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第十二章 再起

第十二章 再起

 十月十日、日曜日。朝の十時半。東京都文京区千駄木にある日本医師大学病院の廊下。荒川は隅っこにあるベンチで電話をしていた。右腕は使えないので左手で電話し、その下のベンチに文庫本が置いてある。

「そうかみっちゃんが…ありがとう優樹。とりあえずみっちゃんは優樹の家からさっき帰ったんだね?色々すまない。じゃあまた。」

荒川は天井を見た。長い長い半年間の捜査に、命が危ぶまれた逮捕劇。荒川の緊張の糸はようやく切れた。

「みっちゃん…。悪いことしたな…騙すつもりはなかったけど…。」

「騙すのはまず味方からって言うだろ?」

 荒川はぎょっとして左を見た。燕尾服を着た紳士が廊下の真ん中に立っている。

「父さん。これからパーティーがあるわけでもないのに…。相変わらず外出する時はそれを着るんだな。」

「僕は英国紳士に憧れているからね。君の好きなエラリー・クイーンと違ってね。」

「昔から変わらずシャーロック・ホームズが好きなんだな。ホームズは燕尾服なんて着ないけど…それに父さんの書く小説は全然ホームズっぽく無いし…。」

「憧れと実際の小説の内容は別さ。」

 直人は綾人の左隣に座る。

「僕の差し入れた鬼面館の殺人って本、もう読んだのかい?」

 直人はベンチに置いてある文庫本に目を落とす。

「ああなんか病室だと集中しちゃってね。昨日一晩で読めたよ。田島って探偵役良いね。推理の仕方がエラリイそっくりだわ。」

「まあ推理の展開の仕方はエラリーにどうしても寄ってしまうね。」

「シャーロックホームズはどこ行ったのさ。」

「それはまた別さ。」

「また別か…。」

 二人は気まずそうに前の壁を見る。看護婦がちらちらとこちらを見てくる。

「ユミはもう栃木に帰ったよ。」

「そうか。まああいつも学校やら弓道やら忙しいし、犯人逮捕に居合わせたのも偶然だしな。てか困るよ父さん。ユミをちゃんと見ててくれないと。」

「いやあすまんすまん!冬美に任せていたんだが…気づいたら居なくなってしまってたらしくてね。ユリ君も同じ考えだったようだ。まあ良かったじゃないか結果オーライだ。」

「ユリが刺されていたら勇作さんにどう言い訳するんだよ。」

「まあ勇作も彼女の性格を知っているし。聞いただろ?拳銃の弾を避けたって話?最早、超人の域に達しているよ!ははははは!」

 直人は腹を抱えて笑う。看護婦が睨んできて慌てて謝るジェスチャーを二人でする。

「ああ勇作さんに恨みがある暴力団の奴らが帰り道のユリを後ろから撃った奴だろ?優樹と一緒に帰ってて…。」

「ああそれそれ!中学二年生の頃だったな。それで暴力団の奴が肋骨と大腿骨を折る重傷を負わされてな!まあ日本の裁判所や警察は女の子に甘いし、勇作の娘だからって無罪放免だったな!まあそんなんだから彼女の心配は無用だ。彼女の命は自衛隊のレンジャー隊員十数人掛かりでも取れないって!」

「たく…。」

 綾人は溜息をついた。直人は切られた右腕を見ようと体を浮かせる。

「ああこれ?」

「骨まで見えるほど深かったんだろう?水曜から学校行って大丈夫か?」

「別に骨が折れているわけじゃないし、体育を休めば平気だろ。家も学校から近いし。」

「そうか。あとそれと…坂本さんって美人で優しかったんだろう?」

「左隣の席で何かと助けてくれたね。ユリとも乱闘したし。ったくユリの奴、演技が楽しくなっていったのかどんどんいじめがエスカレートして…坂本さんに逮捕前から怪我されたら捜査どころじゃなかったよ。」

「いつから彼女が怪しいと思っていたんだい?」

 綾人は地面を見て数秒考え込む。

「四月からずっと体操着の下に長袖を着て…やたらと髪を留めてるシュシュを気にして…でも確信は持てなかった。彼女の家に密かに行って死体を見るまでは。死体を見つけても…彼女が犯人じゃない証拠を必死に探して…でも出てくるのは彼女に不利な証拠ばかりで…探偵失格だわ…。」

「そうだな。捜査に感情を入れてはいけない。」

 直人はすっと立ち上がる。綾人は少々むっとして直人を見上げるが、すぐに地面を見る。

「でも…君の被害者や遺族を思う気持ちが原動力となって犯人逮捕に繋がった。だからその感情を大切にして今後も頑張れ。というかお前は化学と現代文以外の勉強も頑張れ。」

「ふん…学年一位以外を知らない男はさすがだね。」

 綾人が言い終わる前に直人は去っていく。後ろ向きに手を振る彼をじっと綾人は見る。直人がいなくなって数分間、荒川はその場でぼーっと座っていた。

「はあ…俺は将来何になろうかな。」

「なんだあ?今から将来の事考えてるのかあ?まあ高校生はそういう時期かあ。」

 聞き覚えのある間延びした声に、荒川は再び左側を見る。アフロ気味の髪に黒縁眼鏡、飛び出す勢いの大きな目玉の宮司陽子だ。

「宮司先生…すみませんこの半年間、無理なお願いを聞いていただいて。」

「何をかしこまっちゃってえ、もう余命いくばくもない訳でもあるまいしぃ。」

 宮司は軽快なステップで荒川の横に座る。

「ほうら、お前の大好きなコーラだあ。別に問題無いだろぉ?ああすまんなその腕だと開けれないからちょっと待ってろぉ。」

 宮司は缶のコーラのふたを開け、荒川の左手に持たせた。

「すみません…。」

「しっかしぃ、まさか坂本が犯人だったとはなあ…あんな優しい子があ…それより心配なのは松坂だなあ。坂本とは一番の親友だったみたいだしよお。」

「はい…。」

 荒川はコーラを膝に乗せたまま地面を見る。

「なんだあ?不可能を取り除いていったものが真実なんだろ?君のお父さんの大好きなシャーロック・ホームズが言った言葉だあ。」

 荒川はコーラをグイっと飲む。

「それはあくまで小説の話です…。みっちゃん…坂本さんが連行された後、何十分も優樹…帆坂の太ももで泣き続けたみたいです。あんな強くて明るいみっちゃんが…。」

 さすがの宮司も一瞬暗い顔をして地面を見るが、すぐに荒川に向き直る。

「じゃあ何かあ?坂本を逮捕せず、このまま仲良し友達ごっこを続けるべきだったかあ?」

「そんなの良いわけ無いじゃないですか!!!!」

 荒川は立ち上がり宮司を見ながら怒鳴った。宮司は目を見開きながら驚き、すかさず看護婦が睨んできたのを二人してジェスチャーで謝る。

「すみません…取り乱しました。」

 ゆっくりと荒川は長椅子に座り直す。

「すまんなあ。私も言い方が悪かったあ。この半年間戦い続けたお前の気持ちをわかってなかったなあ。」

「いえ…坂本さんも親からの虐待のなれの果てであって…ある意味被害者です…。殺された竹田梅さんも…二度と愛する妻や孫に触れられない…。みっちゃんもやっと出来た親友と…もう語り合う事も出来ない…。」

 荒川は飲み終わったコーラの缶をぺしゃんこになるまで握り潰した。

「なんだあどうしたあ?何が言いたいんだあ?」

 荒川は言い淀んだ。言葉を手繰り寄せるように視線をキョロキョロさせるが、口が動かない。

「じゃああたしも推理してやるかあ。お前はおそらくう…このまま探偵を続けるべきかどうか迷ってるってことか…そりゃそうか。あくまでお前さんはいままでいたずらレベルの事件しか解決したことが無い。こんな憎悪や鮮血がうごめく凄惨な現場は初めてだもんなあ。せっかくあたしのリュックまで漁って捜査してくれたのになあ。」

「え…?」

 荒川は驚きながら宮司を見た。宮司はニヤニヤしながら荒川を見る。

「さすが推理小説をしこたま読まれてるだけの事はありますね。だったら今度は僕が推理しますか。宮司先生が十月七日木曜の朝…なぜギリギリに教室に来たのかを…。」

「ほう…?」

 宮司は受けてたとうと言わんばかりに左膝に肘を乗せて頬杖をついた。

「流産したお子さんの墓参りですよね?」

「……なぜそう思う?」

 今度は荒川がニヤつく。

「宮司先生が教室を出ていく際に落ちた花びら…あれは菊の花で墓に供える花で…しかも目の前を通られた際に線香の匂いがしました。おまけに肩や太ももが雨で濡れていた。学校に来る途中で急いで終わらせたいからってカッパも着ずに、傘もささずに墓参りしたのでしょう。先生のバッグにはタバコも吸わないのにライターがあって、あれは線香に火をつけるため。キャンディーや飴はお供え物としてあげた余り。雨の日に…ましてや学校に来る前の忙しい時間帯にわざわざそれをやったのは…。」

「七年前の十月七日の朝…生まれた子が死んだからだよお。」

「………。」

 荒川は数秒宮司を見つめて前の壁に視線を移した。宮司は両膝に両肘を乗せ、口元を隠した。

「変だよなあ。流産した子の為に墓を建てるなんてなあ。でもなあそれだけ、あたしからしたら待望の子だったんだよお。生きていたら七歳…ちょうど坂本が殺しまくった子たちの年齢になる。」

「宮司先生…。」

 気まずい沈黙の時間が流れる。

「まあそういう事だ荒川あ…悩んでいるのはお前だけじゃないって事だあ。」

 宮司は立ち上がり、もう行くわ、とでも言いたげだ。

「お前の事を一生音花が守る…、んで推理で一生、お前が音花を守る…そういう約束だろ?」

「何でそれを…!?」

 荒川は目を見開く。

「お前のお父さんから聞いた。立派な目標じゃないかあ。」

 宮司はまたもニヤニヤ笑う。

「父さんめ…。」

 荒川は額に手を当てうなだれた。

「まあそういうこったあ。推理は人を破滅させるし救いもするぅ。まだ若いんだしぃ、んな悩みは地面這いつくばって自力で解決しろよお。エラリーを超える日をあたしも期待してっからあ。」

 宮司はそういうと廊下を後にした。お尻をわざと左右に振りながら後ろ向きでバイバイと手を振る。

「はあ…。」

 荒川は天井を見上げた。


           *


 十月十二日火曜日、祝日の次の日。朝の八時四十五分。荒川と坂本の席だけが空席の教室。みっちゃんは空席になった荒川の席の後ろで教壇に立った宮司を見つめる。

「ええニュースで知ってる奴もいると思うがあ……。」

 みっちゃんは思わず耳を塞いだ。宮司の口から次から次へと真実が語られる。足立区で起きた連続殺人事件の犯人が坂本麻耶であったこと。荒川がその捜査をしていたこと。音花と荒川が許嫁であり、ふたりのこれまでの関係は全部演技であったこと。知っていたのは校長と担任の自分と帆坂だけであったことなどなど…。クラスから溜息や驚嘆の声があちらこちらから聞こえる。黒板に向かって左側、窓際にいる鷹羽は振り返って後ろの菅澤に問いかける。

「知ってた?」

「それが私も土曜日に初めて聞いた。もう隠す必要ないからってさ。そしたらユリの奴、話し終えたらいきなり走って行っちゃって…。後になってLINEで聞いたら、野反五公園で暴れる坂本を一人で制圧したってさ。」

「ええ…刃物持ってたんでしょ?やっぱユリって最強だわ。」

「最強通り越してサイボーグかも。」

 けたけた笑う二人の声が聞こえたのか、廊下側の一番後ろの席の音花が鷹羽と菅澤を睨む。その左横に座る帆坂がニヤニヤと笑う。

「まあそんなこんなで色々捜査に協力してくれた音花や帆坂…この場にいない荒川に拍手だあ!」

 クラスは謎の拍手に包まれた。荒川に対する純粋な敬意で拍手する者、未だに状況が飲み込めない者と様々だ。

 ホームルームが終わり宮司は出席簿を持って出ていこうとする。去り際にみっちゃん、音花、帆坂に決して美しくないウインクを飛ばす。それを見た音花と帆坂はケタケタ笑い、みっちゃんは顔を伏せる。

「まあそんなんだから皆これからよろしく!仲良くしようね!えっへっへっへ!」

 音花が教壇に立って皆に語り掛ける。クラスの人間は複雑な気分であった。これまで荒川をいじめてきた氷の美少女、足立区の悪魔などという異名を持った女が、天真爛漫な笑顔にフルモデルチェンジをしているのだから。

「えっへっへっへ!夏樹ちゃんだっけ!?仲良くしてね!」

「ちょっと音花さん!」

「えっへっへっへっへ!祥子ちゃんだっけ?男みたいに髪短いね!でも可愛いね!えっへっへっへ!」

「ちょ、ま、音花さん近いって!」

 飲んだくれのエロ親父のように、音花は女子に次々と抱きつき挨拶をする。男子にまでハグをしそうな勢いだったのを帆坂が止める。

「うわあ、あたしたちから見てもびっくりだわ。」

「ね、あんな無邪気に笑う子だったんだ…ユリって。つまりあたしたちまで騙されてたわけか。」

 鷹羽と菅澤が交互にしゃべる。一通り挨拶を終えた音花が二人の元にやってくる。

「えっへっへっへ!鷹羽ってなんでそんなにチビなの!?」

「なっ…人が気にしている事を!?」

「えっへっへっへ!でも可愛いね!目なんかくりっくり!」

「ちょっとユリ痛い!最強女子の腕力やばいって!」

 子供がばたばたと暴れるように、鷹羽は短い手足をバタバタさせる。

「あああんたはたまにイラっとするから素で接してたわ…。」

「ええひどい!」

 ようやく鷹羽を離したかと思うと、菅澤に向かって音花は冷めた口調で言い放った。菅澤は目を丸くして最高のツッコミを音花に浴びせる。その光景を自分の席で見つめる帆坂は微笑みながら溜息をつく。すると巨大なお団子髪の美少女が帆坂に近づいてきた。

「あら、みっちゃん…気分はどう?あれから落ち着いた?」

 一晩一緒にいたせいか、帆坂はみっちゃんの事を愛称で呼ぶようになった。

「帆坂しゃん…。」

 対するみっちゃんは帆坂を苗字で呼ぶ。これは彼女のポリシーなのだろう。

「ごめん、膝ば涙でぐっしょり濡らしてしもうて…。枯るー程泣いたけん…結構元気になった…。ほんなこつありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして!」

 目を閉じながら帆坂は鼻から息を吐きだす。するとみっちゃんの後ろから音花が抱き着いてきた。

「えっへっへ!みっちゃん!団子髪今日も可愛いね!これからよろしく!早速今日一緒に帰ろうか!…あ!…って言ってもあたし家近いからすぐ着いちゃうな!じゃあみっちゃんの家に行こうか!?野反五駅前の所でしょ?えっくんが言ってた!よし決まった!帆坂も来るよね!?」

「いいんや、二人で行っといで。」

 一限目の準備をしながら帆坂はやんわり断る。

「えーまあ良いか!じゃあ二人でゲームでもしようか!あたしの家にゲームいっぱいあるから!みっちゃんの家に行く前にあたしの家に寄って…ああ荷物が重くなっちゃうなあ。」

「あんたなら全部持てるでしょ。」

「何よ人をゴリラみたいに!」

「ゴリラの方が可愛く見えるわ。」

 みっちゃん越しに音花と帆坂は言い合う。みっちゃんは茫然と音花から伝わる体温を感じながら頭でぐるぐると考える。これが本当の音花ユリ、短気でわがままだけど友達を傷つける奴を決して許さない、かつての演技をしていた坂本のように。これは演技ではなく本当の姿、信じて良いのだろうか。

「よしじゃあ決まった!スマブラやったことある!?」

 天使のような美少女が再びみっちゃんの顔を覗いてくる。みっちゃんは握っていた拳をゆっくりと開く。

「うちゃスマブラん女王て言われた程ばい。じぇったいに負けんばい!?」

「おーしじゃあ受けて立とう!えっへっへっへ!」

 帆坂は二人のじゃれ合いを見つめる…子供が遊んでいるのを見守る母親のように。

        

        *


 今から十一年前、野反五公園。

「麻耶!やめとけ!そいつら中学生だぞ!?勝てる訳無えって!」

 幼稚園の制服が泥と砂で汚れ、荒川は地面に倒れながら叫んでいた。

「黙っててえっくん…こいつらまじ許さねえ…。」

 音花ユリは凄んだ顔で男子中学生数人を睨みつける。

「はあ!?幼稚園児がなに出来んだよ!?」

「マジで俺らに挑むの!?やば!?」

 男子中学生たちはケラケラと笑いながら音花を指さす。音花は幼稚園のブレザーを脱ぐと勢い良く右肩に掛ける。

「あたしの心配なんか無用だから…だってあたし、人類最強だからさ。」

「え?」

 音花は振り向きながらキラッと荒川に微笑むとブレザーを空に思いっきり投げた。直後に彼女は男子中学生たちに突進し、ブレザーが地面に落ちる頃には彼らは地面に倒れていた。

「は…?…何が起きた…?」

 男子中学生は鼻や口から鮮血を吹き出し、涙や糞尿をもらす者もいた。音花はふーっと溜息をつきながら荒川の方に歩いてくる。彼女のブラウスにはべっとりと返り血が付いている。

「えっくんは…私が一生守るからね!…だからえっくんも推理であたしを一生守って!」

「………うん…。」

 音花はくしゃくしゃの笑顔で荒川の手を取り抱き起こす。

「約束だからね!えっへっへっへっへ!」

「麻耶苦しい、離して…。」

 二人は西日に照らされながら歩き出す。

        

      *


 時は現代に戻り、十月十二日火曜日、夜七時頃。

「退院おめでとう!」

「待て待て抱き着くな!まだ痛いんだから!」

「ええ~うざあ~。」

 音花が玄関で荒川に飛びつこうとしたのを彼は制止する。音花はすねた様子で唇を尖らせる。

「今までみっちゃん家でゲームしてたんだって?」

 靴を脱いでいる音花の背中に荒川が話しかける。

「うん!いやああの子やっぱ面白いしゲームも強かったね!これから仲良く出来ると思うとワクワクしちゃう!えっへっへっへっへ!」

 音花は荒川を追い抜きリビングへと走り、学校のカバンとゲームのソフトを放り投げ、荒川はその音花の後ろ姿をボーっと見つめる。

「どうしたのえっくん?」

「ああ悪い…ぼーっとしちゃって…」

「大丈夫?また血い流し過ぎた!?」

「いやいや、もう血は足りてるって!」

「ああそうなの!?ああごめん、ゲームしてたから買い物まったく行ってないや!えっくんは家で休んでて!私すぐに買ってくるから!」

「ありがとう、そうさせてもらうよ…。」

 荒川はよたよたと寝室に歩いていく。音花は制服姿のままエコバッグをどこからか引っ張り出して玄関に急ぐ。荒川は音花の背中を見つめる。彼はなぜか幼稚園の頃、中学生男子を音花が返り討ちにした時の事を思い出していた。

(あの時からお前に惚れているなんて…言えないよな…。)




足立区の悪魔    了



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