口にパンパンに詰めたチャーハンを吐き出しそうになった。

「だとしたら校内の生徒か教師が通り魔しながら山岸先生も殺したんかなぁ!?」

 咳払いをする音花をよそに菅澤は話を続ける。

「んまあ誰であれそんな奴すぐ捕まるでしょ!」

 音花は緑茶で食べ物を流し込みながら強気に言った。

「ほーさすがに警察署長の娘は違うねぇ。まあうちのクラスにも名探偵がいるけど。でもいくら頭が良くて学校内の珍事件を解決してきたって言っても、ガチの殺人事件はさすがに無理っしょ!」

 菅澤が笑うと、また音花は咳払いをしながら何かを言いかけたが、舞台の下から話しかけてきた二人組の女子に話を遮られた。

「あたしたちと一緒にご飯食べませんか!?」

 菅澤と音花は反射的に舞台の下を見た。

「あ、急にすみません!びっくりしました!!?」

 二人の少女が顔を覗き込んでくる。一人は短髪メガネの見た目が文化部系の女子。もう一人はポニーテールの女子だ。

「ああ芳賀(はが)ちゃんか。お隣はバレー部の?」

「大北ちゃんね。」

 音花と菅澤が順番に答える。話しかけてきた少女はそれそれバスケ部とバレー部の同級生である。バスケ部だが文化部系の見た目の女子が一年A組の芳賀優乃(はがゆの)。ポニーテールの女子は同じく一年A組の大北香苗(かなえ)。二人は音花たちの了承を得る前に舞台に上がり横に座り始めた。

「このメンツでいつかご飯食べてみたかったんです!バレー部と体育館一緒になったから今しかないと思いまして!」

「噂の音花さんとも喋ってみたいとおもいまして!」

 芳賀と大北が順番に答える。

「あたしが噂?」

「そう!めちゃくちゃバスケ強くてめちゃくちゃ美人で!オマケに喧嘩も強いらしいですね!」

 大北は興奮を隠せない。同級生にも関わらず、芳賀も大北も敬語で話す。音花と菅澤に対して尊敬の意がありありと伝わってくる。

「ああユリは空手の小学生チャンピオンだからね~。」

「おい菅澤」

 音花は菅澤の肩を殴る。芳賀と大北は弁当を食べながら目を輝かせている。

 音花は警察官の父の影響もあって五歳から空手を習い始めた。小学校六年で全国大会を制覇していた。しかし、喧嘩っぱやい性格が災いし、同級生や道端の不良を何人も病院送りにしたことで空手を辞めた。当時から警察の強い立場にいた父のお陰で何とか表沙汰にはなってないが、それが彼女の英雄伝説でもあり、黒い噂の原因でもある。

「でもそこから中学でバスケ始めてすぐ全国優勝しちゃうんだもん。もはや神ですね!」

「よ、良くご存知で…。」

 芳賀の眼力に音花はたじろぐ。今度は大北が口を開く。

「でも高校ではバスケ部にいるけど大会には出てないんですよね?強すぎて出場禁止になったんですか!?」

「ああいやぁそういうわけじゃなくて…。」

 星の数ほどされてきた質問に音花は正直嫌気がさした。しかし、クラスでは評判最悪の彼女も部活内では嫌われたくないのか、笑顔をとり作る。

「友達のあたしにも歯切れ悪い言い訳しかしないからねぇ。まあ何か本人の中でもう緊張の糸が切れたんじゃない!?色んな人から同じ質問されてるからそのへんは察してあげて。」

「ああそんなんですかすみません…。」

 菅澤のフォローに大北は申し訳無さそうにした。正直ありがたいと思った音花だが、わざわざバスケ部にまで来て一緒にご昼食を食べに来た彼女に申し訳ないと思ったのか、彼女はおもむろに口を開いた。

「気になっている人がいてね…。」

 芳賀と大北は食べ物を入れた口と目を丸くした。菅澤も驚きの表情を見せる。

「気になっている人が料理とかの家事がものすごく出来る人らしくて…。そのへん私はからっきしだから…。」

「つ、つまり恋愛に集中したいってことですか?」

 芳賀が食べた物を吐き出す勢いで喋る。

「まあそんな感じ…。」

 音花は下を向きながら残りのチャーハンを少しずつ口に運ぶ。

「やっぱり音花さんはスポーツにも恋にも努力を惜しまないんですね!料理上手な好きな人に振り向いて欲しくて自分も料理頑張るとか!てか顔面偏差値最難関の音花さんですら落とせない男子がいるんですか?」

 大北はまじまじと美人すぎる音花の顔を見る。

「うーん。そうだねぇ。」

「やばぁ!」

 きゃあきゃあ会話が弾むうちに昼休みは終わりに近づき、緑川部長の号令が響く。

「じゃあまた色々話しましょうね!?午後の練習もよろしくお願いします!」

「音花さんの話もっといつか聞かせてください!?」

 早々と弁当を片付け芳賀と大北は舞台から降りる。菅澤は弁当を片付けながらニヤニヤと音花に話しかける。

「そろそろその気になってる人、親友のあたしに言っても良いんじゃないー?」

「うっさいなあ!今は言えないんだよ!」

「怒んなって可愛いなぁ?」

 音花は弁当を早々と片付け菅澤から逃げた。逃げた先、舞台袖に置いてある自分のリュックに弁当箱を詰めながら音花は呟く。

「えっくん…。」

 次の瞬間、体育館の重い鉄扉が勢い良く開け放たれた。

「音花いますかぁぁ!?」

 バレー部とバスケ部全員の視線が鉄扉に集まる。そこにはバスケのユニフォームを着たポニーテール頭の美少女が立っていた。音花は嫌そうな目を彼女に向けまたも呟いた。

「藤崎アカネ…。」

第五章 継続 終わり


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